2019-04-01から1ヶ月間の記事一覧
本書もウィリアム・アイリッシュ初期(1941年)の作品。200ページに満たない中編のような作品だが、冒頭から中盤にかけてのサスペンスは背筋を寒くさせるほどだ。主人公が記憶の空白期間を「黒いカーテンに覆われたようなもの」と感じたことからこのようなタ…
コーネル・ウールリッチ別名ウィリアム・アイリッシュという作家は、独特なサスペンス小説をいくつか書いた。「黒」を冠した題名が多かったのも、特徴である。代表作は3つと言われ、 (1)幻の女 殺人罪で有罪判決を受け、死刑が迫る友人のために、 彼のア…
第一次世界大戦の新兵器と言えば、航空機・潜水艦・毒ガス・戦車などが挙げられるだろう。「殺し合いともなれば、人間の発明の能力は無尽蔵」とUボートエースのペーター・クレーマーが話しているように新兵器は続々登場する。その中で航空機は最初は偵察に…
ソ連崩壊前夜の北大西洋、最新鋭原子力ミサイル潜水艦「レッド・オクトーバー」が亡命の意図を隠して処女航海に出発する。その日から延べ18日間の米ソ両国の暗闘を描いて、トム・クランシーは衝撃のデビューを果たした。非常に豊富な兵器についての知識、第…
「ミステリーの女王」アガサ・クリスティーは膨大な著作とファンを世に残したが、私生活は最初から幸福だったわけではない。ミステリーデビューに先だつ1914年、彼女はアーチボルト・クリスティー大尉と結婚(当時24歳)した。第一次大戦が終わり、1920年に…
イギリス人の好きなもの、年金・バラ・庭園づくり・紅茶・ミステリー。引退後は田舎に住み、土づくりからガーデニング、とりわけバラを作ってそれを眺めながらお茶の時間、雨が降ればロッキングチェアでミステリーを読み、そのうちにうとうと、というわけ。 …
シミュレーション・ウォーゲームには、空戦・海戦・陸戦という区分のほかに、戦略級・作戦級・戦術級という区分がある。もっと細かくなって戦闘級というのもある。剣闘士のゲームでは武器や防具のほか、剣闘士の手足までコマになっている。今回は、、僕がア…
シミュレーションゲームに出会うずっと以前、小学生のころにもゲームに凝っていた時期があった。一番熱中したのは「バンカース」というもの。後に「モノポリー」を子供向けに簡素化したものだと知る。手軽な世界征服を楽しめる「リスク」などと並んで、難易…
ボードゲームメーカーは、シミュレーション・ウォーゲームのほか、いろいろなゲームを作っている。一時期のシミュレーション・ゲームの流行が、ビデオゲーム等の台頭で廃れた後、アバロン・ヒルを買収したのは子供向けゲームを含む玩具メーカーであるハズブ…
シミュレーション・ウォー・ゲームの起源は、図上演習ツールである。日本海軍は真珠湾攻撃にあたっても、図上演習を行い戦果はあったものの味方の空母にも被害が出た。それでも海軍は作戦を決行、艦隊の損害無く米国の主力艦の多くを撃破することができた。…
「戦略・戦術・戦史Magazine」というのが、歴史群像という雑誌のコピーである。戦史マニアのNINJAとしては、非常に興味のある雑誌で実際10年あまり買い続けた。そのうちに「なんとなくワンパターンかな」と思うようになって、最近は買っていないが、バック…
本格推理小説の主人公は、おおむね探偵役である。ワトソン型の語り部や助手が付き添うこともあるが、推理や解決を複数の探偵がリレーしたり競争したりするものは珍しい。エラリー・クイーンは初期の短編「アフリカ旅商人の冒険」で一度だけ試みているが、堂…
パラオ諸島は第一次世界大戦後、敗戦国ドイツから戦勝国日本に割譲された。ほぼ日本の真南に位置し、南太平洋の中でも良港がある。基本的にはサンゴ礁の島で、いまでもほとんどの島が無人島だ。日本からのスキューバダイビング客も多い。 しばらく日本の統治…
ルース・レンデルは背筋の寒くなるようなスリラーを得意とする女流作家、代表作が本書「ロウフィールド館の惨劇」(1977年発表)だが、他にも質の高い諸作を残しているという。ただ僕はこれまで読んだことはなく、多くの書評では本書を高く評価していたので…
世は「昭和」の次の「平成」、さらに「令和」になろうとしている。その三年前、三笠宮が亡くなったというニュース映像で、宮の軍服姿を見たのを覚えている。三笠宮は第二次大戦の終結を、中国大陸で陸軍の参謀として体験したという。昭和天皇には、3名の弟…
イギリスには、女流ミステリ作家が多い。P・D・ジェイムズ、ドロシー・L・セイヤーズ、クリスチァナ・ブランド、マージェリー・アリンガム等々。いずれも忘れがたい作者たちだが、その中でも、質・量ともに「ミステリーの女王」と呼べるのはアガサ・クリステ…
第二次世界大戦の序盤から中盤にかけて、ドイツ軍の攻勢を支えたのは諸兵科連合の思想と制空権の確保というドクトリンだった。後者を担ったのは、Bf-109に統一された戦闘機隊だし、前者に寄与したのは急降下爆撃機Ju-87だった。 電撃戦で「大陸軍国」フラン…
ダシール・ハメットは、従来のミステリーの探偵があまりにも現実離れしていると考えて、プロの探偵を登場させた。「血の収穫」の主人公「おれ」はコンチネンタル探偵社のサラリーマン探偵。「マルタの鷹」の主人公サム・スペードは、仲間とふたりで探偵事務…
ミッドウェイを占領したとして、問題になるのはその基地維持のための補給である。ミッドウェイに一式陸攻などを配備すればハワイ・オアフ島は空襲圏内に入る。これを護衛する長距離戦闘機(零式艦上戦闘機)も日本海軍にはあった。 しかし一方、オアフ島には…
横山信義はもともと本田技研のエンジニア、大鑑巨砲主義の作家と呼ばれ1992年「鋼鉄のリヴァイアサン」でデビューしている。第二次世界大戦の海戦を中心にした架空戦記を多く発表し、僕はこの種の作家としては比較的真っ当なアプローチをしている人だとと思…
ギャビン・ライアルといえば、「深夜プラス1」「もっとも危険なゲーム」などで有名な、冒険・アクション作家である。これらの作品は特定の主人公(例えばプリンス・マルコ)を持たず、一人称形式でサスペンスを盛り上げるものだった。シリーズ主人公ものの…
学生時代にスーダンからの留学生と交流し、社会人となってから何度かアメリカ西海岸への出張は経験したものの、基本的に「まるっきりドメスティック」な生活を僕は送っていた。歴史(戦争史)は好きだったので、本も読んだしゲームもした。それでも、現代の…
イギリスは、階級社会だ。21世紀に入っても、通うスーパーマーケットによって階層が分かるらしい。妙な話だが、言葉も違うという。昔から"King's English" というのがあって、これが貴族の言葉だろう。では庶民は何を話すのか?あまり経験がないので何とも言…
西海岸の有名都市と言えば、ロサンゼルス・サンフランシスコ・シアトルあたりだろう。ハイテクの香りもあるビジネスの街だ。一方東海岸で3つというと、ワシントンDC・ニューヨーク・ボストン。政治の中心DC、金融はじめビジネスはニューヨーク、そして…
エラリー・クイーンという筆名を持つうちのひとり、フレデリック・ダネイは編集者としても巨大な足跡をミステリー史に残した。彼は「ミステリー・リーグ」という雑誌を創刊し一度は失敗するものの、再び「エラリー・クイーンズ・ミステリー・マガジン」(E…
「砂漠の嵐」作戦は、1991年1月17日に空爆やミサイル攻撃で幕を開け、2月24日に地上戦に突入月内にクウェート全土を奪還して事実上終了した。この短い期間に、多国籍軍側は様々な兵器を投入、新兵器のテストをし旧兵器の最後の活用もした。 ◆空戦 多国籍軍は…
イラクがクウェート侵攻をしたとき、世界最強アメリカ軍の統合参謀本部議長の職にあったのは、コリン・パウエル将軍だった。ジャマイカ系アメリカ人であるパウエル将軍は、黒人として初めて軍のトップに昇り「ガラスの天井」を破った人物である。 統合参謀本…
1990年8月2日、イラク・クウェート国境に集結していたイラク軍が国境を越えて侵攻。瞬く間にクウェートを占領してしまった。イラクは人口1,650万人、常備軍も約90万人持っている。人口170万人、常備軍2万人のクウェートに抵抗の余地はほとんどなかった。 T…
シリア紛争の影響やや強権すぎる運営に批判が集まり不安定になりつつあるエルドアン大統領のトルコだが、ジェラール・ド・ヴィリエの大連作「プリンス・マルコ」シリーズの第一作もイスタンブール周辺が舞台である。1965年当時も政情不安な東西の接点だった…
ロバート・B・パーカーのレギュラー探偵スペンサーは、かなりおせっかいな探偵である。僕が最初に読んだ「失投」では、レッドソックスのエースが八百長をしているのかどうかの調査を球団に依頼される。エースは妻の秘密をネタに強請られて、泣く泣く「失投…