新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2019-05-01から1ヶ月間の記事一覧

第二次太平洋戦争(後編)

ハワイを占領し西太平洋全てを手中にした中露同盟に対して、有力な戦闘部隊のほとんどを失った米軍に味方するのはイギリスとオーストラリアなど旧英連邦の国だけになってしまう。ドイツなど欧州大陸諸国は中立を保っているとあるが、朝鮮半島はもとより日本…

第二次太平洋戦争(前編)

ひと昔前だったらこのような小説はSF(Science Fiction)とよばれていただろう。最近Book-offを巡っていても、(もちろん新刊本書店でも)SF小説の凋落は著しく感じられる。理由は簡単で、SFのように思っていたことが、現実になってしまったことがある…

BEM(Bug Eyed Monster)との闘い

SF(Science Fiction)は、子供の頃こそ好きだったような気がする。それも書籍ではなく、TVドラマとして。「宇宙家族ロビンソン」や「サンダーバード」は大好きだった。中学生になると、「Star Trek」以外のSFものは見なくなった。もっぱら、謎解き本…

ハリウッドの魔力

正統ハードボイルドの探偵フィリップ・マーロウは、ハリウッドを舞台に活躍する。これには、作者のレイモンド・チャンドラーが映画業界で働いていたことも影響しているだろう。ミステリー界も、映画の世界に割合近いのだ。本格ミステリーの分野でも、S・S…

ビン・ラディンを狙った作家

原題の"Black Site" とは、アフガニスタン・パキスタン国境のカイバル峠に置かれた(という設定の)捕虜収容所を示す。タリバンなどの中間指導層を捕えておく、極秘の施設である。よくある落ちぶれた元特殊部隊員が、友人を救うために厳しい訓練で自らを叩き…

仮装巡洋艦

第一次世界大戦と第二次大戦でよく似た状況になったこととしては、イギリス周辺から大西洋にかけての海域における通商破壊戦が一番ではないかと思う。イギリスは我が国同様島国(海洋国家)であり、大陸からの直接侵攻は難しいとしても、補給を止められれば…

ウーマンリブの闘士

ハードボイルド小説と言えば、普通は男の世界。ハンフリー・ボガートのように、バーボンをあおり葉巻をくゆらす。半熟卵のようなベトベトした感傷はないので、女は添え物的に居ればいい、という次第。ハメットが「血の収穫」を著わしたのが1929年で、それか…

イギリスの田舎町が抱える秘密

イギリスには女流ミステリー作家が多いとも書いた。男性作家も含めて、落ち着いたゆったりした作風で、学生時代には理解できなかったこともある。今回ご紹介するのは、まさに大人のミステリーである。街の暮らしをゆったりと描きながら、その中での人間同士…

マンハッタン、1944

有名なサスペンス作家であるウィリアム・アイリッシュ(本名コーネル・ウールリッチ)の作品中、ベスト3と言われるのが「幻の女」「黒衣の花嫁」「暁の死線」であることは、以前にも紹介した。 本書は高校生の時に読んで、あまり「名作」とは思えなかった。…

現場指揮官の心得

柘植久慶という作家は、多くの戦争/戦闘小説のほかにもビジネス書やサバイバル書を書いている。まだ30歳代だったころ、出会ったのがこの本。「戦場のサバイバル」という著作は、そのままウォーゲームでいう戦闘級の教本だが、本書は戦術級の教本でもある。…

人生のリセットボタン

僕は大学を選ぶにあたり、当時できたばかりの「Computer Science」学科に入り、IT屋として足掛け40年暮らしてきた。企業に入って最初の10年は技術で、次の10年はお金を回すことで、次の10年は社内の人脈を生かして、そして今は社外も含めた広めのネットワ…

マエストロの習作

本書は1980年代のマンハッタン、レンタルビデオ店で働く20歳のパンクな女の子が100万ドルのお宝探しに島中を駆け巡る青春小説である。彼女はルームメイトと共にビルの屋上を不法占拠して暮らしている。映画好きで、それゆえにレンタルビデオ店で働いているの…

トム・クランシーの真価

トム・クランシーはデビュー作「レッドオクトーバーを追え」で北大西洋での潜水艦戦を描いて衝撃的な登場をした。ソ連の最新鋭戦略原潜が西側への亡命を図って行方をくらまし、ソ連海空軍がこれを必死に追うというストーリーだった。膨大な軍事知識がちりば…

「謎」というギリシア語

ナチス・ドイツの発明品のひとつに暗号通信機「エニグマ」がある。語源はギリシア語で「謎」という。人を食ったような命名ではある。暗号通信は、軍事上の最高機密といっていい。戦略方針や作戦目標が筒抜けでは、いかに優秀な装備・訓練を施した軍隊でも勝…

代表的なドキュメンタリー戦記

児島襄(こじま・のぼる)という作家がいる。僕も最初「こじま・じょう」と呼んでいたが、そう言った編集者が作者に殴り倒されたともいう。相手は190cm、120kgの巨漢である。僕は編集者でなくてよかったと思う。 この「日露戦争」は、全8巻の大作である。僕…

幻の英国本土上陸作戦

1940年ナチスドイツが大陸を席捲しひとりイギリスのみがヒトラーに抵抗していたころ、英仏海峡を渡ってドイツ軍が殺到しているという危機は現実のものになりつつあった。実際「あしか(Sea Lion)作戦」がドイツ軍によって企画され、制空権が握れれば、決行…

最強の首相官邸

官房長官として歴代最長在位記録を更新し続けているのが、現職の菅義偉議員である。第二次安倍内閣の屋台骨であり、それでいて出過ぎない「出来る人」との印象が強い。こわもての政治家の典型のように僕が思っている古賀誠元議員が「菅は政治というものがわ…

ミッション「生死を問わず」

ロバート・B・パーカーのスペンサーシリーズは、最初のころ得意分野を探すように作風・テーマを変え続けた。デビュー作「ゴッドウルフの行方」は、大学の街ボストンを舞台にレイモンド・チャンドラーばりのハードボイルド探偵を描いたものだった。第二作「…

正統派ハードボイルドの系譜

1929年、ダシール・ハメットが「血の収穫」を発表してから、リアリティのあるハードボイルドミステリーが興隆してきた。曰く「殺人をしゃれた花瓶から引き抜いて、裏通りに投げ出した」らしい。これまでのミステリーが富裕層の豪邸で展開されていたところ、…

Their Finest Hour

この言葉は、イギリス首相ウィンストン・チャーチルが、1940年のイギリスが一番苦しい時に言ったものらしい。前年ポーランドを数日で片付けたドイツ第三帝国は、この年ノルウェー・デンマーク・オランダ・ベルギー・ルクセンブルクから大陸軍国であるフラン…

最初で最後のミステリー

三谷幸喜という人は才人である。何年か前「清須会議」という映画を見たが、あれだけの個性的な俳優/女優を有名な歴史上の人物にあてはめ、新解釈も加えながら組み立てたストーリーは出色だった。特に鈴木京香演じるお市の方の恐ろしさが印象深い。 彼が20年…

飛び交う.45ACP弾

ハードボイルド小説というジャンルは、ダシール・ハメットが始めたと言われ、より文学的なチャンドラー、ミステリーの色濃いロス・マクドナルドなどの後継者たち(全く作風は違うのだが)を含めてそのジャンルとして区分されている。 「ハードボイルド」の意…

小説・映画・ノベライゼーション

アリステア・マクリーンは「女王陛下のユリシーズ号」でデビューし、イギリスの軽巡洋艦「ユリシーズ」の活躍と最期を描いてダグラス・リーマン流の海戦もの作家の登場かと思わせた。しかし、第二作は有名になった「ナヴァロンの要塞」、映画化され大ヒット…

戦略上の要衝にあるゆえに

沖縄の選挙では与党は3連敗している。直近の衆議院議員補欠選挙も、現地出身の元大臣を擁立しながら政治経験のないジャーナリストに敗れた。一方で辺野古基地拡張工事はつづいていて、正直こじれきった事態で、先行きがを憂慮される。ただ僕は普天間基地周…

サイバー空間、2001

「どんでん返し職人」ジェフリー・ディーヴァーは、人気のリンカーン・ライムシリーズは1年おきに発表するとして、その間には単発ものを発表している。2001年に発表されたのが「青い虚空」。護身術のカリスマのような女性が、警戒していたにもかかわらず惨…

名優ドルリー・レーン

匿名作家というのは、いくらでもいる。ヴァン・ダインが筆名を使い、その正体を秘した理由は以前に紹介した。しかし新聞記者にかぎつけられ、豪華な食事をごちそうさせられるハメに陥ったこともある。貧乏美術評論家であるはずのW・H・ライト氏が、分不相…

世界平和を乱す疾病

相変わらずトランプ先生の傍若無人さは止まらない。イラン核合意はカミクズだと言い、ペルシア湾の緊張が高まっている。中国は「約束を破った」そうで、全輸入品に25%の追加関税をかけた。北朝鮮の飛翔体については、「深刻だ」と言ったかと思えば「発射に…

アイソラの好敵手

エド・マクベイン「87分署シリーズ」は、分署刑事たちのチームプレイを描いた大河ドラマのようなものである。刑事やその関係者は、殉職含めて入れ替わってゆく。読者は刑事たちになじみができて、ひいきの刑事が活躍すると嬉しくなる。 作者はシリーズ12作…

「大惨事」シリーズ第一作

以前タイタニックが生まれた町ベルファストを訪問して、犠牲者名を刻んだ碑に案内された。市庁舎の中にはタイタニックの内装を再現した部屋がいくつもあり、すごいな~とだけ当時は思っていた。ところがある本を手にしたところ、内装や料理まで丁寧に記述し…

ペダンティックな探偵

S.S.ヴァン・ダインは、生涯に12作しか書かなかった。その名前も、本名ではない。美術評論家であった、ウィラード・H・ライトは、病気療養中膨大な量のミステリーを読み、こんなものなら書けるかもしれないと思ったという。硬い専門書を何冊も出版している彼…