新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2019-06-01から1ヶ月間の記事一覧

第六天魔王の秘密

加藤廣という歴史作家は、中小企業金融公庫や山一證券を経てビジネスコンサルタントをしていたのだが、2005年75歳の時に「信長の棺」でデビューしている。信長公記の作者太田牛一を主人公に、本能寺の変の真相に迫った出色の歴史ミステリーである。 「信長の…

副砲の役割

戦艦は、20世紀前半の「最終兵器」だった。空母機動部隊や長距離爆撃機、核兵器が現れるまで、保有する戦艦の質×量は、国力の大きな指標だった。戦艦の基本性能は、搭載している巨大な大砲のそれと言っていい。戦艦とは、巨砲を運ぶプラットフォームである。…

ミステリーの長さ

ミステリーの創始者と言われるエドガー・A・ポーが著わしたのは、短編小説だけだった。(翻訳の文庫本で:以下同じ基準)20~40ページくらい。中学生なら興味を切らさず、読み終えることができる長さである。その後ウィルキー・コリンズが500ページ級の「月…

インディアナポリスの探偵

ハメット・チャンドラー・マクドナルドという正統派ハードボイルド小説も、第二次大戦後特に1970年代になるとかなり変わってきた。以前紹介したロバート・B・パーカーのスペンサーシリーズもそのひとつだが、マイクル・Z・リューインのアルバート・サムスン…

安楽椅子探偵のサロン

アガサ・クリスティーは、長編小説だけでなく戯曲や短編小説でも多くの名作を残した。短編集の数も多い。本書は、その中でもミス・マープルものを集めた短編集である。クリスティーは本書の序文で、「ミス・マープルは私の祖母に似ている」と深い愛着を示し…

太平洋の長距離戦闘機(後編)

第二次世界大戦も後半、米国の巨大な工業力と技術力は続々と新鋭兵器を開発・配備させることができた。日本が結局持つことができなかった四発の戦略爆撃機B-17⇒B-29、空母艦隊に随伴可能な高速戦艦アイオワ級、対空火力を飛躍的に向上させる近接信管…

太平洋の長距離戦闘機(前編)

もうじき、真珠湾作戦から78年になる。世界一広い太平洋を巡って、2つの海棲国家が覇権を争った。当時すでに軍縮条約の期限は切れていたが、条約に定めた「英・米・日の主力艦等の比率は5・5・3」というのは割合実態を表していて、この3国が世界をリー…

カナダからのミステリー

2年前初めてカナダという国を訪れ、トロントという街で数日過ごした。ホテルの側に野球場があったり、ホットドッグ屋台に人が列を作っていたり、まあアメリカと大差はないなと思った。物価もニューヨークなどよりは安いような気がして、好意を持った。それ…

講談ではない「三国志」

日本人になじみのある「三国志」というのは、正史ではなく後年編纂された「三国志演義」をベースにしているものが多い。「演義」では、主人公は三国中最大の国「魏」を作った曹操ではなく、最初に滅んだ国「蜀」の劉備とその仲間たちである。 従って、劉備は…

「ズムウォルト」の目指した戦い

アメリカ海軍の新鋭駆逐艦ズムウオルト級のネームシップ「ズムウオルト」が、いよいよ就役して3年になるが、相変わらず「初期不良」のせいか母港をはなれられないようだ。排水量16,000トンというのは、1世紀前の基準では「戦艦」にあたる。事実上最初のス…

拡張されたパナマ運河

パナマ運河の拡張工事が終了して2年になる。報道によれば、コンテナ積載量5,000個までの船舶しか通行できなかったが、今後は13,000個積載船舶も通行可能となるという。もう少し詳しく見てみると、通行できる船舶のサイズは、全長:294m、全幅:32.3m、喫水…

新鋭が挑む将棋のタイトル戦

作者の斎藤栄は、東京大学将棋部出身。公務員在職中からミステリーを書き始め、三度目の江戸川乱歩賞候補となった1966年の本書で、乱歩賞を得た。ちょうど藤井七段の登場で将棋界がブームに沸き立っており、本書を45年ぶりに読んでみた。 僕も中学生までは将…

ナポレオン軍団の内側

コナン・ドイルは、シャーロック・ホームズシリーズで「サー」の称号を貰ったはずなのだが、実は(自分より有名な)ホームズが嫌いで、SFから怪奇ものまでいろいろな作品を残した。広範な知見と好奇心を持っていたことは間違いがない。 本書は、ナポレオン…

タンガニーカ湖のほとり

アフリカ中部、南北に長いタンガニーカ湖の北東端にその国はある。面積は日本の2県(岩手県・福島県)を合わせた程度、人口は現在1,000万人ほどである。かつては北に国境を接するルワンダと共に、ベルギーの植民地であった。1962年にベルギーから独立、王制…

近衛連隊、最前線へ

防衛省(当時は防衛庁)は山手線の中心に近い市ヶ谷にあるのだが、これは官僚組織。山手線内にある実戦部隊というのは、陸上自衛隊第32普通科連隊だけなのだそうだ。自衛隊は憲法の規定により軍隊とは呼べないので、「自衛」のためのものという名を付けられ…

オリジナルの007

007の印象はと問われると、どうしても再三放映された映画を思ってしまう。映画は最新作の「007スペクター」までで24作品。約50年間続いている。しかし、原作者のイアン・フレミングはボンドものの長編を映画の半分12作しか書いていない。彼は1953年に…

「ふ」号兵器の後継者

昨年初めて行った国イスラエル、建国以来周辺国からの有形無形の圧力を受けながらしぶとく生き延びている国であることを、現地で直接感じている。トランプ先生がユダヤ教徒である娘婿への配慮か、福音派の票が欲しかったせいか、イスラエルに傾倒してアメリ…

「なっちょらん」

新政府の要である陸軍大将西郷(吉之助改め)隆盛の側で、陸軍少将に就いた桐野利秋であるが、与えられた豪邸や年俸は「身に余る」などと言うものではなかった。月給200円は、職人のそれが7円以下だったというから法外なものである。金は天下のまわりもの、…

唐芋侍、京へ行く

幕末から明治維新にかけては動乱の時代であったが、戦国時代のように大規模戦闘が頻発したわけではない。蛤御門の変、鳥羽伏見の闘い、会津戦争、函館戦争、西南戦争くらいが、正規戦と呼べるものだと思う。上野に彰義隊がこもった件にしても、佐賀の乱/神…

ユダヤ旅団の「新十戒」

ホロコーストという言葉はナチスによるユダヤ民族への迫害、民族浄化計画を指すことが多いが、もともとはユダヤ教の獣を丸焼きにして供える祭りのことを示すギリシア語だという。ナチス・ドイツ勢力下の広大な地域(西はフランスから東はウクライナまで)で…

アイソラでの人種差別

エド・マクベインの「87分署シリーズ」も、33作目になった。最初の作品「警官嫌い」から23年が経ち、何人かの刑事が殉職した。例によって不死身のキャレラ刑事は主役として活躍を続けているが、23年間昇進することなく二級刑事のままである。 ろうあ者の妻…

天使と悪魔、弁舌の対決

二人の40歳代の男性が本書の主人公である。ひとりは悪魔的な犯罪者アーロン、ウソをつかせたら右に出るものなしと称されている。もうひとりは天才的な弁護士テイト、欲があればドナルド・トランプ並みの財を成していたとある。(大統領になれるとは書かれて…

日本の軍備への教訓

防衛省の概算要求は史上最高額になった。米国からのイージスアショアをはじめとする装備購入が多いのを、問題視する人たちもいる。一方で自衛隊員の充足率は低いままで、定年を延ばさないと最低限の要員も確保できないともいう。 北朝鮮の非核化など幻想だと…

探偵小説、日本の夜明け

ミステリーの本場はやはり欧米、なかでもイギリスとアメリカが双璧である。日本はこの両国との関係が悪くなり、やがては戦争に突入する。英語は敵性語であり、使用が禁じられた。あほらしい話だが、野球も「ストライク」といえず「よし1本」などと言い替え…

誘拐という重犯罪

ウィリアム・P・マッギヴァーンは第二次世界大戦後にデビューし、1ダースあまりの警察小説を書いた。そのうちのいくつかは映画化されている。本書は彼の代表作のひとつで、マンハッタンを舞台に富豪の孫娘の誘拐事件に挑むFBIの捜査を描いたものだ。 19…

都市インフラと軍事構想

いつもお世話になっている地下鉄や地下街、そこにこんな秘密や歴史が隠されているとは思いもしなかった。以前NHKの番組「ブラタモリ」が東京駅周辺の地下街を特集したものを見て、歩きなれた大手町や八重洲の地下街の裏側を少し知ったのだが、本書はその…

ヨークタウンは三度死ぬ

太平洋戦争勃発当時、アメリカ海軍は7隻の大型空母を持っていた。巡洋戦艦改装の「レキシントン」と「サラトガ」、旧式になりはじめていた「レンジャー」、新鋭艦の「ヨークタウン」、「エンタープライズ」、「ホーネット」。これにやや小型の「ワスプ」で…

これぞ日本のハードボイルド

小鷹信光という人は、評論家/翻訳家というのが普通の認識だと思うのだが、伝説のハードボイルド小説も書いている、それが本書「探偵物語」。かつてTVの連続ドラマとして放映されたものの原作である。僕もTVで見た記憶はあり、故人となった松田優作、成…

セントメアリミード村の老嬢

アガサ・クリスティーは、1920年「スタイルズ荘の怪事件」でデビューした。この時の探偵役はエルキュール・ポワロ。ベルギー警察のエリート捜査官で、諜報活動にも関与したことがある。第一次欧州大戦でベルギーは全土が戦火に覆われ、対岸のイギリスに避難…