新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2020-01-01から1年間の記事一覧

軽妙だが深淵なモノローグ集

脚本家で、舞台・映画・TVドラマと八面六臂の活躍を続ける才人三谷幸喜が、たった5日間の「会議」を描いたのが本書。一代の天才織田信長が明智光秀に討たれ天下統一に暗雲がさしたが、その光秀も討たれ「Beyond信長」を決める場になったのは、戦場ではなく…

とどめはEUそのものの病

フランスや英国の視点から、EUの課題を勉強してきた。多くの国が言うのは「ドイツの一人勝ち・自分勝手」ということ。ユダヤ系フランス人のトッド先生などは、「メルケルのドイツ第四帝国」と呼ぶ。そこでドイツ事情に詳しい音楽家の川口恵美さんの書を読ん…

第三次世界大戦に備えて

中東で、アフリカで、アジアで・・・紛争の種はくすぶり続けている。世界中が相互不信に陥っている印象すらあって、どこかで上がった火の手が世界を覆ってしまうかもしれないと、僕は危惧している。 20世紀、人類は二度の世界大戦を経験した。今世紀三度目が来…

この人も「小さな政府」論者

本書は「ローマ人の物語」など数多くの著作で知られ、紫綬褒章や文化功労章など数々の「勲章」をお持ちの塩野七生さんのエッセイ集。時代的には2005年ころで、世界ではイラク戦争、日本では小泉・竹中改革が進行していた。イタリアに憧れ、イタリアに住み、…

マニピュレーションの研究

本書の作者深谷忠記の作品を、ずいぶんたくさん紹介してきた。とはいえ著作は80冊を越えているので、その何分の一に過ぎないが。作者はもう80歳に近いはずだが、なかなかの健筆である。2010年代になってから、「文庫書下ろし」が目立ってきた。以前紹介した…

情報リテラシーを磨くこと

本書も先月出版されたばかりの本、当初1万部以下の予定だったのが10倍増刷しているという。これも著者ではないが関係者から廻してもらって読んだ。米国在住の病理学者峰博士に、編集Yことジャーナリストの山中氏がSkypeでインタビューしてまとめたものであ…

クリスマスの教会バザー

本書は、ジル・チャーチルの「主婦探偵ジェーン・ジェフリイもの」の第二作。前作「ゴミと罰」でコミュニティへの通いの家政婦殺しを解決したジェーンが、ふたたび殺人事件に巻き込まれる。ジェーンと親友シェリイは、協力してクリスマスの準備に忙しい。彼…

スコットランドの寒いイブの夜

ミステリーの女王アガサ・クリスティは、英国の地に多くの後継女流作家を遺した。米国にも多くの女流ミステリー作家はいるのだが、社会派ミステリーだったりユーモアミステリーだったり、時にはハードボイルド/警察小説を得意とする人もいる。それに比べて…

サイバー戦争への覚悟

本書も今月20日に出版されたばかりの本、これも著者からいただいたものだ。先月2012年発表の「サイバーテロ、日米対中国」を紹介した、慶應大学土屋教授の近著である。著者は(お読みになったかどうかは知らないが)僕の拙劣なコメントも莞爾と許していただ…

直木賞に輝いた短編

2ヵ月前、大家藤沢周平の作品を初めて読んだ。歴史小説はあまり読んでいないのだが、さすがに凄いなと思った。そこでもう1冊、短編集を買ってきた。本書には、「オール読物」に1971年から1973年までの間に発表された5編が収められている。 この中の4編が…

Scilly諸島での冒険譚

アンドリュー・ガーヴは、本格ミステリー「ヒルダよ眠れ」でデビューした。被害者ヒルダは良妻賢母だった、なぜ殺されたのか?この謎を追う探偵役の前で、被害者のイメージが崩れていく過程がとても面白いサスペンス調の作品だった。 しかし作者はその後、本…

8人のネクサス6型

以前「地図にない町」を紹介した。SF・ファンタジー作家フィリップ・K・ディック。40編ほどの長編と、かなりの数の短編(短編集は20冊以上)を遺した。20歳代の頃から小説を書き始め、1955年の「偶然世界」でSF作家への道を定めた。1963年には「高い城の男」…

三色の豚の貯金箱

日本では紹介された作品が少ないシャーロット・アームストロングだが、1942年に劇作家から転身してミステリーを書き始め、30作ほどの長編を残した。彼女はミシガン州で1905年生まれたというから、二人のエラリー・クイーンと同い年である。 本書は1969年に亡…

ピアニスト41歳の迷い

本書(1980年発表)は、カメレオンのように作風を変えるポーラ・ゴズリングの第三作。「逃げるアヒル」でアクションものを、「ゼロの罠」でエスピオナージを発表して、本書「負け犬のブルース」は音楽界を深く掘り下げたラブ・サスペンスというべきだろうか…

日本の野球界、その未来

今年は「COVID-19」の影響で、異例づくめの野球界だった。例年のような高校野球全国大会は開催できず、プロ野球も試合数を減らして6月開幕。観客の入りも制限され、鳴り物入りの応援もNGである。プロ野球ビジネスにとっては痛手の年になった。 それ以前から…

東京・名古屋、1962

大家ではあるが、鮎川哲也の長編ミステリーは22編しかないのだそうだ。そのうち20編には、レギュラー探偵の鬼貫警部か星影龍三が登場する。作者はアリバイ崩しものを鬼貫警部・丹那刑事のコンビを主人公に、密室殺人など不可能犯罪ものを星影龍三を探偵役に…

千の顔と九の命を持った男

本書(1996年発表)は、ジャック・ヒギンズの「ショーン・ディロンもの」の1編。これまでに「嵐の眼」「サンダーポイントの雷鳴」「密約の地」を紹介してきたが、いずれも初代「グレイマン」ともいえるディロンが活躍する物語だった。しかしその中でも、デ…

雑誌「幻影城」が生んだもの

「幻影城」というのは江戸川乱歩のミステリー評論のタイトルなのだが、同じ名を冠したミステリー雑誌があった。1975年創刊というから僕は大学生になったばかり。一番ミステリー熱の高かったころではあるが、あまり日本の雑誌には興味も財布も向けなかった。…

在日中国人が見る中国

2018年発表の本書は、北京大学・香港中文大学への留学経験のあるジャーナリストの著者が、70万人もいるという在日中国人にインタビューしたものである。かつて在日中国人といえば、中華料理店のコックに代表されるようなエッセンシャルワーカーのイメージが…

ヤクザ・Tokyo・日本刀

寡作ながらリアルなバイオレンス小説の旗手であるスティーヴン・ハンター、有名なのはアール・スワガーとボブ・リー・スワーガー父子を主人公にしたシリーズだ。この親子は共に海兵隊出身、ボブ・リーはヴェトナムなどで「ネイラー」とあだ名される凄腕のス…

そして、イギリスの病

昨日フランスの識者の目から見た欧州の問題を取り上げたのだが、今日は英国駐在の日本人が見た英国の病と欧州の問題を見てみたい。筆者は産経新聞社の記者で、かつてモスクワ支局長を務め、本書発表(2016年)の時点でロンドン支局長の職にある。昨日のトッ…

ドイツの病、フランスの病

本書は以前「グローバリズム以後」を紹介したフランスの「知の巨人」エマニュエル・トッドが、欧州について語った記事を集めたものである。トッドは歴史人口学者で家族人類学者。本書でもドイツの長男継承の家族主義とフランスの核家族化個人主義を比較して…

酔いどれ弁護士と仲間たち

米国のユーモアミステリー作家であるクレイグ・ライスの作品は、これまで読んだことがなかった。1939年発表の本書でデビューした作者とレギュラー探偵J・J・マローンは、作者が亡くなるまでの間に12冊ほどで活躍する。本格ミステリーの本家英国には多くの女流…

原中将の「軍備改変」構想

太平洋戦争はほとんどが島嶼の争奪戦で終始し、空母艦隊や水陸両用戦部隊の活躍ばかりが目立った。従って「日の丸戦車隊」がその威力を見せたのは、序盤のマレー半島電撃戦くらいのものである。もちろん欧米の戦車と平地で戦えば、全く相手にならなかったこ…

Command Magazine

SPIやアバロンヒルのゲームを買いあさっていた時代は、おおむね30年前に終わってしまった。一つの理由は箱が大きい「Big Game」が増えてきて、置き場所が無くなったこと。もう一つは、仕事が忙しくなってゲームに割く時間がなくなったことだ。 僕だけでなく…

戦場を制したもの(~1942.1)

第二次世界大戦、特に欧州大戦の陸戦の花形は「戦車」だった。実際に戦場を制したものとしては「砲兵」が挙げられるのだが、撃つ方からしてみれば戦果がどれ程挙がったかは後にならないと分からない。戦車戦なら、目の前の戦車が煙を吹けば勝ったと分かる。…

地球という乗り物で未来へ

本書もこの10月末に出たばかりの本、なぜ読めたかというとこれも筆者と長い付き合いだったから。白井均氏は企業系シンクタンクの長を長く務めた人。偶然にも同期同窓だが文系・理系の違いがあり、学生時代に出会っているわけではないし、仕事の分野が接して…

海軍築城設営戦の教訓

先月「軍艦メカ開発物語」で日本海軍の制御技術について勉強した話を紹介した。本書は同じく土木工学についての好著である。著者は日本大学工学部土木工学科を卒業し太平洋戦争中の1942年に海軍施設系技術士官の第一期生として任官している。終戦時、海軍技…

壊れた家庭が重なり合って

心理サスペンスの女王、ルース・レンデルの1984年の作品が本書。作者には本格ミステリーのウェクスフォード主任警部シリーズとノンシリーズがあり、ノンシリーズは「背筋も凍るサスペンス」が売り物。どちらかというとノンシリーズが彼女の作家としての地位…

科学捜査ドラマの決定版

何度かNCIS(ネイビー犯罪捜査班)の紹介をしているが、同じCBS系列で少し先輩格の捜査ドラマと言えば、CSI(科学捜査班)が挙げられると思う。両者はこの種のドラマのTOP争いを長く繰り広げた。 CSI:2000~2015 ラスベガスの科学捜査チームの活躍を描く。C…