2020-08-01から1ヶ月間の記事一覧
何度か深谷忠記の作品を取り上げているが、下記の記事で書いたように壮&美緒シリーズは探偵役は魅力的なのだが素人探偵ゆえに事件への関わり方が難しい。そこで作者は「ハーメルンの笛を聴け」などの単発ものミステリーを二作に一作ほど書くようになってい…
本書は独特な作風で知られるドナルド・E・ウェストレイクの短編集、「奇妙な味」の短編ミステリーを中心に13編が収められている。1978年の発表だが、内容は時間や洋の東西を越えたもので、現代の東京に置き換えても(携帯電話・スマホを除いては)そのままミ…
以前「猿来たりなば」などを紹介した、エリザベス・フェラーズのデビュー作が本書。作者は、本格ミステリー黄金期の最後に現れた英国の女流作家である。息の長い作家で、90歳近くで亡くなるまでに75冊ほどの長編小説を残した。ただ日本では、本書のようなト…
IT産業に身を置きながらもシミュレーションゲーム好きで軍事ヲタク指向を持っていた僕は、どうしても「情報戦・諜報戦」に興味を持つことになる。仕事の場で軍事知識が役立った最初が「湾岸戦争」、海外ビジネスにちょっとだけ絡んでいたので開戦時期やその…
「北京の55日」という大作映画がある。1900年の清朝末期の義和団事件を描いたもので、主演は米国海兵隊のマット・ルイス少佐役のチャールトン・ヘストン。この作品には、伊丹十三が演じた日本陸軍の柴五郎中佐も登場する。エヴァ・ガードナー(ロシアの男爵…
作者の大谷羊太郎は、大学在学中プロミュージシャンとしてデビューし、克美しげるのマネージャーもしていた。4度の江戸川乱歩賞挑戦で、「殺意の演奏」(1970年)でついに受賞。社会派ミステリーが主流だった時代に、トリックを前面に出した本格ミステリー…
本書はハーラン・コーベンのマイロン・ボライターものの第五作。マイロンは小さなスポーツエージェント会社の経営者。扱うスポーツアメフト・テニス・バスケットボール・ゴルフときて、今回は再びバスケットボール。ただいつものようなスポーツ界の内幕もの…
「ウィチャリー家の女」「さむけ」などの正統派ハードボイルドで知られるロス・マクドナルド晩年の作品が本書(1973年発表)。このあと「ブルー・ハンマー」(1976年発表)という作品があるが、1983年に亡くなった。享年67歳。 ハメット・チャンドラー・マク…
本書の著者寺島実郎先生には、2005年ごろ初めてお会いしている。当時から押しも押されぬ経済人で、グローバルな視点で大局を読み解く人だった。ある業界団体の政策研究会にデジタル屋として入ったのだが、その会の会長をされていた縁である。本書の発表の199…
本書はアガサ・クリスティの「ポワロもの」で、1935年の発表。作者の脂がのりかけたころの傑作と評される作品である。これ以前のクリスティは、「アクロイド殺害事件」のような一発ものを書けても安定した作品群は書けないと思われていたフシがある。そんな…
「週刊広場」のアルバイトで、浦上伸介のアシスタントを務める前野美保は明聖女子大の4年生。銀行員だった父親が殺害された事件で、伸介と共に犯人を追い詰めた。それから20以上の事件で伸介の相棒として、時刻表をひっくり返している。・・・ただずっと大学4…
本書は、以前紹介した「花の棺」でデビューした名探偵キャサリンものの第三作。山村美紗の作風は、複数の事件を起こし複数のトリックを組み合わせて、物語の中盤でも謎解きを示して進めていく本格ミステリーである。本書の解説を「本格の鬼」である鮎川哲也…
以前「ミッションMIA」「樹海戦線」を紹介したJ・C・ポロックの第三作が本書(1985年発表)。前者を架空戦記、後者をアクション小説に分類したのだが、本書は軍事スリラー(本当は政治スリラー)と考えるべきだろう。それでもストーリーの基本線は変わっていな…
1961年発表の本書は以前紹介した「人蟻」(同1960年)「破戒裁判」(同1961年)に続く弁護士百谷泉一郎/明子夫妻シリーズの第三作。「明察神のごとき」神津恭介ものと離れて、血の通った若い二人を主人公にした社会派ミステリーである。 今回は経済犯罪や部…
ウィリアム・カッツという作者のことは、本書(1985年発表)を手にとるまで知らなかった。。解説によると、CIA局員だったり未来学者の助手をしていた経歴があるという。何作か邦訳されているが、主としてサスペンスものの巧手としての評価が高い。本書も、真…
以前サラ・パレツキーのV・I・ウォーショースキー(通称ヴィク)ものを3冊紹介した。第三作の「センチメンタル・シカゴ」は極寒のシカゴの街が舞台だった。五大湖のほとり、ちょっと行けばそこはカナダという土地柄寒いのは予想が付く。しかし第四作の本書(1…
「歴史探偵」と自称(他称?)する人は日本に何人かいるが、本書の作者保阪正康もそのひとり。学生時代は左翼系の闘士だったそうだが、ノンフィクション作家として太平洋戦争前からの軍部の行動について非常に厳しい目を持った人である。靖国神社についても…
このところ、どうしても中国という国のことが気になって仕方がない。陳舜臣の歴史ものや、柘植久慶の戦記などを読みながら、近代史はどうだったのだっけと本書を再読してみた。万里の長城の北、熱河省から黒河省にいたる広大な土地に、13年間だけ存在したの…
本書の作者、J・C・S・スミスは覆面作家である。高名なノンフィクション作家が身元を隠して書いたのが本書(1984年発表)だ。格式高い著述家が、本当はミステリー好きでミステリーを書きたいのだが「先生ほどの人が下世話なものを・・・」と非難されるのが嫌だった…
このところ柘植久慶の「逆撃:三国志シリーズ」を2作紹介したこともあって、本書を読み返してみた。古今の戦争・戦史に詳しい作者だが、三国志のころは「中国史のなかで最も魅力あふれる時代」(まえがき)と評している。三国志といえばキラ星のように登場…
1960年、著者の鮎川哲也は日本推理作家協会賞を「憎悪の化石」と「黒い白鳥」の2作品をもって受賞した。いずれも本格推理の結晶のような作品で、選者11名中9名が推薦するという圧勝だったという。その受賞式のパーティでのことだろうが、作者は初対面の出…
本書は「地球幼年期の終わり」などで知られるSF作家、アーサー・C・クラークのジュブナイルものである。舞台はちょうどいまごろのグレート・バリア・リーフ。作中に年度は書いてないのだが唯一、 「1881年のことだから、1世紀半も経っていない」 との記述があ…
以前「蜀の巻」を紹介した柘植久慶の「逆撃シリーズ三国志編」、本書はその「魏の巻」である。日本人が知っているこの時代の中国は「三国志演義」が基になっているので、魏の国の曹操は悪役として認知されている。 しかし判官びいきな「演義」と違い、正史「…
本書は、巨匠エラリー・クイーンの1951年の作品。以前「ハートの4」(1938年)を紹介しているが、その後少し間を措いての三度目のハリウッドものである。この間、歴史的には第二次世界大戦があり、作者クイーンとしては架空の田舎町ライツヴィルものを数編…
本書は2004年発表のスペンサーもの。かなり残り在庫も少なくなってきたせいもあって読まないでいたのだが、先日「ダブルプレー」という作品を読んで、この作者の簡潔な文体・会話の面白さを再確認した。この作品は、黒人大リーガーのパイオニアであるジャッ…
先日「人蟻」を紹介した、高木彬光の百谷泉一郎/明子シリーズの第二作が本書。陪審員制度ではなかった当時の日本で、難しいと言われたほぼ全編が法廷シーンという意欲作である。作者は元々工学部出身、物理的・化学的なトリックを得意としていたが、経済学…
名作「鷲は舞い降りた」などの冒険小説を書いたジャック・ヒギンズが、東西冷戦時代の東ドイツを舞台に「Mission Impossible」風の活劇を描いたのが本書(1978年発表)である。1963年の東西ドイツ国境、フロッセンの街では細々と東から西への亡命者に国境を…
イーヴリン・E・スミスは、雑誌編集者やクロスワードパズルの作者をしていたが、1950年代からSF短編を発表し始め、デルフィン・C・ライアンズ名義のものを含めて多くのSF長編を発表している。しかし60歳を目前に1986年に発表した本書で、ミステリーの世界に…
本書は、英国の本格ミステリー作家コリン・デクスターのモース主任警部ものの1作。何作か紹介しているが、評価の難しいシリーズである。ロンドン近郊の警察署に持ち込まれる奇怪な事件を、独り者のモース主任警部と愛妻家のルイス巡査部長が解決していく物…
以前「戦車対戦車」を紹介した、三野正洋の技術的な戦闘機比較論が本書。翼面荷重・馬力荷重・翼面馬力や、速度・旋回・防御の指数、さらに設計効果や生産効果まで指数化して、第一次世界大戦から第二次世界大戦、戦後のレシプロ戦闘機を100機種近く比較研究…