新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2021-10-01から1ヶ月間の記事一覧

コスパが良ければ整備する

2018年発表の本書は、池上彰氏による真相究明シリーズの「核兵器」編。ついに「核兵器禁止条約」は発効したのだが、実際に核兵器を持っている国は一切参加していない。「核拡散防止条例」というものもあり、原則として現在核兵器保有国以外は核兵器を持てな…

帝国陸軍のアキレス腱

第二次世界大戦後、米陸軍のある将軍は勝利に貢献した兵器として「ジープ・バズーカ・C47輸送機」を挙げた。M-4戦車も、P-51戦闘機も押しのけて、この3つが選ばれたのには理由がある。バズーカは歩兵の近接火力増強に資したし、他の2つは連絡・輸送などを…

地方議会のお仕事

本書は岩手県知事時代「改革派知事」として鳴らし、総務大臣も務めた増田寛也氏の書き下ろした骨子を菅沼栄一郎記者(朝日新聞)が細部を詰めて出版したものである。発表は2010年、国政は民主党政権で、石原東京都知事、橋下大阪府知事というから「もう10年…

「Post Truth」への危惧と対策

2018年発表の本書は、インターネットメディアが従来メディアを凌駕し、その権化ともいえるトランプ大統領の誕生などの事態を受けて、ジャーナリストの津田大介氏が世に問うたもの。筆者はTV朝日などでもよく見かける、金髪のデジタルメディア論者である。 デ…

連続殺人犯と模倣犯

本書(2009年発表)は以前「死の天使」を紹介した「CSI:科学特捜班」の、日本に紹介された第6作。今回は寒さも忍び寄るラスベガスで、CSIグリッソムのチームが猟奇連続殺人犯を追う。ご存じCBSの人気TVドラマシリーズだが、絵になるように捜査班のチームに…

法人の検死報告集

昨年から「COVID-19」騒ぎで経営苦境にある企業は多い。しかし政府支援もあって、倒産件数は少ない。本書(2017年発表)によると、リーマンショックが落ち着き始めた2009年から日本企業の倒産件数は減少し続けている。地方の若い銀行マンなど「倒産処理をし…

まるで映画か小説のような

本書は以前「へんな兵器」を紹介した軍事史ライター広田厚司が、第二次世界大戦の嘘のような実話を集めたもの。11編の物語は欧州戦線・太平洋戦線と広く分布し、分野も多岐にわたるバラエティ豊かなものだ。軍事スリラー小説みたいだし、映画化してもいいよ…

誰かを殺したときの代償

スパイスリラーの作者で、実際に情報部門を経験した人は多い。彼らの作品は「007ばり」の超人スパイものにはならず、アクションはあるにせよ内省的で、時には哲学的ですらある。本書(1980年発表)の作者テッド・オールビュリーもその一人。英国バーミンガム…

沿岸域戦闘艦<ミルウォーキー>

トム・クランシーとスティーブ・ピチェニックの共著になる緊急事態対処部隊「オプ・センター」シリーズは、「ノドン強奪」に始まり12作を数えた。これらは全て新潮社から出版されていたが、新「オプ・センター」シリーズが扶桑社から3作だけ出版されている…

捕物帳なら許してくれる

すでに2つ紹介しているが、5大捕物帳と言えば、 ・半七捕物帳 岡本綺堂 ・銭形平次捕物控 野村胡堂 ・むっつり右門捕物帳 佐々木味津三 ・若さま侍捕物帳 城昌幸 に本書の「人形佐七捕物帳」が挙げられる。右門と若さまは侍だから、庶民の代表「岡っ引き」…

絶対悪ではない犯人像

本書(1961年発表)は、鮎川哲也の鬼貫主任警部ものの一冊。とはいえ捜査一課の鬼貫が登場するのは第二の事件が発生した全体の60%を過ぎたころである。戦後の混乱期も終わり、経済が活性化してきて民間企業も大きくなり始めた時期だが、それゆえに社会全体…

オール沖縄、タイムズ・新報

昨日、元自衛隊当幕僚長だった折木良一氏の「国を守る責任」を紹介した。2017年発表の本書は、もう少し市民目線に立った「沖縄・国防論」である。知念章氏は元防衛省職員、しかしデジタル系の技官として補給処勤務だっただけで、制服組ではない。生まれは那…

日本の「真の自立」に向けて

2015年発表の本書は、4年にわたり自衛隊TOPである統合幕僚長の任にあった折木良一氏の「平和安全保障論」。筆者の統合幕僚長在任中のほとんどは民主党政権時代であり、 ・尖閣海域での中国漁船衝突事件 ・東日本大震災と福島第一原発事故 ・震災復旧と米軍…

海洋国家日本再生へ(後編)

本書の下巻には19世紀初頭のナポレオン戦争から、東西冷戦期までが記されている。大陸国家と海洋国家は、通常は同時に実現できない。ただ大陸国家が十分なシーパワーを持てれば、海洋国家に打ち勝つ機会はある。それより難しいことだが、海洋国家が十分なラ…

海洋国家日本再生へ(前編)

本書は僕が多くの軍事知識を貰うことができた、松村劭元陸将補著の海戦史。著者は陸上幕僚部、防衛研究所を経て陸上自衛隊西部方面部防衛部長で退官された、戦略・戦術研究、情報分析の専門家。数々の著書があり、以前「海から見た日本の防衛」「戦術と指揮…

蔵王温泉周辺でのアリバイ

本書(1969年発表)は、「本格の鬼」鮎川哲也の鬼貫警部もの。まだ新幹線は東海道だけ、長距離電話も地方によっては交換台を経由してという時代の作品である。舞台は芸能界で、クラシック歌手の鈴木久美子とピアニストの夫重之の夫婦喧嘩から物語が始まる。1…

政治は熱量、ではどう評価する

4年ぶりの総選挙が始まろうとしている。本書は2019年の発表で、 ・元大阪府知事、大阪市長、弁護士 橋下徹氏 ・山猫総合研究所代表、国際政治学者 三浦瑠璃氏 が日本の現代政治(&政治家)について対談したもの。橋下弁護士は「維新の会」の創設者で、大阪…

ヴュルテンベルク王国の少尉候補生

1944年の今日は、「砂漠の狐」と呼ばれたドイツ陸軍のロンメル元帥が亡くなった日。先日見た映画「砂漠の鬼将軍」のラストのように、ヒトラー暗殺に関与したとして自殺を強いられた日である。2019年発表の本書は、非常に珍しい日本人の手になる欧州軍事史で…

ウクライナと琉球のケース

昨日「民族問題の世界地図」で、東南アジアから中近東までの民族紛争のタネを勉強した。本書(2017年発表)は元外務省分析官の佐藤優氏が、同志社大学で10回にわたって外交論を講義した内容から「民族問題」に関わる部分を抽出したもの。上記の書で語られな…

火種は20年まえから分かっていた

本書は、歴史家・評論家の高崎通浩氏が2002年に発表した「世界を知るデータブック」の1冊。東南アジアから中近東まで、インド・中国といった大国まで含めた民族・宗教の分布と紛争のタネを列挙したもの。少し古い本だが、20年程度では「火種の地図」に変更…

3人の財務省特別調査官

米国には通常の警官の他、連邦捜査機関のFBI、海軍の捜査組織NCISなどがあって、独自の捜査を担当する。本書(1984年発表)には、財務省の特別調査官が登場する。国税庁ではないので、税務調査をするわけではない。主なターゲットは金融犯罪、特に偽札等の偽…

Mig-21 vs. F4C

ヴェトナム戦争というと、北ヴェトナム軍のゲリラ戦・米陸軍や海兵隊の死闘・村を焼き払うなどの残虐行為・降ってくる枯葉剤など地上の戦闘や悲劇ばかりが思い出される。米国はこの戦場で5万人以上の犠牲者を出し、以後大規模な地上戦闘を嫌うようになる。 …

パリのペルシア人

以前紹介した「I am Legend」が3度の映画化なら、1910年発表の本書は1925年を始めとして3度映画化、加えて1973年にはロックミュージカルでも映画化されているという古典。この文庫本が出たころには、「劇団四季」でも上演されていたらしい。作者のガストン…

人間と獣の間・・・

本書はSF小説創成期の大家、H・G・ウェルズの「改造人間もの」である。「宇宙戦争」や「タイムマシン」が有名なのだが、本書「モロー博士の島」も古典として語り継がれるべき作品だと思う。マイクル・クライトンの「ジュラシック・パーク」も、本書の流れにあ…

大元帥の責任と権限

宮内庁は、24年余りの時間をかけて「昭和天皇実録」全61巻を編纂した。実は「明治天皇実録」も「大正天皇実録」もすでに編纂されている。ただ今回のものは、一般向けに全19巻に分けて出版されることになった。それに先立ち「歴史探偵」半藤先生はじめ4人の…

ダボス人間的世界観への挑戦

紫色に光る御髪と、ドスの効いた毒舌(!)が印象に残る論客、浜矩子氏。安倍政権を「妖怪アホノミクス」とコキ下ろし、「趣味は大量飲酒」とおっしゃる破天荒な経済学者である。本書は2017年の発表、安倍政権真っただ中で、米国にはトランプ政権が誕生、欧…

先鋭化された過激派集団

昨日「イスラム国の衝撃」をご紹介したのだが、引き続き同国の内情を掘り下げた書を読んでみた。筆者の黒井文太郎氏は、インテリジェンスに詳しい軍事ジャーナリスト。国家というより戦闘集団としての「イスラム国」を分析し、最終的に「彼らとの平和共存は…

始りはオスマン・トルコ崩壊

デジタル政策が国際環境でも幅広く議論されるようになり、僕も国際情勢を勉強しなくてはならなくなった。サイバー空間には国境はないはずなのに・・・。これまでいろいろな国の現状を見てきたが、どうにも苦手な地域が「中東」。宗教そのものに知見も興味もない…

翻訳者で変わるトーン

1959年発表の本書は、以前「梟はまばたきしない」を紹介したA・A・フェアの「クール&ラム探偵社」もの。このペンネームはE・S・ガードナーの別名だが、このシリーズは本家のペリイ・メイスンものより良質なミステリーだと思う。特に小柄で腕っぷしはNGだが頭の…

白昼デパートでの銃撃戦

本書はこれまで3作を紹介してきた、イーヴリン・E・スミスの「ミス・メルヴィルもの」の第四作。もうじき50歳が近い名家の令嬢スーザン・メルヴィルは、生活に困って殺し屋稼業をする羽目に。父親に教わった銃の腕があってのことだが、中年レディは街中では目…