新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2021-05-01から1ヶ月間の記事一覧

謎解きはデザートと共に

安楽椅子探偵ものというのは、虫眼鏡や拳銃を持って走り回ったり関係者を尋問するのではなく、座ったまま事件の話だけを聞いてこれを解決するというスタイルのミステリー。バロネス・オルツィ「隅の老人」がその先鞭だろうが、ハリイ・ケメルマン「ニッキィ…

MICEの価値をどう考えるか?

このところ、IRの話を聞くことが少ない。もちろん株式上場のことではなく、特定複合観光施設区域のことである。2018年7月に通称「IR整備法」として関連法が成立し、一時期は国会論争やメディアでの特集も派手だった。インバウンド需要で日本中が湧きたって…

省内で接点がなかったお二人

何冊かIntelligenceに関する書を紹介している佐藤優氏(元外務省主任分析官)と、よくTVでお見掛けする宮家邦彦氏(外交政策研究所代表)は、外務省での現役時代、接点がなかったと冒頭にある。二人の専門が、 佐藤氏:欧州、ロシア、神学、哲学 宮家氏:米…

大使館パーティでの仕掛人

本書は以前紹介したイーヴリン・R・スミスの「ミス・メルヴィルもの」の第三作。富豪の家に育ちながら25年前に父親が資産をもって失踪、母親もなくなり日銭に困った彼女が持ち前の銃の腕を生かして殺し屋をするのが第一作。その後彼女は画家として高名になり、…

ロシアの海への執念

著者大江志乃夫は歴史学者、陸軍軍人の家に生まれ、自身も陸軍士官学校在籍中に終戦を迎えている。名古屋大学経済学部卒、東京教育大教授から茨城大学へ移り茨城大名誉教授として2009年に亡くなっている。明治から昭和にかけての時代を切り取るような著書が4…

「数学脳」は批判を呼ぶかも

本書は昨今「暴言」とも言われるツイートを繰り返して、内閣官房参与を退いた高橋洋一教授が、2016年に戦後経済政策を総括した本。筆者は東大理学部数学科と経済学部経済学科卒。大蔵省入省で、小泉内閣では竹中大臣らを助けてブレーンとして活躍した。本書…

やはり「国民銀行」の危機

この2年ほど日本郵政の周りでは、妙なことが頻発する。2019年末に事務次官のクビが飛んだことに始まり、今年になってからは「楽天」との業務提携だ。ここでも、総務省・日本郵政(含む全国郵便局長会)・郵政族議員の「鉄のトライアングル」が、かんぽ生命…

ケインズを降ろした経済学

中国共産党政権が露骨な「国進民退政策」を進め、アリババグループなどデジタル産業叩きをしている。欧米諸国だって「COVID-19」対策でバラ撒き政策を実施、それを回収すべく法人税増税を計画中。日本でも10万円再配布の要望が収まらないなど、世界全体が「…

「歴史の都ツアー」の事件

本書(1991年発表)は、何作か紹介している英国の本格ミステリー作家コリン・デクスターの「モース主任警部もの」である。作者は英国ではアガサ・クリスティーの後継者とも言われ、モース警部は最も有名な探偵とされている。シャーロック・ホームズを抑えて…

主役の陰に隠れる名探偵

英国ミステリー界の重鎮、クリスチアナ・ブランドの代表的な短編を集めたのが本書。作者は日本のミステリー読者にはあまりなじみがないかもしれないのは、それほど多作家でもなく、邦訳されたものはもっと少ないからかもしれない。 レギュラー探偵として一番…

世相ゆえか、因習ゆえか

以前横溝正史の「八つ墓村」を紹介した時に、この村で起きた32名の惨殺事件は史実上の「津山事件」を下敷きにしたとコメントした。この事件は、松本清張も犯罪実録集の中で取り上げている。本書はこの事件の経緯を追うだけでなく、自殺した犯人都井睦雄の22…

宗教的共同体での殺人事件

先月マーガレット・ミラーの「まるで天使のような」を紹介した。ネヴァダ州の砂漠の町で独自の宗教観を持った人たちのなかで起きる事件を、町に流れてきた私立探偵クィンが解決しようとする話。それと極めて似た設定のミステリーを巨匠エラリー・クイーンが…

合衆国が「国」に戻った時

本書の著者三浦瑠麗氏は、国際政治学者。今は山猫政策研究所長として「朝まで生TV」などの政治番組の常連コメンテーターである。僕が国際政治学者として尊敬している藤原帰一先生が、10年以上前に彼女をほめていたことから注目するようになった。 本書は著者…

第三次計算機革命

日本でも量子技術に関する研究を、官民連携で進めようとする協議会が設立されるという。米中対立は科学技術分野でも激しさを増していて、宇宙・通信・エネルギーなどの分野での先陣争いが急だ。その中でも次世代のコンピュータとされる量子コンピュータ分野…

平和安全法制の課題

これまでも何冊かの新書で、集団的自衛権やその関連の議論を勉強してきたのだが、本書はそれらとは次元の違った論文集。国際安全保障学会の機関誌で2019年9月に発行されたものだ。テーマは「平和安全法制を検証する」。どうしてこんなものが手に入ったかと…

旅館<スタグ>で死んだ男

1948年発表の本書は、以前紹介した「ホロー荘の殺人」に続くアガサ・クリスティーのポアロもの。まだ戦後の色合いが濃く、配給チケットがないと旅館に滞在できないとの記述もある。ロンドンから列車で数時間かかる田舎町ウォームズリイ・ヴェイルで起きた膨…

不都合な真実・言ってはいけない

本書(2019年発表)の著者橘玲(タチバナ・アキラ)は、本名非公表の作家。国際金融小説「マネーロンダリング」でデビューしているが、作家としてよりは社会課題に関する論客というべきだろう。Web上に銀髪・グラサンのアニメ像で登場し「歯に衣着せぬ」オピ…

この人たちの「Society5.0」

日本政府が掲げている社会目標「Society5.0」、狩猟社会・農耕社会・工業社会・情報社会ときて、次は「超スマート社会」を目指すべきというもの。産業界もこの主役は自分たちだと意気込んでいるのだが、本書によるともう一つの「5番目の社会」があるという…

科学捜査の曙、1780

2009年発表の本書は、連綿と続く英国ミステリー史の中でも高い評価を得るべき作品だと思う。作者のイモジェン・ロバートソンは歴史ミステリーを得意としていて、本書がデビュー作。上下巻合計650ページ以上の大作だが、3つの物語が交互に語られ大団円に向か…

日本の安楽椅子探偵

意外なことだが都筑道夫の作品を紹介するのは、これが初めてらしい。軽妙なタッチとピンポイントの鋭い推理が特徴の作家で、長編よりも短編の冴えがすごいと思っている。本書は、作者の短編集のなかでも一二を争う名探偵「退職刑事」の第一集である。 デビュ…

先代パールのいたころ

軽妙な会話とスピーディなストーリー展開、ロバート・B・パーカーのご存じ「スペンサーもの」で、1990年代半ばの何冊かを新しく見つけた。平塚のBookーoffは、時折探していたシリーズ物がまとめて手に入るのがありがたい。僕に似た趣向の人が書棚を整理してくれ…

ノースカロナイナが舞台の大河ドラマ

本書の作者マーガレット・マロンは、米国では知られたミステリー作家だが、日本では長編4編しか翻訳出版されていない。1992年の本書で長編デビューし、ミステリー界の以下の賞を独占した。 ・エドガー賞 ・アンソニー賞 ・マガウティ賞 ・アガサ賞 その後本…

日本料理の伝統と真髄

本書はTVでも放映されたアニメ「美味しんぼ」に大きな影響を与えた美食家北大路魯山人が、日本料理について述べた多くのエッセイ等をまとめたものである。「美味しんぼ」に出てくる高名な芸術家・美食家の海原雄山は、全く北大路魯山人そのものである。 僕自…

「週刊広場」名コンビの誕生

1990年発表の本書は、ご存じ津村秀介のアリバイ崩しもの。なかなか手に入らなかった1冊で、このシリーズでは重要な意味を持つ作品である。というのは、前作「浜名湖殺人事件」で被害者となった父親の無念を晴らした女子大生前野美保が、レギュラーとして加…

EUに感じる違和感の源泉?

10余年にわたりデジタル経済に関する国際連携で、日米・日欧等の会合に出席しているが、米国に比べて欧州委員会のデジタルに対する警戒感の強さを常に感じる。かつては個人情報保護について厳しい規定(GDPR)を要求し、今はAIに対して倫理を求めたりハイリ…

4つの結末が必要・・・

あまり日本では有名とはいえない著述家レオ・ブルース、英国生まれで100冊以上の幅広いジャンルの著作があるが、一番多いのが本書のようなミステリー。1936年発表の本書がデビュー作で、ある意味非常に人を食ったような作品である。 テーマは「推理の競演」…

「子ども庁」へのヒント

「デジタル庁」に続いて、霞ヶ関横断の新組織「子ども庁」設置の議論が本格的に始まった。専門外なので詳しいことは知らないが、目的は人口減少を食い止めることだろうと思う。中国ですら人口減少の兆候が生まれていて、先進各国はおしなべて人口減少に悩ん…

憲法改正ではなく新憲法を

現在88歳、さすがにTV等でお見掛けすることも無くなったが、石原慎太郎元東京都知事については、様々な批判や賛意があるという。本書は2018年に、2012年(都知事在職中)から2017年ごろまで、雑誌や新聞に寄稿したものを再編集して出版されている。元々は作…

憲法改正のポイント

昨年安倍総理が突然辞任して以来、あまりこの団体の名前を聞かなくなった。もう「日本学術会議」の話に埋もれてしまったのかもしれないが、立ち位置としては逆のような存在だ。軍事研究まかりならんという「学術」会議に対し、占領憲法を改正し国軍復活を目…

Intelligenceは国家のお仕事

本書は背任罪で有罪となり執行猶予付きの刑が2009年の時点で確定した元外務省分析官佐藤優氏が、2006〜2007年にかけて「フジサンケイ・ビジネスアイ」に連載した60篇を1冊にまとめたものである。さらに文庫化にあたり、各篇についてのその時点でのフォロー…