新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2022-03-01から1ヶ月間の記事一覧

ちゃんと楷書が書けてから

本書は土屋隆夫コレクションとして、長編「危険な童話」と短編3編、いくつかのエッセイを合本したものである。長編へのコメントは後述するとして、解説には興味深いものがあった。作者は日本の本格探偵小説第二期の巨匠だが、本格ミステリーは一片の余りも…

女王の三大戯曲、第二作

ミステリーの女王アガサ・クリスティは、小説の他にいくつかの戯曲も遺した。小説のTVドラマ化や映画化も多いのだが、もともと戯曲として書かれたものにはそれなりの風情もある。1950年代、女王の地位を不動にし水準以上の力作を作者が書いていたころ、全7…

ミラマー・アパートの美女たち

これまで「梟はまばたきしない」と「うまい汁」を紹介した、A・A・フェアの「クール&ラム探偵事務所もの」で、「うまい汁」から2年後の1961年に発表されたのが本書。ヘビー級の大女で吝嗇極まりないバーサ・クール女史と共同経営者になった小柄でソフトボイ…

陸の王者、1910~1945

光人社NF文庫の兵器入門シリーズ、今月は「戦車戦」である。「戦車」でないのは、戦車と言うものを支える技術や装備についてがメインではなく、戦場で戦車がどう使われたのかが中心になっているから。個別の戦車については、別ブログでアバロンヒルの精密陸…

個人の「メディアリテラシー」

今月、ネット上の誹謗中傷対策として、侮辱罪の厳罰化が閣議決定されている。これまで「30日未満の拘留か、1万円以下の罰金」だったものを「1年以下の懲役(or禁固)か、30万円以下の罰金」にするというもの。インターネットの拡散力を考えればこれでも軽…

トリックの見つけ方

本書は鮎川哲也の短編集、恐らくは雑誌などに掲載されたものを光文社で短編集にしたものと思われる。表題通り、アリバイが争点となる短編4作と中編がひとつ、それに、 ・時刻表5つのたのしみ ・私の発想法 という2つのエッセイが添えられている。「発想法…

ロシアの本質は帝国主義

2日続けて、ロシアを巡る日米の軍事スリラーを紹介してきた。事実は小説より奇なりということわざもあるが、現実にロシア・ウクライナ戦争が起きて1ヵ月になり、国際情勢は激変した。2014年にはロシアのクリミア進駐があり、マレーシア機撃墜騒ぎもあった…

民主化ロシアと国連航空軍

昨日デイル・ブラウンの、やや荒唐無稽な軍事スリラーを紹介した。もうちょっとで「架空戦記」か「SF」の領域に入りそうだった。1996年発表の本書は、日本では数少ない航空軍事スリラー作家鳴海章の、「ユニコーン(国連航空軍)もの」。ソ連崩壊の後、彼の…

米露両大統領の陰謀

派手な航空(&宇宙)軍事スリラーが得意なデイル・ブラウンの諸作もいくつか紹介した。「ロシアの核」では、モルドヴァを巡ってウクライナ・ロシア両国が戦争状態に入り、核兵器が使われることになる。「ロシアの核」を読んだときには、まさか両国の熱い戦…

「○○風」は信じないように

本書は先月「地名の世界地図」を紹介した21世紀研究会の、世界地図シリーズの1冊。テーマは「食」で、食材の原産地から世界への普及ルート・料理が生まれた経緯や国籍・食べ物の起源や語源・美食家たちに関わる料理・食を巡ることわざなどが紹介されている…

カルデラ湖が好きな女

津村秀介の長編小説は60作ほどある。国内の公共交通機関を使ったアリバイ崩しものが大半で、僕の大好きなシリーズだ。そのほとんどを読んでしまって、本棚には最後の作品「水戸の偽証」が残っているだけ。「水戸の偽証」を発表した後、作者が急逝してしまっ…

シンギュラリティへの有識者見解

これまでいくつもの書で、AIの将来や人類への脅威を論じたものを紹介してきた。2018年発表の本書は、日経新聞社が1年かけて国内外の多くの有識者にインタビューし、シンギュラリティ(AIが人間の能力を超えたものを持つこと)の時代に向けての意見や提言を…

経営者が戦史を学ぶ意味

本書は少し古い(2000年出版)本だが、バブル崩壊後の日本経済、というより企業の迷走を見て警鐘を鳴らすべく書かれたものである。主筆の江坂彰氏は経営コンサルタント、対談相手の半藤一利氏は歴史家である。 冒頭、旧日本軍は情報と補給の重要性を顧みなか…

迷探偵と「使用人探偵団」

一昨日P・G・ウッドハウスの「執事ジーヴズ」ものをご紹介した。「間抜けた主人と賢い従卒」タイプの短編で、慇懃な執事ジーヴスは気弱な青年貴族バートラムを助けて大活躍する。1920~1930年代の物語だったが、本書(1993年発表)はロマンス作家エミリー・ブ…

もう2年も経ったのかと・・・

本書は日経編集委員、「ワールドビジネスサテライト(WBS)」MCである滝田洋一氏が、2020年1~4月の世界の「COVID-19」対応をレポートしたもの。WBSのアカウントでのその時々のツイートが、数多く引用されている。 今も米国では毎日50万人の新規感染者が出…

紳士に仕える紳士の才覚

僕は全く知らなかったが、英国と英国に関係あった諸国では本書の作者P・G・ウッドハウス(1881~1975)は、非常に人気のあるユーモア作家だという。貴族階層の家庭で香港で産まれた作者は、大学進学を目前に実家の没落で進学をあきらめ金融機関(今のHSBC)で…

日本のベンチャー事情2019

本書の冒頭、サッカー選手本田圭佑が競技をしながら、多くのベンチャー企業に投資している「エンジェル」としての活動が紹介されている。彼だけでなく有名なスポーツ選手・タレントらも投資家として、ベンチャー企業を支えている。 実業家で資産家のイーロン…

誰に対して責任を負うのか

2020年発表の本書は、会計学者である八田進二氏が不祥事があるとすぐに設置されるようになった「第三者委員会」の実態を暴いたもの。よく耳にする言葉なのだが、その実態は僕もあまり知らないので、本書で勉強させてもらった。 コーポレート・ガバナンスとか…

先端制御技術1940

著者は東北大学工学部電気工学科卒、海軍造兵中尉に任官し終戦時海軍中佐。戦後松下電器でテレビ事業部技術本部勤務など関西ビジネス界の発展に貢献した人である。表題は「軍艦メカ開発物語」となっているが、内容はもっぱらエレクトロニクス、特に制御系の…

夢想家と天才技術者がいて・・・

戦争を主にテクノロジーの視点から分析し、あくまで客観的な情報から当時起きていたこと、起きたかもしれないことを再現することにかけて、筆者(三野正洋日大講師)は一流の歴史・技術者だと思う。本書は筆者の得意な、第二次世界大戦中に開発・運用された…

勝負師の心理学・哲学

先月紹介した「麻雀放浪記」。これは実話をもとにしたフィクションだが、実際に「玄人(バイニン)」と呼ばれる世界で、20年間無敗の伝説を持つのが本書の著者桜井章一氏。どのような世界だったかは、上記フィクションを参照いただくとして、途方もない金額…

高級料理店の裏側

2014年発表の本書は、その前年起きた「食品偽装事件」を扱っているものの、著者はそのインパクトで書いたものではないという。バナメイエビを車海老と称していたことなど、この業界には一杯あるというのだ。それよりも高級店と称する店のいくらかが堕落しき…

名古屋弁を話す検事

「憲法おもしろ事典」などを紹介してきた弁護士作家の和久俊三。多くのミステリーの執筆しているが、一番多いのは「赤かぶ検事もの」ではなかろうか。検察事務官からたたき上げ、副検事に昇進、高年齢になってからようやく検事に任官した柊検事が主人公であ…

ロシアのグレイウーマン

2017年発表の本書は、マーク・グリーニーの「グレイマン」シリーズの第六作。前作「暗殺者の反撃」でDCに戻り、自分を「発見次第射殺」の対象としていた勢力を駆逐し、CIAに復帰したコート・ジェントリー。今は「好きな仕事だけ引き受ける」立場にある。復帰…

意外な名探偵たち

小林泰三は世代としては「新本格世代の関西人」である。だから作風はというと、ミステリーではなくホラーやSFが主体。しかし本書は、作者がミステリーに(楽しみながら)挑戦した短編集である。ただユーモアSF等でミステリー風の作品は多々あり、ミステリー…

日本人が忘れた「武」の摂理

今、ウクライナが義勇兵を求めていて、応募する日本人もいるという。多くは自衛隊の経験者、特殊部隊にいた人もいるに違いない。2016年発表の本書は、海上自衛隊の特殊部隊創設者である伊藤祐靖氏の著書。柘植久慶の小説に、戦闘能力の高い日本人が海外で大…

エロチック・ミステリー

本書は横溝正史後期の作品、ちょうど還暦を迎えたころ執筆されたものである。ディクスン・カーが好きで怪奇趣味あふれた作品といいうのが作者の特徴だが、本書では珍しくエロチックなものに仕上がっている。元々は「百唇譜」という短編だったものを、そのモ…

バスケットボールが得意な子供

本書はロバート・B・パーカーの「スペンサーシリーズ」で、長く手に入らなかったもの。1989年発表でシリーズとしては「真紅の歓び」と「スターダスト」の間にあたる。まだ愛犬パールはおらず、ずいぶん若いスペンサー・スーザン・ホークのトリオに会うことがで…

透明すぎる昭和

作者の仁木悦子は、1957年「猫は知っていた」でミステリーデビューし江戸川乱歩賞を受賞した。それ以前は大井三重子名義で童話を発表し、文章が上手く爽やかな物語を書く名手と言われていた。本書の解説にも「非常に透明な筆致」との賛辞が見られる。 作者は…

戦争という仕事の9割

1977年発表の本書は、ヘブライ大学教授で歴史学者のマーチン・ファン・クレフェルトが、16世紀以降の欧州における軍事行動を「兵站」に着目して整理した書。著者は発表当時31歳の若手学者だが、深い洞察と明快な語り口で俗説を「斬って」いる。 「戦争のプロ…