新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2022-04-01から1ヶ月間の記事一覧

ロシアとの欧州一長い国境

ロシアのウクライナ侵攻目的は「NATO拡大阻止」だったはずだが、意に反して中立を保っていたフィンランドやスウェーデンにNATO入りを促すことになりそうだ。欧州でロシアと一番長い国境線を接しているのがフィンランド。ロシア革命以前は、ロシアの支配下に…

サラリーマン心理学の好著

2019年発表の本書は、「いらない課長、すごい課長」や「いらない部下、かわいい部下」などを著わした新井健一氏の手になるもの。筆者は経営人事コンサルタントだが、大手重電メーカーを振り出しに外資を含む企業を見てきた人。冒頭「働かないのにはスキルと…

個艦優越に賭けた決戦兵器

光人社NF文庫の兵器入門シリーズ、今月は「駆逐艦」である。すでに「特型駆逐艦雷海戦記」を紹介していて、艦隊決戦の花形として建造され厳しい訓練を重ねながら、期待ほどには戦果を挙げられなかった帝国海軍駆逐艦隊のことは記している。 「車引き」の戦果…

女王の三大戯曲、第三作

先々月「ねずみとり」、先月「検察側の証人」を紹介したミステリーの女王アガサ・クリスティの戯曲第三弾が本書。1956年の作品で、これもロングラン公演を達成しているし、日本でも上演されていると解説にある。 構成は3幕4場で、場面はケント州の邸宅<コ…

「After COVID-19」の世界情勢

昨日の「デジタル地政学」と共に、国際経済連携推進センターから送られてきた最新(2022年1月出版)の書。昨日ご紹介したように、この団体に友人が加わったことで僕にも縁ができ、送っていただいたものだ。 この団体の研究範囲はデジタル分野に留まらず、国…

データ覇権三国志の行方

本書は先月(2022年3月)末に出版されたばかりのもの。例によって著者からの謹呈本である。著者である「国際経済連携推進センター(Cfiec)」は、半世紀前に「貿易研修センター」として設立され、通産省(当時)の指導の下で国際的なビジネス人材育成や海外…

中世最大の農民暴動

先日「英仏100年戦争などなかった。闘っていたのはどちらもフランス人」とする歴史書を紹介した。面白い視点と思ったので、作者が書いた小説というものを探してみた。佐藤賢一のデビューは「ジャガーになった男」という歴史小説、これで小説すばるの新人賞を…

「Wuhan」が大変なことに・・・

今も続く「COVID-19」禍。一時期「ゼロコロナ政策」が上手くいっているかのように見えた中国でも、このところ<オミクロン株:BA2>のように感染力の強いウイルスが蔓延し、上海・西安など大都市がいくつもロックダウン状態にある。全ては2020年1月「武漢:W…

シュタイナ中佐最後のミッション

本書(1991年発表)は、ジャック・ヒギンズの名作「鷲は舞い降りた」の続編。前作が完全版として再版されてから、10年の間隔を置いて発表されたものだ。チャーチル誘拐/暗殺に失敗して戦死したと思われていた、柏葉付騎士十字勲章保持者クルト・シュタイナ…

雑誌掲載と書き下ろしを取り混ぜ

本書は東野圭吾の「湯川学シリーズ」の短編集、第三巻。2011年に「文芸春秋」と「オール読物」に掲載された短編4編に、書き下ろしの3編を加えて2012年に単行本化されている。初期の頃にはもう1編「猛射る」が入っていたのだが、これは後に大幅に加筆修正…

経済安全保障の教科書

2020年発表の本書は、アジア・パシフィック・イニシャティブ(API)の船橋洋一理事長が、2010年代の国際情勢を分析した小論文をまとめたもの。APIは非営利・独立系のシンクタンクで、今年7月には(公財)国際文化会館と合併することになっている。長年シン…

「白い巨塔」から「ドクターX」へ

業界情報はどの分野のものでも面白いのだが、本書(2017年発表)の面白さは傑出している。筆者の筒井冨美氏は、フリーランスの麻酔科医。もともとは医大の勤務医だったが、40歳ごろフリーランスに転身している。まだ医局が権威に溢れていた「白い巨塔」の時…

セキュリティ政策の全貌2018

本書は2018年までのサイバーセキュリティ政策の全貌を、170ページに凝縮したもの。著者の谷脇康彦氏は、当時総務省総合通信基盤局長。後に総務審議官(省のNo.2)となったが、昨年の「総務省過剰接待疑惑」で職を去った。10年以上にわたって官民の立場の違い…

75発の核ミサイルが飛んだ

2018年発表の本書は、国際政治学者ジェフリー・ルイスが、金正恩・トランプの米朝交渉を背景に書いた軍事スリラー。韓国含めて3国の政治事情が詳しく盛り込まれていて、フィクションながら「あり得るかも」と思われる展開になる。小説だが巻末には15ページ…

世界最強の諜報機関・・・なの?

古くは「外套と短剣」のスパイスリラーがあり、ジョン・バカンの「39階段」以降隆盛となった英国のこの手の作品群。「007」様の派手なアクション映画も増えて、一時期非常に増えた。しかし冷戦終結とともに全体的に低調になり、今は「もっとリアルな諜報機関…

CSI、もう一つのスピンアウト

以前CBSのTVドラマシリーズ「CSI:科学捜査班」のラスベガス版とスピンアウトのニューヨーク版を紹介した。2006年発表の本書は、もう一つのスピンアウト「マイアミ版」である。このシリーズのノーベライゼーションは、サスペンス/SF作家のドン・コルテスが…

スコットランドの田舎町役所にて

1970年発表の本書は、以前「そして医師も死す」「跡かたなく沈む」を紹介した、英国作家D・M・ディヴァインの第9作。作者は13作しか長編を遺さなかったし邦訳も創元社から出ていただけで、最近では古書店でもなかなか見つけられない貴重なミステリーである。 …

英国のグリーニー登場

2010年発表の本書は、トム・ウッドのデビュー作。作家の楡周平が「これぞ冒険小説!」と絶賛したと帯にある。僕の読後感としては「これは英国のグリーニーだ」というもの。いまやトム・クランシーの後を継いでいる米国の軍事(スパイ)スリラー作家マーク・…

東トルクメニスタンで起きていること

昨日「中国人のお金の使い道」で、この10年間の中国の都市部・沿海部の繁栄ぶりを紹介した。その辺りにはまだ微笑ましい部分もあるのだが、内陸に目を転じると許しがたい状況も見えてくる。以前からチベットの弾圧やモンゴルへの圧力は知られていて、最近新…

2010年代、10年間の変化

2021年発表の本書は、中国の市民(主として都市戸籍の上位層)の意識や生活について書かれたもの。著者の中島恵氏は、中国事情に詳しいフリージャーナリスト。かの国の政治や軍事についての書はたくさん読んだが、一般市民の意識というものには疎いので、本…

<優雅なる住居>誌が招く事件

1967年発表の本書は、以前紹介したリリアン・J・ブラウンの「シャム猫ココシリーズ」第二作。なんとか<フラクション>紙に職を得たクィラランだが、間借りしていたアパートは家主の死で追い出されることになり、家主から引き継ぐ形になったシャム猫<ココ>と…

怪物は尻尾より頭を狙え

以前クリス・ホルムの「殺し屋を殺せ」を紹介して、マーク・グリーニーには及ばないがとその戦闘シーンを評した。やはり同じような比較をした機関があって、2016年の翻訳ミステリーBest5」では、3位が「殺し屋・・・」5位にグリーニーの「暗殺者の反撃」が入…

警視になり損なったモース

本書(1981年発表)は、コリン・デクスターの「モース警部もの」の1冊。すでに何冊か紹介しているのだが、地方都市オックスフォードの警察署で独身のモース警部と愛妻家のルイス部長刑事のコンビが活躍するシリーズだ。日本ではさほど名が通っていないのだ…

NPBは活況だというが

本書の発表は2020年6月、「COVID-19」で種々のものが自粛・閉鎖に追い込まれる前に脱稿していると思われる。書写の安西巧氏は日経新聞の編集委員、企業取材が得意で、幅広い分野に見識がある。本書も日本プロ野球(NPB)を論じているのだが、主軸は経営視点…

戦場を制したもの(1942)

以前この前の巻「西方電撃戦」を紹介した、雑誌「丸」に掲載された記事を取りまとめたものの第二巻が本書。前巻同様、第二次世界大戦の19の戦車戦をつづったものだ。時期は1942年で、内訳は、 ・北アフリカの戦い 9 ・ロシア南部の戦い 7 ・ロシア北部の戦…

未亡人セーラの恋と冒険

1981年発表の本書は、シャーロット・マクラウドの「セーラ・ケリングもの」の第三作。11月「納骨堂の奥に」の事件で夫を亡くし、1月「下宿人が死んでいく」で邸宅を改装した下宿屋を始めたセーラ。まだ27歳にもなっていない若い未亡人の肩には、旧家ケリン…

第三者委員会の問題、このケース

先月、会計学者八田進二著「第三者委員会の欺瞞」を紹介したが、その中に引用されていなくて、でも何か大きな事件があったなと思っていた。ふと思いだしたのが本書(2016年発表)。今沢真氏は毎日新聞社の記者、本書発表当時、有料ニュースサイト「経済プレ…

政治家じゃなくてもできる

驚いたことに、本書は2022年(今年!)の1月に出版されたもの。それが、もうBOOKOFFの100円コーナーに並んでいた。古書の外見しか見ないという同社の方針によれば、100円コーナーには少々汚れたり、古ぼけたり、書き込み等があるものが並ぶのが常。それなの…

新事業創出のための練習問題集

現役時代、僕が一番長く従事したのは「新事業創出」だった。デジタル技術を使ったものに限定されていたが、今の「Global & Digital」の流れの中で多くのイノベーションを目の当たりにした。本書は「VISITS Technologies」の創業者松本勝氏が、破壊的なイノベ…

Red Sun & Black Cross

本書は以前「ジョーンズの世界」などを紹介した、SF作家フィリップ・K・ディックのパラレルワールドもの。1963年のヒューゴー賞を受賞していて、作者の最高傑作と位置づける評論家も多い作品だ。昔「Red Sun & Black Cross」というゲームがあり、これを基にし…