新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2022-07-01から1ヶ月間の記事一覧

「COVID-19」禍半年で見られた変化

2020年7月発表の本書は、主として月刊「Voice」に掲載された15の論考(書き下ろしであったり、インタビューをまとめた)を束ねたもの。全体として何かの主張に結び着けようというものではなく、多様な分野の学者、評論家、作家、コンサルタントなどが「COVI…

経済安全保障の特集記事

このブログで「雑誌」を取り上げるのは始めて。週刊誌など、昔は<週刊ベースボール>を買っていた時期もある。空港のロビーなどで<週刊文春>を読むこともあったが、このところはまったくご無沙汰。それなのになぜ<日経ビジネス>を取り上げるかと言うと…

陸軍の技術分野を一手に

光人社のNF文庫「兵器入門」シリーズ、今月は「工兵」である。兵棋演習のコマでは横になったEの文字が付いた分隊コマで、歩兵とスタックして近接突撃を掛けてくると脅威だったのを覚えている。いにしえの話、ローマの軍隊は決して強くなかったが、土木工事…

ジョッシュとフィルの第二作

昨日「そして殺人の幕が上がる」を紹介した、ジェーン・デンティンガーの第二作が本書(1984年発表)。前作に引き続き、女優兼演出家のジョッシュ・オルークと、ニューヨーク市警部長刑事のフィル・ジェラルドが探偵役を務める。 二人は前作の事件で知り合い…

いっときだけの「家族」

1983年発表の本書は、ミステリーが好きで後にはミステリー専門の書店まで経営するという傾倒を見せた女優ジェーン・デンティンガーの作品。ニューヨーク・ブロードウェーの演劇界を舞台にアラサー女優ジョスリン・オルークが探偵役を務めるシリーズの第一作…

死刑判断は法律論にあらず

2012年発表の本書は、東京地裁などの裁判官を経験して現在は弁護士である森炎氏の著書。裁判員制度施行後3年経ち、死刑判断に変化が出ていることを論考したもの。有罪・無罪だけではなく、量刑まで裁判員が決めなくてはならない。死刑判決を下すにあたり、…

1800年代後半のロス・アンジェルス

小学生の時、お正月など少し長い休みに子供たちだけでゲームをしていた。高学年になってからは「Bankers」のようなものだったものだったが、低学年の頃はカルタのようなものだった。その中で覚えていたのが、当時TVドラマでやっていた「怪傑ゾロ」をモチーフ…

大酒のみで気弱な若者

これまで何冊も紹介しているが、本書も津村秀介の「浦上伸介もの」の未読の1冊。アリバイ崩しの名探偵浦上伸介は、作者の第五作「山陰殺人事件」でデビューし、本書(1985年発表)でレギュラーの地位を確立した。そんな記念すべき作品なのだが、長年手に入…

迷える子羊が歩く美食の道

昨日「添乗員が参照するヒミツの参考書:魅惑のスペイン」を紹介した。面白かったのだが、バスク地方を始めとする北スペインの記述がないのが、残念だった。そこで、ちょっと趣旨は違うけれど北スペインを歩いた記録である本書を探してきた。著者の小野美由…

アフリカはピレネーより始まる

本書は、先月「ドイツものしり紀行」を紹介した紅山雪夫氏の紀行、スペイン編。1997年トラベルジャーナル社より出版された「スペインの古都と街道」を改題、文庫化したものである。馴染み深いドイツと違い、僕ら夫婦のスペイン体験は一度だけ。 マドリードの…

<バイオプレパラト>元幹部の証言

1999年発表の本書は、元ソ連の生物兵器製造組織<バイオプレパラト>の幹部だったカザフ人、ケン・アベリック(現地名カナジャン・アルベコフ)が、自らの経験を綴ったもの。著者はソ連崩壊時には陸軍大佐の地位にあり、ツラレミア(野兎病)菌を兵器化した…

MI6に学ぶインテリジェンス

2020年発表の本書は、国際ジャーナリスト山田敏弘氏が、引退したスパイらにインタビューしてまとめた「インテリジェンス教本」。題名はセンセーショナルに付けてあるが、サイバー空間を含めて日本のインテリジェンス能力やリテラシー向上の方向性を示したも…

ロンドンのパートタイム殺し屋

英国作家サイモン・カーニックは、本書(2002年発表)がデビュー作。以後、特にレギュラー主人公を持たずにクライム・サスペンスを書き続けている。本書の主人公デニス・ミルンはロンドン警察の巡査部長。警察に入って十数年で、30歳代半ばの独身男だ。 若い…

<ジャンクタウン>の幽霊

1968年発表の本書は、これまで2作品を紹介したリリアン・J・ブラウンの「シャム猫ココシリーズ」の第三作。なんとか<デイリー・フラクション紙>に職を得たベテラン記者ジム・クィララン。相変わらずカネには困っていて、<ココ>と<ヤムヤム>という2匹の…

古代のシミュレーションゲーム

僕のゲーム好きは小学生時代からのもの。最初は「バンカース」などをしていたのだが、高学年のころから将棋を始めた。当時若手売り出し中の九段が書いた5冊組の教則本を片手に、コマをいじくっていた。中学時代が興味のピークで、その後麻雀や囲碁に移って…

専制・絶対王政に拘った結果

1917年の今日7月16日は、ロシアの最後の皇帝ニコライ二世とその家族が処刑された日である。ロシアは欧州の後進国と見られていたが、19世紀末から急激に国力を増し、大規模な陸軍だけではなく、巨大な海軍をも保有するに至った。しかし革命で民主主義を確立…

中国・韓国に毅然と対する

2020年春に出版された本書は、ジャーナリスト櫻井よしこ氏が自らキャスターとして放映した番組内容を書籍化したもの。放映時期は2019年度下期で、6章(つまり6回放送分)が収められている。放映された番組はYouTubeチャンネルで、「櫻LIVE 君の一歩が明日…

戦禍が隠した4つの事件

本書はミステリーの女王アガサ・クリスティの、1952年の作品。先月紹介した「予告殺人」も第二次世界大戦後の混乱期を背景にしたものだったが、本書ではエルキュール・ポワロが、大戦禍で見えなくなってしまった事件の背景を探る捜査に挑む。 マギンティ夫人…

軽やかで意味深い国際情勢論

先月、めいろまさんの「日本人はなぜ世界のニュースを知らないのか」を紹介したが、2021年発表の本書は同じテーマをこのお二人の対談形式で綴ったもの。 ・藤原帰一教授 国際政治学者 ・石田衣良氏 直木賞作家 藤原教授は僕が一番信用している国際政治学者だ…

和製サイバー・サスペンス

本書の著者志駕晃は、本名勅使河原昭。ニッポン放送のディレクター・プロデューサをしている人。50歳を越えてミステリーを書き始め、「スマホを落としただけなのに」で「このミス大賞」の隠し玉賞を受賞している。この作品は、北川景子主演で映画化もされて…

危機は人々を倫理的にする

本書は以前紹介した「世界史の針が巻き戻るとき」と同じく、ボン大学のマルクス・ガブリエル教授にジャーナリスト大野和基氏がインタビューしてまとめたもの。エマニュエル・トッド教授と同様、Global & Digitalに反対する気鋭の哲学者である。 EUに感じる違…

監察医が診た社会の病理

本書は20,000体以上の死体を解剖した伝説の監察医上野正彦先生の、最新書き下ろしエッセイ(2014年発表)。著者には、「死体は語る」など法医学の専門的な視点から40冊ほどの著書がある。本書は特に近年日本で増えているDV、いじめ、孤独死などを「社会の病…

幻の作家フィリップ・マクドナルド

「名のみ知られた名作」はミステリーを読み始めた中学生のころから、ある種の郷愁をそそるものだった。そのいくつかは今になって読めるようになったのだが、一方で中高生のころ読めたものが今手に入らないこともある。今回紹介するフィリップ・マクドナルド…

幻と消えた中欧連合構想

長期化するウクライナ紛争、その背景には一般の日本人が知らない「中欧」の歴史がある。本書は1994年出版の古いものだが、ポーランドと周辺の歴史に詳しい研究者広瀬佳一氏の著書。第一次世界大戦によって、オーストリア=ハンガリー二重帝国は崩壊、ポーラ…

「Data Driven Society」の解説

2020年発表の本書は、慶應大学宮田裕章教授の「Data Driven Society」の解説書。筆者は、医学部医療政策・管理学教室の教授で、専門はデータサイエンス。何度かTVでお見かけし、銀髪と鋭い眼光が印象に残っている。 筆者は医学部で一番カリキュラム制約の少…

臓器移植の裏ビジネス

1994年発表の本書は、ニック・ガイターノのデビュー作。作者についてはシカゴ在住である以上の情報はほとんどなく、手慣れたストーリー展開などからすでに成功を収めた作家の別名義での発表ではないかとも言われている。 原題の「Special Victims」というの…

田舎町の警官連続殺人事件

1989年発表の本書は、一作ごとに作風を変えレギュラー主人公を持たなかったポーラ・ゴズリングが、初めて連続性ある作品としたもの。米国東部オハイオ州の田舎町グランサムを舞台にした第二作ということになる。前作「モンキー・パズル」では大学内の事件を…

凄い奴らが主演した映画

世界最強米軍は、数々の特殊部隊を持っている。今は正式に一軍になっている海兵隊だって、もともとは水陸両用の特殊部隊とも言えた。現状の特殊部隊の中でも一番厳しい訓練をし、高い資質・能力を求めるのが、海軍特殊部隊「NAVY SEALs」という。2012年に、…

次のリスクへの勉強材料?

もう11年も経ってしまったのかと思わせるが、本書は2011年3月11日の東日本大震災を受けて、企業がどのように動いたかのドキュメント。日経の記者を中心に63名が執筆者として名を連ね、震災半年後の7月に出版されたものである。なぜこの本を改めて読んだか…

エトルリアの里でワインを飲み歩く

折角「With COVID-19」の雰囲気が北半球には広がってきたのに、ロシア・ウクライナ紛争で海外旅行のハードルがまた増えた。そろそろ欧州へ行きたいな、イタリアやスペインが・・・と思って<HIS>のサイトを見ると、航空料金が以前の1.5~2倍になっているよう…