新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2022-09-01から1ヶ月間の記事一覧

行動経済学の入門書

「競争と言うと、とかく日本では否定的に捉えられるが、自分の強みを見つけ社会を活性化させる機会」というのが、裏表紙の言葉。新自由主義の本かなと思って買ってきたのだが、そうではなく「行動経済学」の入門書だった。 著者の大竹文雄氏は大阪大学の教授…

各国諜報機関の評価

本書は、何冊かインテリジェンス関係の著書を紹介している、元外務省分析官佐藤優氏の各国の諜報機関を分析した書。元原稿は、<EX大衆>に2008~2011年にかけて連載されたものだ。ゾルゲ事件など歴史上で諜報機関が関わったことの解説(解釈?)で始まり、…

歴史に学ぶ「戦闘教義」

本書は以前「三千年の海戦史」など戦略・戦術論を紹介している、松村劭元陸将補の歴史教本。冒頭「戦争学」が英米等では立派な学問として成立しているのに、日本では「考えたくないことは考えない」との風潮があって、軍事的な研究が貶められているとの嘆き…

パンデミック下の政治2020

本書は2020年1年間の、各国の対応状況を政治指導者に焦点をあててまとめたもの。ベルギー在住のジャーナリスト栗田路子氏が、各国の日本人ライターに声をかけて、現地の生々しい状況をレポートしてもらっている。 読んでみて、あらためて日本に入ってくる情…

中性子弾対EMP弾

昨年大石英司の「サイレントコア」シリーズの1編「魚釣島奪還作戦」を紹介したが、作者がもうひとつシリーズ化していたのが「UNICOON」もの。国連が軍事的即応部隊を極秘に持っていたという設定(その資金は日独が提供)で、1990年代に多く発表されている。…

ネット規制強化論の背景

先週、JCLUセミナーの書籍化で、米国他の政府が市民監視にインターネットを役立てているかを紹介した。本書は、逆に政治家(特に選挙)に対してインターネット経由でどのような影響が与えられるかを論じたもの。2018年の発表で、著者の福田直子氏は「大真面…

すっかり「宅呑み」になった僕らに

「COVID-19」禍は、僕らの生活をすっかり変えてしまった。海外出張&旅行が出来なくなったのは残念だが、マイレージで貰うワインで研鑽(!)を積み、レストランが閉まった影響で手が届くようになった食材を試すこともできた。加えて今年になってからは、<K…

潜っていたスリーパー「蝉」

2013年発表の本書は、先日「窓際のスパイ」を紹介したミック・ヘロンの<泥沼の家シリーズ>第二作。作者は本書で英国推理作家協会(CWA)賞を受賞している。MI5の落ちこぼれ組織<泥沼の家>では、前作の闘いで2人の欠員ができた。補充されてきたのはやり…

帝国陸軍が遺したもの

本書は、ミャンマー在住で月刊情報誌「MYANMAR JAPON」を発行しているジャーナリスト永杉豊氏が、クーデター後の同国を2021年にレポートしたもの。この年の2月に、国軍総司令官ミン・アウン・フラインがクーデターを起こし、民主化政権の中心人物を拘束・投…

G20国サウジアラビアの正体

一昨年のG20議長国だったサウジアラビア、別ブログで何度かとりあげているがデジタル屋にとっては中露と並ぶ困ったちゃんである。 行けなくて良かったかも - Cyber NINJA、只今参上 (hatenablog.com) ところが本書を読んで「国際データ流通に竿差す国」程度…

JCLUセミナー第二弾

本書は、先月「スノーデン日本への警告」を紹介したJCLU(公営財団法人自由人権協会)が、スノーデンらを招いて行ったセミナーの第二弾。前著から1年、2017年のセミナーを書籍化したものである。今回大きく取り上げられていたのが「XKEYSCORE」という市民監…

砂漠の老女と「子連れ狼」

1990年発表の本書は、題名を「A」から順に付けていくスー・グラフトンの第七作。前作「逃亡者のF」で自宅を爆破されてしまった女私立探偵キンジー・ミルホーンは、大家さんのヘンリー(80歳)や食堂の女主人ロージー(65歳)から孫子のように可愛がられて…

外交の勘なきは亡国

昨日元外務省分析官佐藤優著「ヤンフスの宗教改革」を紹介して、外交官には神学も必要との主張に(そこそこ)納得した。しかし一国の外交を担う者として、もっと多くの知識や教養が必要なはず・・・と思って手に取ったのが本書(2020年発表)。<外務省研修所>…

神学は外交の必要スキル

本書(2020年発表)は何冊かIntelligence関係の書籍を紹介している、元外務省分析官佐藤優氏の近著。Book-offで最初に手に取った動機は、現役時代南部ドイツのコンスタンツという街で1年の1/4を過ごした経験があったから。表題にあるヤン・フスなる人物は、…

日本人は基本的に異質

1992年発表の本書は、「アンドロメダ病原体」などを紹介した才人マイクル・クライトンのミステリー。700ページ近い大作だが、テーマとなっているのは「日本の米国侵略」、もちろん架空戦記ではない。 ベルリンの壁が崩れ、ソ連が崩壊、中国はまだ台頭してい…

アバネシー家の7人兄妹

1953年発表の本書は、女王アガサ・クリスティの「ポワロもの」。解説を大仕掛けが得意のミステリー作家折原一が書いていて、本書がクリスティ女史のベスト1だと評価している。ちなみに彼のベスト3は、 1)葬儀を終えて 2)ナイルに死す 3)白昼の悪魔 …

麻薬と宗教に溺れる娘

本書(1929年発表)は、ハードボイルド小説の創始者と言われるダシール・ハメットの第二作。デビュー作「血の収穫」同様、コンチネンタル探偵社の名無しの探偵(オプ)が主人公だが、デビュー作に登場した探偵とは体格も性格も違っているように思う。加えて…

最後の1行の衝撃

意外なことだが、ロアルド・ダールの作品を紹介するのは初めて。本書も高校生の頃に一度読んで、衝撃を受けた記憶がある。本書の中の「南から来た男」などは、細かな点まで覚えていた。実は、本書は50年前に読んだものとは違う新訳。訳者の田口俊樹は解説の…

死刑を巡る攻防の歴史

本書は、以前「Wの悲劇」を紹介した夏樹静子の日本の裁判史。<オール読物>などに掲載された12の小編を、2010年に単行本化したものである。先月森炎著「死刑と正義」で見たように、罪状は明白でも極刑を選ぶべきかについては、いつの時代も判断に迷う。こ…

祝!150話達成

このDVDは、ご存じ「ネイビー犯罪捜査班:NCIS」のシーズン7。これまでにも増してストーリーのバリエーションが増え、視聴者を楽しませてくれる。登場人物にもいろいろ変化や成長、過去のエピソードの紹介があって、興味深い。特に150話目にあたる「親子の…

リープフロッグ型改革の光と影

2020年発表の本書は、中国経済の専門家である伊藤亜聖准教授(東大社会科学研究所)が、多くのデジタル化関連の論文を読み解き、新興国におけるデジタリゼーションの実態とその可能性&リスクを論じたもの。まず中国やインドでの先進的なデジタリゼーション…

地獄の沙汰も金次第

あまりTVは見ないから知らないのだが、TBS系の人気番組に「クレイジージャーニー」というものがあった(2015~19年)そうだ。紀行バラエティ番組なのだが、世界の通常の旅行者が行かない様な所を巡る旅人をスタジオに呼び、その体験談を語ってもらうものだと…

Historical Cold Caseの集大成

本書は「日本博学倶楽部」の書き下ろし本だという。この団体は何かというと、歴史、暮らしの知恵、文化・情報など幅広い分野での調査・研究をする組織だとある。すでに「日本史未解決事件File」という著書(未入手)はあって、好評だったので世界史版を編纂…

暗殺者の平和な引退・・・

1986年発表の本書は、以前「殺人のすすめ」を紹介したレジナルド・ヒルが別名パトリック・ルエルで書いたもの。ヒル名義でダルジール警視が活躍する本格ミステリーやサスペンスものを40冊ほど書いたほか、ルエルほかの名義でも1ダースあまりの著作がある。…

歴史探偵、井沢元彦

「歴史探偵」と言われた、作家の半藤一利氏が亡くなって1年以上になる。氏は戦争体験もあり、護憲派の論客として多くの著書を遺した。主に昭和史の探求に尽くした人である。「歴史探偵」の跡を継ぐべき人は沢山いるが、その中で僕の世代で有名なのが井沢元…

建築業イノベーションのヒント

2016年発表の本書は、建築家森山高至氏が自戒を込めて建築業界の課題を公表したもの。冒頭、東京オリ/パラのための新国立競技場の話が出てくる。一旦採択されながら廃案となったザハ・ハディド案は、そもそも建設不能だったという。彼女は「Unbuilt Queen」…

この国はやはり平和

本書は2003年に「別冊宝石」が特集した記事を文庫化したもの。近代日本で起きたテロや暗殺事件、合計42件がコンパクトに写真入りで解説されている。1909年の伊藤博文暗殺事件に始まり、1995年の地下鉄サリン事件まで、80余年間を網羅している。2・26事件のよ…

パンデミック後の「世界の知性」

本書は、以前「未来を読む」や「未完の資本主義」などを紹介した、PHP新書の「世界の知性シリーズ」。2021年発表で、いつものように、ジャーナリスト大野和基氏が世界の有識者にインタビューしたものだ。<Voice>誌に2020~2021年に連載された記事から9人…

ハルキウの「狐」戦車隊

2017年発表の本書は、昨年「北朝鮮急襲」を紹介した、トム・クランシー&スティーヴ・ピチェニック原案の<新オプセンター・シリーズ>。扶桑社から翻訳出版された4作目にあたる。実際の執筆は、ジェフ・ローヴィンとジョージ・ガルドリスキだ。 舞台は、今…

アカウンタビリティ・ジャーナリズムの実例

昨日「データ・リテラシー」のメディア論を紹介して、ジャーナリズムのあるべき姿として権力者などの知られたくないことを暴く<アカウンタビリティ・ジャーナリズム:調査報道>について勉強した。これはジャーナリズムの本来あるべき姿なのだが、労力もリ…