新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2023-01-01から1ヶ月間の記事一覧

Air Sea Battle(ASB)はどう展開する?

本書は元陸上自衛隊東部方面総監渡部悦和氏の、米中戦争シミュレーション。2017年発表とやや古いのだが、台湾・南沙・尖閣・南西諸島をめぐる紛争がどのように展開するかを予測、解説した書。 米中両軍とも、この地域で「接近阻止/領域拒否(A2/AD)戦略」…

11人のプロボノ著者たち

本書は今日(2023年1/30)発売されるもの。なぜそんなものを持っているのかと言うと、著者の一人から事前に貰っていたから。こういうのを「私家版」というのだっけ。テーマは「昨今リスクが急騰しているサイバー攻撃にどう備えるか」である。 サイバーセキュ…

2時間ドラマから映画へ

本書は、TV朝日の人気ドラマ「相棒」の最初の映画脚本をノベライズしたもの。2008年公開の映画で、脚本は戸田山雅史、ノベライズは司城志朗。2時間ドラマでスタートしたこのシリーズ、今はシーズン21を放映中である。映画も、スピンアウト2作(鑑識米沢守…

国際的宗教の自由法

2021年発表の本書は、名古屋市立大学松本佐保教授(専門は国際政治史)の米国内の宗教事情レポート。プーチンの支持勢力にロシア正教、トランプの支持勢力にキリスト教福音派がいることは、よく知られた事実。本書はもう少し深堀して、米国政治に宗教がどう…

ドイツの「どんでん返し職人」

かつてはミステリーと言えば、英国と米国。あとフランスの犯罪&サスペンスものが少々という印象だった。しかし北欧諸国やイタリアのものも紹介されるようになったが、ドイツのミステリーというのは記憶にない。しかし2006年に「治療島」でデビューしたセバ…

衣食足り、家族の幸福を

2022年発表の本書は、以前「中国人のお金の使い方」を紹介したジャーナリスト中島恵氏の近刊。前著はアッパーミドルクラスの中国都市市民の日常と、生活感を描いたものだった。本書は、それから1年経ち、もう少し庶民的な都市部の市民の「ゼロコロナ・共同…

3組の相棒が固まる

本編は、以前紹介した「NCIS-LA:極秘潜入捜査班」のシーズン2のDVD。メインキャラのG・カレンとサム・ハンナが前面に出ている比率が、シーズン1より少し下がった。彼らは立派な「相棒」で、その会話(特に2人で車に乗っている時)は長く連れ添った夫婦の…

「千三」と言われた経営者

2022年発表の本書は、昨年惜しくも亡くなった出井伸之氏のビジネスマンに対する「応援歌」。著者には20年ほど前にお会いし、デジタル政策の文書をまとめることのお手伝いをさせていただいた。曰く「官僚に筆を持たせるな」。本書にも、企業が監督官庁を意識…

ロシアのウクライナ侵攻(後編)

<ザ・キャンパス>がセバストポリから無事に脱出したころ、ジャック・ジュニアは独自にスイスのプライベートバンクのカネの流れを追っていた。ところが所属する調査会社の経営者キャスターは、ジャックを外そうとする。実はジャックが追っているカネの流れ…

ロシアのウクライナ侵攻(前編)

2013年発表の本書は、軍事スリラーの大家トム・クランシーの遺作。昨年スティーブ・ピチェニックとの共著「暗黒地帯」でも取り上げられたウクライナ紛争を、大統領ジャック・ライアンのシリーズでも扱ったものだ。共著者はマーク・グリーニー。クランシーが1…

全共闘出身の東大教授

今日1/21は、本書の著者西部邁氏の命日である。著者は本書を口述し校正まで終わった2018年の今日、多摩川で入水自殺を遂げる。享年78歳。50歳代のころから死に方を考えていて、何度か自殺を考えている。2014年に奥様を亡くしてから、決意を固めたらしい。 著…

Economic Statecraft(ES)の時代

本書は今月(2023/1)発売されたばかり。先に「ガバメントアクセスと通商ルール」を紹介したCFIEC編の国際情勢論である。この団体とは、国境のないサイバー空間での議論をさせてもらっている関係で、このような書籍を送ってもらえている。本書のテーマは、ウ…

基本はC2(Command & Control)

先月まで松村劭元陸将補の「戦争学シリーズ」を月末に紹介してきたが、本書(2021年発表)は、その後継のような書。著者の木元寛明氏も元陸将補で、軍事史の研究家である。米陸軍兵站管理大学(ALMC)への留学経験があり、米軍の思想を深く学んだ。本書の事…

「一日内閣」を狙ったテロ

昨日に引き続き、本書も西村京太郎の「十津川警部もの」。1999年に発表されたものだ。初期の頃の趣向を凝らした作品群と違い、このころの作品は2時間ドラマの脚本のようになった印象を持っている(大家に対して誠に失礼ながら)。 昨日の「特急北斗1号殺人…

流氷の海で死にたい

1987年発表の本書は、トラベルミステリー作家として名高い西村京太郎中期の作品。昨年「華麗なる誘拐」「D機関情報」と初期の作品を紹介してきた。1作ごとに大掛かりな仕掛けをした作品群で、ミステリーという枠を大きく広げたものと捉えている。それに比…

「静かな有事」の世界版

2021年発表の本書は、この2日「未来の年表」2冊を紹介したジャーナリスト河合雅司氏の、世界版少子化問題を分析した書。「静かな有事」と言われるこの問題、実は日本だけのことではない。今年80億人に達したという総人口、国連の推計では2100年に110億人に…

少子化日本の処方箋(後編)

筆者は少子高齢化を「静かなる有事」とよんで、危機感を露わにする。では、その危機に対しての10の処方箋とは、 ■戦略的に縮む 1)高齢者の定義をもっと高い年齢にし、高齢者数を減らす 2)便利すぎる24時間社会を止め、必要な労働力を減らす 3)コンパク…

少子化日本の処方箋(前編)

今日明日と、ジャーナリスト河合雅司氏の少子化日本の処方箋「未来の年表」を紹介したい。「日本でこれから起きること」と副題された第一作が2017年に、「日本であなたに起きること」という第二作が2018年に出版されている。 どちらも前半は「起きること」な…

二つの日記、二人の訳者

1992年発表の本書は、南仏カンヌ出身の女流作家ブリジット・オペールのデビュー作。裏表紙の解説に「フランスの新星によるトリッキーなデビュー作」と紹介されていたので、知らない作者だったが買ってみることにした。「トリッキー」とう言葉に僕は弱い。た…

雌鶏が鳴き叫べば、家が滅ぶ

昨年も一杯ミサイルを撃ってくれた北朝鮮。国内経済は瀕死の状態のはずなのに、独裁者金正恩の暴挙は止む気配がない。加えて妹金与正の言葉も激しくなってきている。かつて平昌五輪の時に兄と一緒に現地を訪問し、柔和な印象を与えた彼女とは人が替わったか…

フランスの危機、2015年1月11日

本書は以前「グローバリズム以後」「ドイツ帝国が世界を破滅させる」などを紹介した、歴史人口学者・家族人類学者エマニュエル・トッド氏が、<シャルリーエブド事件>をきっかけに母国フランスを見つめ直した書。この出版社を襲ったテロ事件は2015年1月7…

10の階段を登っていく

今日は110番の日。2020年発表の本書は、キャリア警察官僚出身のミステリー作家古野まほろの警察組織紹介。ミステリーでは、○○警部や××警視が出てきて捜査の指揮を執る。ある作品には「警部補ともなれば、勝手な越境捜査くらいはできる」とあったが、これはと…

政府へのデータ活用制約提案

21世紀は「Data Driven Economy」の時代だが、データの活用は産業界だけのテーマではない。むしろ各国政府にとって、より大きな意味を持つ。いい意味では「Evidence Based Policy Making」のような、確とした統計データに基づく政策決定のようなこともあるだ…

交戦規則下での尖閣防衛戦

2020年発表の本書は、尖閣諸島を巡る日中両軍の海戦をハイライトにした架空戦記。作者の喜安幸夫は「台湾週報」編集長を経て、作家に転じ「台湾の歴史」で日本文芸家クラブでノンフクション賞を受賞している。李登輝友の会、日本ウイグル協会会員でもある。 …

大日本帝国のぜいたく品

中国・韓国ほどではないが、日本の大学受験もなかなかの過当競争。昨年の共通テストでは、スマホ経由のカンニング事件も摘発(罪名:偽計業務妨害)されている。いい学校に入りたいという欲求は、どの時代にも存在する。明治中期から昭和初期にいたる日本(…

経済安保法制に影響した論説

昨日「中国のデジタル・イノベーション」という日中連携を推奨する本を紹介したのだが、2021年発表の本書はそれに警鐘を鳴らした。読売新聞が2020年に1年間、「安保60年」という連載を掲載した内容を書籍化したもの。中露対日米欧の「テクノロジー冷戦」が…

「大衆創業・万衆創新」の国

2022年発表の本書は、(一財)日中イノベーションセンター主席研究員小池政就氏の中国のイノベーション事情とそれを日本がどう生かすかのレポート。日中協力・連携を進める視点で、いくつかの主張が盛り込まれている。筆者の専門は国際関係、エネルギー、技…

華麗なチームワーク

昨年シーズン3を紹介した往年のTVドラマ「Mission Impossible」。シーズン2と3が好きなのだが、今回ようやくシーズン2のDVDが手に入った。50年以上前のドラマは、Bookoffでもなかなか見つからないのだ。 このシーズン2が放映されたのは1966年、今回から…

処刑人ジャック・ケッチの影

1930年発表の本書は、以前「夜歩く」を紹介したジョン・ディクスン・カーの「バンコラン判事もの」の第二作。後にフェル博士やメリヴェール卿を探偵役にして不可能犯罪ものでブレイクするが、この時点では「怪奇趣味のミステリー」程度にしか評価されていな…

日本の21世紀ミステリー

欧米のミステリーは1930年代に一つのピークをつけ、その後バラエティ豊かなものになって、現在は本格的なパズラーは比率を大きく減らした。僕自身も21世紀の欧米作品で一番多く読んでいるのは、軍事スリラーかスパイものである。 しかし(奇跡的に)日本では…