2025-05-01から1ヶ月間の記事一覧
余詰めのない、厳密な長編ミステリーを追い続けた作家土屋隆夫。2004年発表の本書は、そのデビュー(1949年)から55年目の作品である。発表当時、作者は87歳。アガサ・クリスティにも匹敵する、息の長い作家である。 名作「天狗の面」(1958年)も、長野県を…
1960年発表の本書は、巨匠松本清張が10ヵ月間<読売新聞>に連載したミリオンセラー。日本の社会派ミステリーの金字塔である。新書版で500ページ近い大長編で、何度も映像化されている。 蒲田駅に近い場末のトリスバーに、中年と青年の2人が入ってきた。注…
2024年発表の本書は、経済学者で一橋大名誉教授野口悠紀雄氏の税制論。日本の社会保険料を含む税制は「透明・簡素・公平」には程遠く、政権が行き当たりばったりの改訂を行って、より不透明・複雑・不公平なものになったとある。自民党の裏金問題の本質はこ…
日露戦争で日本海軍の活躍は、欧米各国の注目を集め、警戒感を募らせることになった。また海軍自身も自信にあふれ発言力も強くなって、予算を獲得し「より大規模に、より強力に」なろうとしていた。 1907年、米国は日本を威圧する「ホワイトフリート」を派遣…
1993年発表の本書は、東北大学などで教鞭を執った池田清教授(欧州国際関係史)の日本海軍興亡史。筆者は薩摩出身、海軍兵学校を卒業し「摩耶」「武蔵」などに乗り組んだ人。日本海軍は近代日本の勃興とともに、ゼロから急速に発展し、世界第三位の実力を持…
1923年発表の本書は、以前紹介した「製材所の秘密*1」に続くF・W・クロフツの第四長編。ずっと探していて、装丁もボロボロな状態のものを<新橋古本市>で見つけた。これ以降の長編ミステリーはすべてフレンチ警部が探偵役を務めるので、作者の初期作品の最後…
1989年発表の本書は、リチャード・ハウとデニス・リチャーズの手になるWWⅡのドキュメンタリー。電撃戦で西ヨーロッパを席巻したナチスドイツの前に残されたのは、島国英国のみ。英国にはシンパシーを感じていたヒトラーは、盛んに降伏を勧めるが、チャーチル…
多国籍(ベルギー・ドイツ・南ア・コルシカ出身)の仲間4人を集めたシャノンは、彼らに命じて、必要な物資の調達を始め、彼らは欧州狭しと走り回る。 ・ナチスドイツが隠した短機関銃100丁と、9mm弾40万発 ・小型輸送船と口の堅い船長、船員数名 ・迫撃砲、…
1974年発表の本書は、フレデリック・フォーサイスの軍事スリラー。「ジャッカルの日」でデビューした作者は特派員としてビアフラを訪れ、そこに「現代の地獄」を見た。植民地支配を離れたとは言うものの、以前より過酷な生活を市民は強いられていた。アフリ…
以前レン・デイトンのリアルなスパイもの<バーナード・サムソン3部作(*1)>を紹介した。三作目「ロンドンマッチ」でシリーズは終了したと思ったのだが、実はその後3作が発表され、さらに1990年の本書で「7部作完結」となっていた。3部作はベルリンの…
2023年発表の本書は、懐かしい軍事ジャーナリスト田岡俊次氏の現代日本への警鐘。天安門事件や湾岸戦争から、TV朝日のニュース番組の常連として活躍した人で「砂漠の盾作戦」から米軍の反撃までの期間を、エイブラムス戦車の燃費(リッター数百m)から算出…
1997年発表の本書は、エド・マクベインの<87分署シリーズ>。クリング刑事中心の「ロマンス」に続く作品で、ひさびさにホース刑事が登場する。刑事たちは3交代勤務をしている。800-1600の昼勤、1600-2400の夜勤、000-800の深夜勤だ。この週、キャレラとホ…
1982年発表の本書は、エリス・ピーターズの<修道士カドフェルもの>の第六作。スティーブン王と女帝モードの内乱は激しさを増し、近隣の街ウスターでも殺戮が行われた。大勢の避難民がシュルーズベリの街にもやってきて、修道院は彼らを救うので手いっぱい…
2022年発表の本書は、日本エネルギー経済研究所専務理事小山堅氏のエネルギー経済安全保障論。冒頭その定義があり「必要十分な量のエネルギーを合理的・手頃な価格で確保するため、国家や経済主体が意思決定や外交などの自由度を失わないよう計らうこと」と…
本書は多作家西村京太郎の初期の作品、本書と同年の1978年にはトラベルミステリー「寝台特急殺人事件」が出版されていて、以降十津川警部ものが作品の主流になる。あまりにも多くの作品が発表されているので、後期のこれらのシリーズは「書き流し」の傾向も…
2025年発表の本書は、調査会社マルナカインターナショナル代表の中尾ちゑこの手になるオムニバス短編集。テーマはスーパー<マルハン>の繁栄と崩壊である。 <マルハン>は、TVドラマ「おしん」のモデルとなった和田カツが夫と野菜の行商から始めた青果店が…
2019年発表の本書は、「京都ぎらい*1」の著者井上章一教授と、「テンプル騎士団*2」の著者佐藤賢一氏の歴史対談。なんでも本書の前に井上教授(建築意匠学)が「日本史のミカタ」という対談本を出版していて、世界史版の対談者に佐藤氏を指名したとのこと。…
1974年発表の本書は、W・リンク&R・レビンソンが脚本も書いた<刑事コロンボもの>。なぜかTVでの放映はされず、ノーベライゼーションとして出版されている。「幻のシナリオ」に終わった理由はいくつか考えられる。 ・シナリオ自体が長すぎる ・カリブ海ロ…
1973年発表(&放映)の本書は、W・リンク&R・レビンソンの<刑事コロンボもの>のノーベライゼーション。コロンボ警部と言えば、 ・よれよれのレインコート(カリフォルニアではまずお目にかからない) ・安葉巻を吸って灰をまき散らす ・廃車寸前のボロプ…
久しぶりに<刑事コロンボもの>の未読作品が3冊まとめて手に入った。いずれもW・リンク&R・レビンソンの手になるノーベライゼーションで、今日から3日間で紹介したい。1972年発表の本書は、脚本が「処刑6日前」などのサスペンスで鳴らした作家ジョナサ…
2022年発表の本書は、朝日新聞論説委員蔵前勝久氏による、地方議員や組織から見た自民党論。議会や議員会館での国会議員しか知らず「どうしてこうできないのかな?」と思うことの多い僕には、きわめて腑に落ちる話だった。 自民党議員は岩盤支持層や組織票を…
多希は暴落当日、自らの応札値では大きな損失が出たと思ったが、実は上司の古賀が入札直前に価格を書き換え、損失は出していない(*1)ことを知る。なぜ書き換えたのか詰め寄る多希を古賀は突き放すが、その日の帰路タクシーで野田同様の襲撃を受ける。 メモ…
2000年発表の本書は、債券ディーラー出身の作家で最近はTVコメンテータでもある幸田真音氏のフィナンシャルスリラー。特捜刑事の佐島は「一匹狼」、日系証券会社の間宮部長を容疑者とする巨大な贈収賄事件を数ヵ月にわたって追っている。その過程で名前の浮…
2013年発表の本書は、昨年末紹介したマウリツィオ・デ・ジョバンニの<P分署シリーズ>の第二作。21世紀に、ナポリを舞台に展開するイタリア版<87分署もの>。先達と同じく、複数の事件が並走し、やがて関連してきたりそのままになったり、未解決で終わっ…
2024年10月発表の本書が、もうBook-offに入荷していた。著者の及川順氏はNHKの記者で、現在は沖縄勤務。直前の米国駐在時代の知己を頼ってまとめたのが、この大統領選挙直前レポート。「米国の分断」は若者層でも顕著で、帯にあるように「極右から急進左派ま…
2010年発表の本書は、ウィリアム・ピーター・ブラッティのスパイスリラー。この作家の名前は知らなかったのだが、映画「エクソシスト」の原作者(1971年)とある。他にユーモア小説も発表しているが、根底にあるのは宗教観だと解説にある。宗教への関心が「…
2003年発表の本書は、何冊も架空戦記を書いている霧島那智の、太平洋戦争架空戦記。230作品ほど書いた作家だが、若桜木虔と瑞納美鳳の協同執筆らしい。高速戦艦「霧島」と重巡洋艦「那智」をくっつけたペンネームで分かるように、帝国海軍ものが多い。 本書…
本書は、これまで「寒い夫婦」と社会派短篇集「媚薬の旅」を紹介した土屋隆夫の本格短編集。長編ミステリーでは「事件÷推理=解決」という余詰めを許さない厳格な姿勢を崩さない作者だが、短編では「意外性」を重視して上記の方程式にはこだわっていない。 …
1966年発表の本書は、惜しまれながら亡くなった国際政治学者高坂正堯教授(享年62歳)の外交・安全保障論。冒頭、具体的な平和への措置をいくつか検討し、すべてが不満足なものだったと結論づけている。平和を論ずる場合「抽象的な平和」を語る人が多いが、…
本書は、2019年封切りの映画「空母いぶき」のノベライゼーション。原作は漫画家かわぐちかいじが、<ビッグコミック>に2014年から連載した作品である。集団的自衛権の行使までは出来るようになったが、現在のような防衛関連文書の改訂が成されていない状態…