新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2026-05-01から1ヶ月間の記事一覧

フレイル荘に立ち込める殺意

1932年発表の本書は、アリバイ崩しの名手F・W・クロフツの<フレンチ警部もの>。今回警部はアリバイではなく、密室トリックに挑むことになる。 仕事を無くして途方に暮れていた28歳の娘アンは、ケント州の町で待遇の良い仕事を見つけ喜んでいた。フレイル荘に…

在ウェールズ司教区の復興

1991年発表の本書は、エリス・ピーターズの<修道士カドフェルもの>の第18作。無政府時代のイングランドを舞台にした大河ドラマも、そろそろ大詰めが近い。主人公カドフェルも60歳代半ばになり、もう遠出はできないなと思っている。 内戦が小休止になり、各…

黒人街の白骨死体は誰?

1992年発表の本書は、これまで「凍てついた夜」「第一容疑者」を紹介したリンダ・ラ・プラントのノーベライゼーション。本書もグラナダTVで放映されたもので、前作同様サウザンプトン・ロー署のジェイン・テニスン主任警部が主人公。 前作の活躍が評価された…

データと企業事例にみる未来

2024年発表の本書は、リクルートワークス研究員の坂本貴志氏の日本経済未来予測。少子化と人手不足によって、企業の在り方も変わり「安い労働力」で経営することはできなくなった。その転換点でなにが起きているか、データと企業事例から読み解こうという経…

海の架空戦記作家、横山信義の原点

1992年発表の本書は、大艦巨砲主義・海の架空戦記作家横山信義の原点というべき、全5巻シリーズ。僕より2歳若い作者は、自動車メーカー勤務時代に書き始めたWWⅡの海戦で「if」を求めた架空戦記を、今も書き続けている。 帝国海軍には、主力艦たる戦艦・巡…

田舎町のレイプ殺人事件

1990年発表の本書は、警察小説の雄ヒラリー・ウォー晩年の作品。作者は40年以上にわたり、40冊ほどの長編を遺した。その大半が警察小説で、長くレギュラーを務めた探偵役はいない。市民を守る警察活動を活写することが中心で、魅力あるレギュラー主人公とい…

神のごとく暮らせる村の殺人

2008年発表の本書は、英国<ガーディアン紙>の記者マーティン・ウォーカーのミステリーデビュー作。外国支社勤務が多かった作者が選んだ舞台はフランス南西部、人口2,900人の村サンドニ。有名なラスコーの洞窟壁画が近くにある以外は、ごく普通の山村だ。顔…

交錯する作中と現実の事件(後編)

ピュントは、一度意識を失うなど病気が進んでいた。ブラキストン夫人の死とサー・マグナスの死の間に、パイ屋敷では盗難事件もあった。湖の底をさらい盗品を見つけるのに成功したピュントは、ロバートの父親で、今は夫人と別居しているマシュー・ブラキスト…

交錯する作中と現実の事件(前編)

2017年発表の本書は、ジュブナイルからTVドラマ脚本(*1)、ホームズもの、ボンドものまで幅広い作品を生み出してきたアンソニー・ホロヴィッツのクリスティ愛に溢れたミステリー。2018年に邦訳出版されるや、その後の3作品も含めていずれも「週刊文春ミス…

動機が満載の首吊り事件

1933年発表の本書は、4ヵ月続けて「レイトン・コートの謎」などを紹介した、アントニー・バークリーの<名探偵シェリンガムもの>。フランシス・アイルズ名義のものも含めて、凝った趣向でマニアをうならせる作者だが、本書は70年近く邦訳されなかった「幻…

21世紀、英国政治の迷走

2025年発表の本書は、英国現代政治が専門の東京外国語大学教授若松邦弘氏の「21世紀の英国政治評」。権力を持つ下院は純粋小選挙区制なので、保守党・労働党の二大政党が政権交代をにらみながら対峙してきたのが英国。この2政党の対立軸は20世紀には、経済…

美しすぎるアバズレの死

1999年発表の本書は、デボラ・クロンビーの<ダンカン&ジェマもの>の第6作。前作「警視の死角」で死んだ元妻の忘れ形見キットが、自分の子供だったことを知ったダンカン・キンケイド警視は、キットとの距離感に悩んでいる。恋人で部下でもあるジェマ・ジ…

「いけず先生」の美人論

2017年発表の本書は、新書大賞受賞作「京都ぎらい*1」などを紹介した風俗史研究家井上章一氏の「美人論」。NHKBS「いけずな京都シリーズ」の案内人として知り、何冊かその「はんなり」した論説を拝読した。前書きに、旅行者にとっての京都の魅力とは、 ・一…

元MPの警部と因縁ある人達

1988年発表の本書は、映画「プレシディオの男たち」のノベライゼーション。パラマウントの配給で、原作はラリー・ファーガスン。ノベライズをマイク・コーガンが担当している。 映画の主演は名優ショーン・コネリーで、サンフランシスコの陸軍基地プレシディ…

デアンドリアの国際陰謀小説

1984年発表の本書は、<マット・コブもの>など本格パズラーで読者を楽しませてくれたW・L・デアンドリアのスパイスリラー。米ソ冷戦のスパイ戦、サスペンス横溢の誘拐もの、「ホッグ連続殺人*1」に代表される作者の特徴「言葉遊び」が詰まった、カテゴリ分け…

プーチンが報復を止めない理由

2025年発表の本書は、国際ジャーナリスト春名幹男氏の「ソ連崩壊からプーチンの報復の理由」解説。米国のレーガン政権が謀略を持ってソ連を追い詰め、これを崩壊させた。謀略は、諜報機関所属のスパイ、二重スパイらが入り乱れて少しずつ進んだ。KGBのプーチ…

自らと依頼人の「父娘の絆」

2004年発表の本書は、「家族の名誉*1」に始まるロバート・B・パーカーの<サニー・ランドルもの>第四作。同じボストンを舞台にした<スペンサーもの>では「背徳*2」と同時期のもので、スペンサーのパートナーである精神科医スーザン・シルヴァーマン博士がサ…

旅情と男女の愛欲の犯罪

1993年発表の本書は、津村秀介の短編集の第6集。以前「湖畔の殺人」を紹介しているが、作者の短編集は長編シリーズ「浦上伸介もの」と異なり、アリバイ崩し主体のパズラーではない。表題作に伸介たちが登場することはあるが、ほとんどの短編はリアルな犯罪…

おはよう、ブリッグス君

このDVDは、オリジナル「Mission Impossible」のシーズン1。まだジム・フェルプス(ピーター・グレーブス)が登場せず、リーダーはダン・ブリッグス(スティーブン・ヒル)である。シナモン・バーニー・ウィリーは最初からレギュラーだが、ほぼ全ての話に登…

収奪的でないイノベーション

2025年発表の本書は、BNPパリバ証券のチーフエコノミスト河野龍太郎氏の日本経済展望。昨日の「ほんとうの日本経済」は政策の中でも作戦/戦術級のものを扱っているが、こちらは戦略級のマクロな視点に立った経済書である。 冒頭、日本経済は生産性が伸びて…

恒久戦時経済のススメ

2022年発表の本書は、以前「基軸通貨ドルの落日*1」を紹介した評論家中野剛志氏のインフレを研究した経済安全保障論。ロシアのウクライナ侵攻後の例えば中東紛争は起きていない時期の論考だが、確かに筆者の予測する方向に世界は動いている。 世界的なインフ…

殺し屋に狙われた殺し屋

2000年発表の本書は、名匠ローレンス・ブロックの<殺し屋ケラーもの>。以前連作短編集「殺し屋」を紹介(*1)していて、そこに収められているのが1990~1998年の作品だった。本書はその後日談とも言える長編。しかし内容は、ハンドラーのドットが受けてく…

浮浪者バーンズ軍曹たちの闘い

1969年発表の本書は、以前「黄金猿の年」を紹介したコリン・フォーブズのWWⅡ戦記。1940年の5月、ドイツ軍の電撃戦でベネルクス3国やフランス北部が席巻されてしまう。かの地には英国の大陸派遣軍(BEF)もいたのだが、散り散りになりダンケルク目指して撤…

配達されなかった3通の手紙(後編)

2通目の手紙も失われて、最後の2人がすがったのはもともとの現場に残された金庫。実は金庫は新旧あって、古い金庫に最後の1通が残されていた。ウォーカーが査問委員会メイヤー判事宛てたもので、 ・英国船ルシタニア号の沈没に関する聴聞会を行ったと聴い…

配達されなかった3通の手紙(前編)

2003年発表の本書は、モンタナ州在住くらいしか情報のない作家ロバート・ライスのデビュー作。米国政府の捜査官の中でもなじみのない郵政捜査官ギリアン・ルーミスを主人公に、郵便局での射殺事件捜査の中で、90年前に投函されながら配達されなかった手紙の…

東京旅行のための嬉しいガイド

新刊本の書店に立ち寄ったのは、いつ以来だろうか?ましてや月刊誌を買うなど、本当に久しぶりである。一昨年くらいから東京(といより江戸)下町滞在を始めていて、永代橋のたもとの定宿が気に入っている(*1)。 きっかけは江東区にオフィスを移したこと。…

Uボートの群れ対連合艦隊

2022年発表の本書に始まるシリーズ6巻は、大鑑巨砲作家横山信義の架空戦記。WWⅡにおける連合艦隊の相手として英米軍では強すぎるので、作者としては何らかの工夫をしなくてはならない。タイムスリップや宇宙人の秘密兵器のようなSF的手法を採らないとすれば…

日本を戦略的に鍛える教材

2022年発表の本書は、軍事評論家小川和久氏の「地政学リスクの読み方」。以前「日本人が知らない集団的自衛権*1」などを紹介しているが、本書も、 ・日本人は戦争のことを知らない ・メディアも関連したことを報道しない と批判し、ウクライナ紛争と台湾有事…

違憲か否か、司法はどう対処したか

2025年発表の本書は、以前「憲法の良識」を紹介した憲法学者長谷部恭男教授と、棚橋桂介弁護士、朝日新聞豊秀一編集員の対談本。テーマは安倍2.0政権で成立した、安保法制(集団的自衛権)に対する集団訴訟とその判決である。 安倍総理は「戦後レジームから…

パトリック・クェンティンの最高傑作

1955年発表の本書は、これまでやや軽めのミステリー<ダルース夫妻もの>を何冊か紹介した、パトリック・クェンティンの文学的なミステリー。発表と同時に大変な好評を得て、ベストテン級の傑作と評価された。 出版社で社長の娘ベッシィの婿として要職にある…