新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

歴史・軍事史

平和主義と戦争研究

本書は、国際政治学者藤原帰一教授の近著・・・と思って買ってきたら、2003年発表の書のリメイク(2022年出版)だった。しかし不思議なことに、論じられている国際情勢やイデオロギー対立、戦争と平和などは、現在にあてはめても十分意味がある。 冒頭、戦争に…

それでもプーチンは闘う

2022年発表の本書は、以前「米中戦争~その時日本は」を紹介した元東部方面総監渡部悦和氏が、井上武元陸将・佐々木孝博元海将補との対談でまとめたウクライナ紛争(初期)の分析。巻末に、世界はどう変わり、日本はどうすべきかの提案もある。 侵攻開始から…

大きくなればなるだけ弱くなる

2021年発表の本書は、以前「戦争にチャンスを与えよ」「中国4.0」を紹介した、CSIS上級顧問エドワード・ルトワック氏に奥山真司氏がインタビューしたまとめたもの。前2作と同様の建付けである。軍事史・戦略史に詳しいルトワック氏は、中国の習政権は追い詰…

脅威=手段✕機会✕目的✕動機

2021年発表の本書は、何度かご紹介している元外交官宮家邦彦氏の近著。氏の論説や「朝までナマTV」などでの発言には重みを感じているのだが、本書は飛び切りのインテリジェンス教本である。現在の日本が直面する最大のリスクは、台湾有事と考えてもいいだろ…

航空戦力強化のトライアル

第二次世界大戦は、戦略的には「空の闘い」だった。陸上・海上を問わず、制空権なき側は必ず敗れた。膨大な記録も残されていて、僕らは ・戦闘機 零戦、Bf109、Fw190、F6F、P51、スピットファイア ・爆撃機 一式陸攻、Ju87、Ju88、B17、B25、B29、アブロラン…

3人のドイツ航空技術者

第一次世界大戦で敗戦国となり、多くの「枷」を掛けられたドイツだが、1930年代に奇跡とも思える復活を遂げる。政治的統一・産業振興・軍備の拡張のいずれもが、上手くいっているように見えた。その中の一つに、航空機産業がある。日本も含めて各国が航空機…

侵略を主導したのは民間

朝鮮半島の歴史については、以前呉善花著「韓国併合への道」で李氏朝鮮末期の腐敗・混乱ぶりを、また池東旭著「韓国の族閥・軍閥・財閥」で半島が常に周辺から収奪される存在であったことを紹介した。今も「日帝支配への恨」の意識が残る韓国だが、ではその…

失敗して当たり前

2015年発表の本書は、警察官僚で危機管理分野を担当する警察大学校の樋口晴彦教授の危機管理論。多くの危機管理の実例を示した、実践的な書だ。ただ後半は太平洋戦争や幕末の戦争指導の例が多く、あまり新味はない。それよりも前半、福島原発事故など昨今の…

キリスト教世界の繋がり

本書は、これまで4冊を紹介している21世紀研究会の「世界地図シリーズ」の1冊。今回は「人の名前」である。中国や朝鮮半島、その他地域の名前にまつわるエピソードも興味を引くが、何と言っても本書全体の2/3を占めているキリスト教文化圏の名前の由来が面…

日本が抱える「内憂外患」

2021年発表の本書は、内閣官房参与で外交評論家の宮家邦彦氏が<Voice誌>の巻頭言を2018~2020年にかけて執筆した内容をまとめたもの。先日筆者が<朝までナマTV>で「国会で秘密会をやってくれ」との発言に注目して、本書を読んでみた。 国会の秘密会と議…

Air Sea Battle(ASB)はどう展開する?

本書は元陸上自衛隊東部方面総監渡部悦和氏の、米中戦争シミュレーション。2017年発表とやや古いのだが、台湾・南沙・尖閣・南西諸島をめぐる紛争がどのように展開するかを予測、解説した書。 米中両軍とも、この地域で「接近阻止/領域拒否(A2/AD)戦略」…

国際的宗教の自由法

2021年発表の本書は、名古屋市立大学松本佐保教授(専門は国際政治史)の米国内の宗教事情レポート。プーチンの支持勢力にロシア正教、トランプの支持勢力にキリスト教福音派がいることは、よく知られた事実。本書はもう少し深堀して、米国政治に宗教がどう…

Economic Statecraft(ES)の時代

本書は今月(2023/1)発売されたばかり。先に「ガバメントアクセスと通商ルール」を紹介したCFIEC編の国際情勢論である。この団体とは、国境のないサイバー空間での議論をさせてもらっている関係で、このような書籍を送ってもらえている。本書のテーマは、ウ…

基本はC2(Command & Control)

先月まで松村劭元陸将補の「戦争学シリーズ」を月末に紹介してきたが、本書(2021年発表)は、その後継のような書。著者の木元寛明氏も元陸将補で、軍事史の研究家である。米陸軍兵站管理大学(ALMC)への留学経験があり、米軍の思想を深く学んだ。本書の事…

雌鶏が鳴き叫べば、家が滅ぶ

昨年も一杯ミサイルを撃ってくれた北朝鮮。国内経済は瀕死の状態のはずなのに、独裁者金正恩の暴挙は止む気配がない。加えて妹金与正の言葉も激しくなってきている。かつて平昌五輪の時に兄と一緒に現地を訪問し、柔和な印象を与えた彼女とは人が替わったか…

大日本帝国のぜいたく品

中国・韓国ほどではないが、日本の大学受験もなかなかの過当競争。昨年の共通テストでは、スマホ経由のカンニング事件も摘発(罪名:偽計業務妨害)されている。いい学校に入りたいという欲求は、どの時代にも存在する。明治中期から昭和初期にいたる日本(…

弱者が強者に立ち向かうには

本書は、松村劭元陸将補の「戦争学シリーズ」の第四作。軍事行動には「決戦」と「持久戦」があるが、そのいずれもが採れないほど劣勢であるなら、本書にあるような「ゲリラ戦」が大きな選択肢になる。筆者によると、ゲリラ戦成功の要因は9つあって、 1)カ…

SNS革命、それぞれの事情

デモから暴動、治安部隊の弾圧を受けても民衆の炎は消えず、革命に至る。隣国や似た環境の国での様子を見て、自国でもと革命が連鎖する。近年はSNSの普及によって、炎の燃え広がり方が激しくなった。そんな実例となったのが「アラブの春」。2011年1月のチュ…

近代日本の外交と軍事

2020年発表の本書は、第二次安倍内閣で内閣官房副長官補を努め初代の国家安全保障局次長を兼務した兼原信克氏の近代日本史概説。以前、筆者が陸海空の名将を集めて司会をした座談会をまとめた「令和の国防」を紹介しているが、本書は単独執筆。外交官として…

現代に生きるTOPのための戦争学

「本所松坂町、吉良邸に響く山鹿流の陣太鼓・・・」は忠臣蔵のクライマックスで流れる弁士の台詞。ここに出てくる「山鹿流兵法」を現代風の戦争学入門編として解説したのが本書(2003年発表)である。著者の武田鏡村氏は日本歴史宗教研究所所長で、他に「黒衣の…

闘う空の脇役たち

以前「あっと驚く飛行機の話」の中で、第二次世界大戦での軍用機に関するコメントを紹介したが、対象が膨大なのでとても書ききれるものではない。このテーマで二冊目に紹介したいのが本書「忘れられた軍用機」である。 本書には42機の各国の軍用機が紹介され…

命を懸けた人たちの手記

本書は光人社NF文庫に2015年に加わったものだが、元稿は雑誌「丸」に掲載されたもので、ほとんどを実際に操縦槓を握って命のやり取りをした人が執筆している。23編の記事の内、1編が対談、1編が編集部による「未完成機の特集」だが、取り上げられている戦…

おもちゃ箱をひっくり返したよう

本書も三野正洋の「小失敗」シリーズの1冊、対象はヒトラーの軍隊である。副題に「第二次世界大戦戦闘・兵器学教本」とあるように、軍事思想を中心にした日本軍篇とは異なり、兵器の開発や運用が主な話題である。ただ冒頭、第一次世界大戦に学ばなかったと…

言霊論から見た原発事故

昨日、福島原発事故の「時の総理」菅直人氏の著書で「最悪の事態を考える」ヒントをもらったことを紹介した。同じく2012年発表の本書は、「逆説の日本史」で言霊論を展開している作家井沢元彦氏の視点で見た原発事故の背景。とはいえ、その件は全体の1/3、残…

戦後日本最大の危機

サイバーセキュリティ業界では、最近「最悪の事態を考えたリスク管理」の議論をしている。10月末にNHKBSで放送された「カトリーナは人災」のドキュメンタリーは、大変参考になった。さらに今回は戦後日本最大の危機といえる、東日本大震災とそれに伴う福島第…

有史2,600年、先人の知恵

本書は松村劭元陸将補の「戦争学シリーズ」の第三作、2,600年間の軍事史や20世紀の軍事革命を綴った前2作に続き、戦争学の理論を名将の言葉を借りて紹介したもの。野党や一部メディアは日本の軍事費について「削減して福祉等に廻せ」と言うが、 ・軍事費ほ…

無政府共産主義者たちの死刑

これまで夏樹静子「裁判百年史ものがたり」などで、死刑の実態を見てきたが、その中でも一度に12人を処刑したという<大逆事件>について、もっと詳しく知りたいと思って買ってきたのが本書。直木賞(復讐するは我にあり)作家の佐木隆三が、膨大な当時の記…

20世紀の4大兵器革命

本書は先月「戦争学」を紹介した、松村劭元陸将補の前著の続編。古代から2,600年間におよぶ戦史を紹介した前著と違い、世紀末の2000年に発表された20世紀の「戦闘教義」を網羅した書である。 総力戦下の国家の国力8要素と、戦いの9原則が前著で紹介されて…

大英帝国海軍の強敵

第二次世界大戦では多くの主力艦(戦艦・巡洋戦艦・航空母艦)が沈んだが、その多くは太平洋でのことである。早々に降伏してしまったフランス海軍や、戦艦4隻が建造中止になったソ連海軍、大型艦は逃げ惑うだけのイタリア海軍、精強だがわずかな艦艇しか就…

時代小説が歪めた(?)歴史

昨日、歴史小説家中村彰彦著「幕末を読み直す」を紹介した。歴史小説と時代小説の比較(線引き?)はとても興味深かったが、タイトルにある「幕末」の扱いが思ったより少なかったので、本棚の奥から本書を引っ張り出してきた。2005年発表の書で、著者は東急…