新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

21世紀のメディア論

2020年発表の本書は、フリージャーナリストであるマーティン・ファクラー氏のメディア論。筆者はAP通信やNYタイムズの東京支局長を20年に渡って務め、日米のメディア業界に精通している。 第四次産業革命の時代、重要なのはデータであるが、データの改ざんも…

いかに尊厳を持って死ぬか

光人社NF文庫の兵器入門シリーズ、今月は「ドイツ海軍」である。本来大陸国家であるドイツにとって、海洋国家英国と海で張り合うのは難しい。それでも第一次世界大戦では英国の半分ほどの大艦隊を配備し、史上最大の艦隊戦といわれる「ユトランド沖海戦」を…

戦勝国英国の「変な兵器」

三野正洋という人の著書は多いが、中でも面白いのがこの「小失敗」シリーズ、日本は10倍以上の国力の米国に喧嘩を売るという大失敗以外にも失敗をしていう「日本軍の小失敗の研究」を2冊出版していて、それらは以前紹介した。 本書はその考えを連合国側にあ…

私設鉄道でのパーティで事件が

1984年発表の本書は、シャーロット・マクラウドの「セーラ&マックスもの」の第五作。前作「ビルバオの鏡」で新婚早々美術品盗難事件を解決した2人は、今度は最初のクリスマスを前に伯父ジェムを巡る事件に巻き込まれる。口うるさいことこの上ないケリング…

鉄底海峡1942.8

本書の著者森本忠夫氏は、太平洋戦争当時海軍航空隊に所属、戦後京都大学から東レに入社、ビジネス部門を歩いて取締役・経営研究所長にまでなった。後に龍谷大学教授も務め、「ニッポン商人赤い国を行く」「ソ連経済730日の幻想」「貧国強兵」などの著書があ…

三世保安官マット・ゲイブリエル

1992年発表の本書は、ポーラ・ゴズリングの「ストライカー警部補&ケイトもの」の第三作。「モンキー・パズル」の事件で知り合った剛腕警部補ジャック・ストライカーと気の強い大学教授ケイト・トレボーンは、「殺意のバックラッシュ」事件で緊密な仲となり…

監視を抑制できるのは監視

本書は、2016年に自由人権協会(JCLU)が開催した「監視の”今”を考える」の内容を書籍化したもの。2013年に米国政府の内部情報をリークしてロシアに逃れているエドワード・スノーデンがビデオ参加し、日米の識者が彼に質問したり討論した記録である。 国家安…

女王得意の連続毒殺事件

1953年発表の本書は、女王アガサ・クリスティーの「ミス・マープルもの」。投資信託会社社長の怪死事件を、ひょんなことから関わったミス・マープルが、ロンドン近郊の街ベイドン・ヒースに足を運んで解明する話。 ベイドン・ヒースの水松荘には、実業家のレ…

684部隊の悲惨な暴動

1971年8月23日、極秘のうちに訓練を続けていた空軍684部隊の「兵士たち」が叛乱を起こし、教育兵の大半を殺害して脱走した。場所は仁川沖の無人島「実身島:シルミド」。彼らはここで、3年余りの期間、厳しい訓練を受けていた。正式な軍人でもなく記録には一…

5Gでなくてはならないアプリ

昨日紹介した「ファーウェイと米中5G戦争」が、5Gのアプリケーションについては漠としたスマートシティしか取り上げていなかった、改めて本書を手に取った。同じく2019年発表で、著者は野村総研(NRI)のコンサルタント亀井卓也氏。 別ブログでは何度か申し…

米中覇権争いとデジタル産業

2019年発表の本書は、激化する米中対立のなかでヤリ玉に挙がった中国企業(特にHuawei)と、5Gを巡る各国の思惑をレポートしたもの。著者の近藤大介氏は講談社の中国支社長を経験したジャーナリスト。深圳を始めとする、中国デジタル産業の内懐に入ったルポ…

犯罪かどうかの境目

憲法・民法・商法の裏表をわかりやすく紹介してくれたのが、弁護士ミステリー作家和久俊三の「おもしろ事典」シリーズ。実は本書(1977年発表)がその第一弾、「刑法おもしろ事典」である。作者もミステリーを書くにあたっては、殺人をはじめ重大事案を取り…

主張の9割に異論はなく

本書は2021年秋、自民党の総裁選挙を戦うタイミングで出版された、総裁候補の一人高市早苗衆議院議員の政策書。この時の総裁選には敗れたものの、党の政調会長に就任、今回の内閣改造では焦点の経済安保担当相となっている。「サナエノミクス」こと高市議員…

100人、もっとかな?分からない

本書はサウスカロライナ州フローレンスを中心に大量猟奇殺人をして、1991年に電気椅子にかけられたドナルド・ギャスキンズ(通称ピーウィー:ちび)の口述を、作家のウィルトン・アースが編集したもの。編者は、できるかぎりこの死刑囚の言葉(翻訳なのでよ…

昭和22年夏、N村の事件

先日高木彬光のデビュー作「刺青殺人事件」を紹介したが、評判の高かったこの作品を抑えて<探偵作家クラブ賞>を受賞したのが本書「不連続殺人事件」である。作者の坂口安吾は、新文学の旗手ともいわれた文壇の大家。「白痴」などの作品で知られているが、…

美しい海と疲弊する町

本書は2010年のほぼ1年間「週刊文春」に連載された、東野圭吾の「湯川学もの」の長編。2011年に単行本化されている。僕は湯川准教授のキャラクターはとても好きなのだが、小説そのものはもう少し工夫の余地があるのではないかと思っている。これだけの天才…

全21巻の架空太平洋戦記

20世紀の終わりごろ、日本には「架空戦記ブーム」があった。その多くは太平洋戦争を描いたもの。実際にあの悲惨な戦争を経験した人の多くは現役を引き、戦争体験を語ることも少なくなった。例えば僕らの世代では、戦記物などを読んで「あの時こうしていたら…

第六艦隊首席参謀の回想

著者の井浦祥二郎元大佐は、海軍兵学校を卒業後一貫して潜水艦部隊に所属し、日米開戦時には中佐としてハワイ作戦に参加している。終戦時には第六艦隊首席参謀・大佐の地位にあった。第六艦隊とは潜水艦隊のことで、多くの船を失った帝国海軍の中でも最後ま…

「基地の島・自然の楽園」の真実

僕ら夫婦も大好きな国内旅行先である沖縄、何がいいかと言うと、温暖でアロハで過ごせるところと、物価の安さ。僕は前者が、家内は後者が気に入っている。定宿のある宜野湾市は普天間基地を抱えていて、早く移転が完了してほしいと思ってもいる。 本書は2015…

探偵小説のすべてを盛り込み

戦後、日本は一種の探偵小説ブームになった。それまで世情を不安に落とすという軍部の意向で、発禁扱いだったのが解禁されたからだ。捕物帳などに逃げていた作者の復活もあったが、横溝正史や本書でデビューした高木彬光などの本格作家が登場したこともある…

BIの具体的な試算

昨日、一昨日と新しい分配の在り方についての書を紹介した。 ・井手英策「欲望の経済を終わらせる」 ・井上智洋「現金給付の経済学」 どちらもが取り上げていたのが、BI(ベーシック・インカム)の議論。前者は<維新の会>が主張するBIでは、消費税率を62%…

反緊縮加速主義の提案

本書は以前「人工知能と経済の未来~2030年雇用大崩壊」を紹介した、新進の経済学者井上智洋准教授の最新(2021年)研究。「人工知能・・・」で、AI時代にはBI(ベーシックインカム)が必要との主張をしていた筆者は、その後の「COVID-19」禍で、2030年に来るべ…

反新自由主義の研究

本書は、以前「リベラルは死なない」で旧民進党の制作ブレーンであることを示した慶應大学井手英策教授の近著(2020年発表)。著者は反新自由主義の研究者で、本来「頼り合う社会」であるはずなのに、フリードマンやハイエクらの影響で世界経済が互酬、再分…

五木流、人生100年時代の計

昨日、大前研一氏の「人生100年時代、自ら働き方改革をしてエクセレント・パースンになれ!」という書を紹介した。プロとしての生き様には参考になることも多いのだが、本書はもう少し内省的な「100年時代の計」。 著者の五木寛之氏は(紹介するまでもないが…

大前流、人生100年時代の計

本書は、経営コンサルタントの大前研一氏が「COVID-19」禍が始まった2020年の夏に、「個人が企業を強くする」という単行本の内容を加筆・訂正し、新書化して再出版したもの。もうじき80歳になろうという著者だが、舌鋒はますます鋭い。 テレワークに関して「…

海軍第343航空隊「剣」

太平洋戦争末期、圧倒的な質×量の米軍航空兵力に立ち向かえる帝国陸海軍戦力はあまりなかった。陸軍の隼や海軍の零戦では太刀打ちできない戦闘機や爆撃機を米国の技術と生産能力は量産していた。これらに対抗するため多くの試作機が作られたが、役に立ったも…

スペンサーvs.グレイマン

グレイマン(灰色の男)といってもマーク・グリーニーの描くコート・ジェントリーではない。もし相手がその男だったら、いかにスペンサーがタフガイでも、側にホークが付いていても命は助からない。ここで登場するグレイマンは、これまでスペンサーもので何…

インドの勢いと内在する課題

中国包囲網としての「QUAD」に加盟しながら、ロシアに制裁を加える米国主導のG7に背を向けて、ロシア主催の「BRICS」に加わるインド。もうじき人口で中国を抜くだろう超大国インドの動向は国際社会の注目の的だ。しかし僕自身この国のことを良く知らないので…

長十手の岡っ引き

笹沢左保著「木枯し紋次郎シリーズ」で手に入ったものは全部読んでしまい、しばらく作者にもご無沙汰だったのだが、今回本書が手に入った。作者には多くの時代劇シリーズがあるが「紋次郎」ほど有名なものは少ない。僕自身も「紋次郎シリーズ」を最初に紹介…

「シリアの友」たちの優柔不断さ

2017年発表の本書は、東京外国語大学教授の青山弘之氏(東アラブの政治・思想・歴史が専門)が、21世紀最大の人道危機と言われたシリア紛争を紹介したもの。日本ではこの地域のことを知ることができる書物は多くなく、今回はシリアという国について勉強させ…