新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

10の階段を登っていく

今日は110番の日。2020年発表の本書は、キャリア警察官僚出身のミステリー作家古野まほろの警察組織紹介。ミステリーでは、○○警部や××警視が出てきて捜査の指揮を執る。ある作品には「警部補ともなれば、勝手な越境捜査くらいはできる」とあったが、これはと…

政府へのデータ活用制約提案

21世紀は「Data Driven Economy」の時代だが、データの活用は産業界だけのテーマではない。むしろ各国政府にとって、より大きな意味を持つ。いい意味では「Evidence Based Policy Making」のような、確とした統計データに基づく政策決定のようなこともあるだ…

交戦規則下での尖閣防衛戦

2020年発表の本書は、尖閣諸島を巡る日中両軍の海戦をハイライトにした架空戦記。作者の喜安幸夫は「台湾週報」編集長を経て、作家に転じ「台湾の歴史」で日本文芸家クラブでノンフクション賞を受賞している。李登輝友の会、日本ウイグル協会会員でもある。 …

大日本帝国のぜいたく品

中国・韓国ほどではないが、日本の大学受験もなかなかの過当競争。昨年の共通テストでは、スマホ経由のカンニング事件も摘発(罪名:偽計業務妨害)されている。いい学校に入りたいという欲求は、どの時代にも存在する。明治中期から昭和初期にいたる日本(…

経済安保法制に影響した論説

昨日「中国のデジタル・イノベーション」という日中連携を推奨する本を紹介したのだが、2021年発表の本書はそれに警鐘を鳴らした。読売新聞が2020年に1年間、「安保60年」という連載を掲載した内容を書籍化したもの。中露対日米欧の「テクノロジー冷戦」が…

「大衆創業・万衆創新」の国

2022年発表の本書は、(一財)日中イノベーションセンター主席研究員小池政就氏の中国のイノベーション事情とそれを日本がどう生かすかのレポート。日中協力・連携を進める視点で、いくつかの主張が盛り込まれている。筆者の専門は国際関係、エネルギー、技…

華麗なチームワーク

昨年シーズン3を紹介した往年のTVドラマ「Mission Impossible」。シーズン2と3が好きなのだが、今回ようやくシーズン2のDVDが手に入った。50年以上前のドラマは、Bookoffでもなかなか見つからないのだ。 このシーズン2が放映されたのは1966年、今回から…

処刑人ジャック・ケッチの影

1930年発表の本書は、以前「夜歩く」を紹介したジョン・ディクスン・カーの「バンコラン判事もの」の第二作。後にフェル博士やメリヴェール卿を探偵役にして不可能犯罪ものでブレイクするが、この時点では「怪奇趣味のミステリー」程度にしか評価されていな…

日本の21世紀ミステリー

欧米のミステリーは1930年代に一つのピークをつけ、その後バラエティ豊かなものになって、現在は本格的なパズラーは比率を大きく減らした。僕自身も21世紀の欧米作品で一番多く読んでいるのは、軍事スリラーかスパイものである。 しかし(奇跡的に)日本では…

僕の「聖典」短篇集

ミステリーの聖典といえば、多くの読者はシャーロック・ホームズものを挙げるだろう。しかし「Xの悲劇」でこの世界を知った僕には(短篇集としての)聖典は、1934年にまとめられた本書である。 まだ悲劇シリーズの作者バーナビー・ロスがクイーンの別名であ…

直新陰流・小野派一刀流vs.我流

本書が笹沢左保の「木枯し紋次郎シリーズ」の最終中編集、さらに「帰ってきた紋次郎シリーズ」もあるというが、とりあえずはこれで打ち止め。全15巻のうち、13冊は読んだように思う。どうしてもTVドラマの印象が強いので、紋次郎といえば中村敦夫の顔が浮か…

グローバル時代、民主主義の危機

朝日新聞社は、毎秋「地球会議」という国際会議を開催して環境問題その他を議論している。2018年発表の本書は、2016・2017両年の会議に参加した世界の「知の巨人」4名の意見を編集したもの。テーマは「グローバル時代、民主主義の危機」である。4人の巨人…

弱者が強者に立ち向かうには

本書は、松村劭元陸将補の「戦争学シリーズ」の第四作。軍事行動には「決戦」と「持久戦」があるが、そのいずれもが採れないほど劣勢であるなら、本書にあるような「ゲリラ戦」が大きな選択肢になる。筆者によると、ゲリラ戦成功の要因は9つあって、 1)カ…

被害者は誰、そして犯人は?

1957年発表の本書は、女王アガサ・クリスティの「ミス・マープルもの」。ミス・マープルはセント・メアリ・ミード村をあまり出ることはないのだが、本書ではロンドンの北西、パディントン駅から列車で数十分の距離にある、ブラッカムプトンでの事件に巻き込…

最悪のシナリオの教本(後編)

上巻は、田所教授の地球物理学的仮説や、小野寺が操縦する深海調査船の活躍が中心だったが、下巻になると主役は日本政府に移る。最後まで名前の出てこない総理、官房長官、防衛大臣らが、田所教授らの調査結果を受けて展開する極秘の「避難計画」である。ま…

最悪のシナリオの教本(前編)

本書は日本を代表するSF作家小松左京が、足かけ9年の歳月をかけて書き上げた大作。東日本大震災&福島原発事故を目の当たりにした菅(当時)総理は、最悪5,000万人の避難を要する可能性を聞かされ、本書のタイトルを思い出したという。全800ページに及ぶ壮…

13作家の特別書き下ろし

1991年発表の本書は、セーラ・ケリングものをいくつも紹介したシャーロット・マクラウドが他の12人の作家に声をかけて、クリスマスに関わる短編を書き下ろしてもらいアンソロジーとしたもの。 英米の作家ばかりだが、おおむね自らのホームグラウンドを舞台に…

「殺さないで!」と出演者の悲鳴

このDVDは、ご存じ「ネイビー犯罪捜査班:NCIS」のシーズン8。シーズン6あたりから、メンバーの過去や家族を交えたエピソードが増えているが、それ以上にアクションやストーリーの規模は大きくなっている。また、これまで出演した登場人物が再度・再々度出…

孤独で、危険な囮捜査

1991年発表の本書は、アルファベット順に題名を付けてくるスー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」の第8作。キンジー自身は腕っぷしにも銃の扱いにも自信はなく、前作「探偵のG」では命を狙われてタフガイのボディガードを雇った。その男ロバート…

個人株主へのガイドなの?

2021年発表の本書は、日経編集委員前田昌孝氏の現代株式市場論。「COVID-19」禍も1年が過ぎたころの出版で、個人投資家(含む予備軍)のいくつかの疑問に答えようとした書である。「老後2,000万円問題」などもあり、30年間給料の上がらない日本の労働者にと…

吉田・佐藤・中曽根・小泉&安倍政権

<外務省のラスプーチン>とあだ名された佐藤優元外交官、新自由主義を呪詛する論客法政大山口二郎教授。このお二人が対談した書というのでびっくりしたが、ほぼ15年の交流があったという。確かに主張に隔たりはあるが「政治的立場の違いは本質的な問題では…

ヴォージュ広場1943~1993

本書は日本人の夫君を持ちカリフォルニア在住だというカレン・ブラックと、彼女が生み出したパリのセキュリティコンサルタント、エメ・ルデュックのデビュー作。上智大に学びP・D・ジェイムズの影響を受けたという作者が選んだ舞台は、なぜかパリ。サン・ルイ…

環境&福祉問題の解決策だったが

1988年発表の本書は、シャーロット・マクラウドの「セーラ&マックスもの」の第7作。ついに子供が授かったセーラとマックスの夫妻だが、相変わらずケリング一族はお騒がせを続けている。今回の中心になるのは第2作「下宿人が死んでいく」で出会って結婚し…

ジョン・ロックの思想を実現する

本書は今年「共鳴する未来~データ革命で生み出すこれからの世界(2020年)」を紹介した、慶應大学医学部教授でデータサイエンティストの宮田裕章氏の近著(2021年発表)。前著は何人かの専門家との対談を交えていたが、本書は全てが著者の手になり、より思…

SNS革命、それぞれの事情

デモから暴動、治安部隊の弾圧を受けても民衆の炎は消えず、革命に至る。隣国や似た環境の国での様子を見て、自国でもと革命が連鎖する。近年はSNSの普及によって、炎の燃え広がり方が激しくなった。そんな実例となったのが「アラブの春」。2011年1月のチュ…

「新光映画」に蠢く欲望

1961年発表の本書は、直木賞作家水上勉の手になるミステリー。作者は貧しい家庭に育ち一時出家、事実上寺に預けられた。還俗後、様々な職業に就き離婚も経験、血を吐くこともあった。松本清張「点と線」を読んでミステリーに開眼し、社会派の雄となった。本…

近代日本の外交と軍事

2020年発表の本書は、第二次安倍内閣で内閣官房副長官補を努め初代の国家安全保障局次長を兼務した兼原信克氏の近代日本史概説。以前、筆者が陸海空の名将を集めて司会をした座談会をまとめた「令和の国防」を紹介しているが、本書は単独執筆。外交官として…

現代に生きるTOPのための戦争学

「本所松坂町、吉良邸に響く山鹿流の陣太鼓・・・」は忠臣蔵のクライマックスで流れる弁士の台詞。ここに出てくる「山鹿流兵法」を現代風の戦争学入門編として解説したのが本書(2003年発表)である。著者の武田鏡村氏は日本歴史宗教研究所所長で、他に「黒衣の…

ワトソン役としての鮎川哲也

本書は「本格の鬼」鮎川哲也の、星影龍三を探偵役にした短編集。事情があって光文社と立風書房で初出された4編を、改めて光文社文庫に収めたものだ。作者はクロフツ流の重厚なアリバイ崩しものを鬼貫警部を探偵役に書き、密室ものなどは星影龍三を探偵役に…

「人質司法」の現場にて

本書の著者原田宏二氏は、元北海道警警視長。1995年に釧路方面本部長で退官した後、2004年道警の裏金問題について「告白」をし、以降警察の健全化や冤罪事件撲滅に向けた運動を続けた人。安倍政権が進める刑事訴訟法の改正にあたり、警察の現場や市民生活へ…