新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ローカル型産業で地方再生

2021年発表の本書は、実践型の企業再建屋冨山和彦氏が、高名なジャーナリスト田原総一朗氏と4回にわたって対談した結果を書籍化したもの。冨山氏については、 昭和の因習を脱ぎ捨てよ - 新城彰の本棚 (hateblo.jp) 「中堅企業」支援の方向性(2) - 梶浦敏…

推理作家には囲碁好きも多い

本書は「浅見光彦シリーズ」でおなじみ、内田康夫の第二作である。以前紹介した「死者の木霊」でデビューした作者が、何を自分の特徴にしようか迷っていたころの作品だと思う。第三作「後鳥羽伝説殺人事件」で浅見光彦がデビューし、その後は浅見シリーズが…

社会問題のるつぼ

本書は、BS朝日の「町山智浩のアメリカの今を知るTV」で、2016~22年にかけて放映された内容をもとに書籍化された「現代アメリカの病巣」論。町山氏は映画評論家でジャーナリスト、相方の藤谷文子氏は女優。いくつものインタビューを交えながら、ドラマのよ…

本格黄金期の中国人探偵

1930年発表の本書は、創元社が復刻してくれたホノルル警察の中国人警部チャーリー・チャンが探偵役を務めるシリーズの代表作。作者のアール・デア・ビガーズは、新聞の演劇評から劇作家、作家に転じた人。ヴァン・ダインやクイーンと同じ本格ミステリー黄金…

時代に取り残されたメディア

2021年発表の本書は、近代日本の代表的メディアである朝日新聞(グループ)の経営課題に関するレポート。著者は「宝島特別取材班」となっているが、4人の共著。うち2人は朝日新聞社員だった人。 旧士族だろう、村山家と上野家が興した新聞社で、太平洋戦争…

狼男、犬神明

本書の作者平井和正は、漫画の原作者を経てSF作家となった人。1963年に「少年マガジン」に連載された「8マン」(画:桑田次郎)で有名になった。この作品はTVアニメにもなり、僕も小学生のころよく見ていた。同時期有名だったのは「鉄腕アトム」だったが、…

内政干渉が許される分野

2022年発表の本書は、スタンフォード大学社会学部教授筒井清輝氏の「普遍的人権」の入門書。サントリー学芸賞・石橋湛山賞を受賞した書である。著者は政治社会学が専門で、多くの学生と人権に関する議論をし、各国で人権侵害に抵抗した政治家や活動家を招い…

兵士は方法論で考える

2001年発表の本書は、以前「テロ資金根絶作戦」などを紹介したSAS出身の匿名作家クリス・ライアンの軍事スリラー。作者は1984~94年の間、SAS正規連帯に所属し湾岸戦争などい従軍した。恐らくは下士官だったと思われる。レジメントと呼ばれるSASの兵士は、極…

正統派ハードボイルドの到達点

本書は、これまで「動く標的」「別れの顔」などを紹介してきたロス・マクドナルドのリュー・アーチャーものの短編集。のちに長編「運命」の原案となる「運命の裁き」だけが中編(100ページ強)で、他は50ページ未満の短編が4編あり、加えて作者自身の評論「…

「源氏物語」は読んでいないので

今年のNHK大河ドラマの舞台は「源氏物語」なのだそうだ。そういえば、歴史好き読書好きの僕だが「源氏物語」は読んでいないし、あらすじさえ知らない。だからというわけではないが、Book-offでふと手に取ったのが本書(1993年発表)。弁護士作家和久峻三作「…

1月20日の正午がデッドライン

1980年発表の本書は、英国情報部の10年程在籍したテッド・オールビューリーのエスピオナージュ。20作以上の作品があり、TVドラマのシナリオ等も手掛けた人だという。本書は11作目、舞台は米国で大統領選挙の背景にあるソ連の陰謀を、SIS局員のマッケイとCIA…

私設特殊部隊<剣>登場

近代軍事スリラーの大家トム・クランシーは、多くの共著者を活用した。死後も、マーク・グリーニーが<ジャック・ライアンもの>を書き続けてくれている。数多くの共著者の中で、本書(1997年発表)に始まる<剣>シリーズのマーティン・グリーンバーグは、…

孤島の私設法廷に立つ十津川警部

1977年発表の本書は、西村京太郎の「十津川警部シリーズ」初期の作品。このころ作者は誘拐ものを極めようとして、「消えた・・・」と題した作品群を執筆していた。本書では、探偵役の十津川警部自身が誘拐されてしまう。 職場からの帰り道、十津川は何者かに殴…

カウンターテロリズムの研究

2022年発表の本書は、日大危機管理学部福田充教授のカウンターテロリズム研究。オウムの地下鉄サリン事件を契機に、危機管理の研究を始めた筆者が、安倍元総理暗殺事件を契機に、現代テロの特徴と対処法を示した内容になっている。 蘇我入鹿暗殺、本能寺の変…

カトリーナから始まった絆

このDVDは「NCISニューオリンズ」のシーズン2。ジャズとお祭りの町で、本家以上に迫力ある捜査劇が繰り広げられる。前シーズンの後半に囮捜査官として時々出ていたソーニャが正式にメンバーに加わり、車椅子のデジタル捜査官パットンの出番も増えた。いずれ…

日本の中では空気のような・・・

2022年発表の本書は、日本の中にいると空気のように感じている「国籍」問題を取り上げた、早稲田大学国際学術院教授陳天璽氏の著作。著者自身30年ほど無国籍の状態だった。両親が台湾から太平洋戦争後横浜に引き揚げて来て台湾国籍だと思っていたら、日中国…

歓楽の街のラム君たち

1941年発表の本書は、昨日「屠所の羊」を紹介したA・A・フェアの「バーサ・クール&ドナルド・ラムもの」。シリーズ第四作にあたる。小柄で腕っぷしはダメだが、元弁護士で法律(のウラ)に詳しく、機転が利くのがラム君。彼を雇った探偵事務所長のバーサは、…

バーサ&ラム君初登場

1939年発表の本書は、これまで「梟はまばたきしない」などを紹介した、E・S・ガードナーがA・A・フェア名義で書いた秘密探偵社所長バーサ・クールと、雇われ探偵からパートナーになるドナルド・ラムの初登場作品。本書以降30冊程書き継がれたシリーズの第一作に…

「死骸が歩いているだけ」との自嘲

1973年発表の本書は、「鷲は舞い降りた」やショーン・ディロンものを多数紹介した冒険小説の雄ジャック・ヒギンズ初期の作品。作者が自ら「一番好きな作品」として推薦している。主人公は元IRA中尉で、今はIRAからもその敵からも警察からも追われる男マーチ…

110番する前の基礎知識

今日は110番の日、2021年発表の本書は、昨年も「警察の階級」を紹介した元キャリア警察官古野まほろの「警察官・組織のトリセツ」、一般市民から見た、警察組織の使い方である。 原則としての「民事不介入」はあるが、民事・刑事の境目はあいまいで、動きた…

日本の「Civilian Control」

2023年発表の本書は、眼光鋭い元海将香田洋二氏の「防衛省に対する喝!」である。一度パネルディスカッションでご一緒したことはあるが、著書を紹介するのは初めて。集団的自衛権行使が可能になり、防衛予算も欧州各国並みのGDP比2%への道筋は付いたものの…

マット・スカダーのデビュー作

1976年発表の本書は、これまで「800万の死にざま」「死者との誓い」などを紹介したローレンス・ブロックの「マット・スカダーもの」。アル中探偵マットの記念すべきデビュー作である。多作家ではないが米国の病んだ部分に光を当てる作者の鋭い筆が、読者を引…

チームをアクシデントが襲う

このDVDは、これまでシーズン2~4を紹介した「Mission Impossible」のシーズン5。さすがに女性レギュラーの不在はまずいと思ったのか、今回ダナ・ランバートが加わった。レスリー・ウォーレンが演じる、ソバカスと大きな目が特徴の美人スパイだ。さらにダ…

100年前の日本を見る思い

2022年発表の本書は、民主化ミャンマーに派遣され初歩から融資制度を作った銀行マン泉賢一氏の「ミャンマー金融戦記」。筆者はSMBCから2013年に現地に派遣されたが、その時はまだティン・セイン軍政下。外国銀行が営業できる状況になかったが、改革開放の機…

30年間放置されてきたカルト集団

2023年発表の本書は、安倍元首相暗殺事件以後再び追及されることになった旧統一教会についてのレポート。対談しているのは、叔母が元信者で多額の献金をし、脱会させるのに苦労した経験を持つ漫画家小林よしのり氏と、30年前から同教会の闇を追い続けてきた…

キャサリンの京都の正月

1978年発表(恐らく書き下ろし)の本書は、山村美紗の「キャサリンもの」。以前「花の棺」や「燃えた花嫁」を紹介して、細かなトリックの積み重ねのミステリーだと評している。本書もそのパターン、米国副大統領の娘で金髪碧眼の美女キャサリンは、通訳代わ…

ユビキタス化した戦争への対応

2021年発表の本書は、ウクライナ紛争で一躍「時の人」となったロシア研究者小泉悠氏の「ロシアの戦略論」。大兵力を投入しながらウクライナでの電撃戦は果たせず、初期投入兵力の9割を失ったともいわれるロシア軍。装備の古さ、士気の低さ、指揮の拙劣さ、…

マルチン・ベックものの最高傑作

1971年発表の本書は、以前デビュー作「ロゼアンナ」を紹介した、マイ・シューヴァル、ペール・ヴァルー夫妻の「マルチン・ベックもの」。ストックホルム警察の殺人課ベック警視と、その部下たちの捜査を描く警察小説シリーズである。全10作のうちの第四作で…

国名シリーズ中の異色作

1933年発表の本書は、エラリー・クイーンの「国名シリーズ」第七作。パズラー作家としての作者のピークは1932年で、4作品全てが本格ミステリーベスト10の候補に上るほどだ。1933年の4作品(アメリカ銃の謎、本書、Zの悲劇、レーン最後の事件)も、いずれ…

鬼貫警部と4人の同級生

本書は「本格の鬼」鮎川哲也の「ペトロフ事件」に次ぐ第二作、作者の最高傑作と評される作品である。主な被害者と容疑者4人は、鬼貫警部の大学時代の同級生(法学部)との設定で、人物名が独特なのは「稚気」のゆえだろう。イニシャルが、A.A、B.B、C.C、Z.…