新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

1月20日の正午がデッドライン

1980年発表の本書は、英国情報部の10年程在籍したテッド・オールビューリーのエスピオナージュ。20作以上の作品があり、TVドラマのシナリオ等も手掛けた人だという。本書は11作目、舞台は米国で大統領選挙の背景にあるソ連の陰謀を、SIS局員のマッケイとCIA…

私設特殊部隊<剣>登場

近代軍事スリラーの大家トム・クランシーは、多くの共著者を活用した。死後も、マーク・グリーニーが<ジャック・ライアンもの>を書き続けてくれている。数多くの共著者の中で、本書(1997年発表)に始まる<剣>シリーズのマーティン・グリーンバーグは、…

孤島の私設法廷に立つ十津川警部

1977年発表の本書は、西村京太郎の「十津川警部シリーズ」初期の作品。このころ作者は誘拐ものを極めようとして、「消えた・・・」と題した作品群を執筆していた。本書では、探偵役の十津川警部自身が誘拐されてしまう。 職場からの帰り道、十津川は何者かに殴…

カウンターテロリズムの研究

2022年発表の本書は、日大危機管理学部福田充教授のカウンターテロリズム研究。オウムの地下鉄サリン事件を契機に、危機管理の研究を始めた筆者が、安倍元総理暗殺事件を契機に、現代テロの特徴と対処法を示した内容になっている。 蘇我入鹿暗殺、本能寺の変…

カトリーナから始まった絆

このDVDは「NCISニューオリンズ」のシーズン2。ジャズとお祭りの町で、本家以上に迫力ある捜査劇が繰り広げられる。前シーズンの後半に囮捜査官として時々出ていたソーニャが正式にメンバーに加わり、車椅子のデジタル捜査官パットンの出番も増えた。いずれ…

日本の中では空気のような・・・

2022年発表の本書は、日本の中にいると空気のように感じている「国籍」問題を取り上げた、早稲田大学国際学術院教授陳天璽氏の著作。著者自身30年ほど無国籍の状態だった。両親が台湾から太平洋戦争後横浜に引き揚げて来て台湾国籍だと思っていたら、日中国…

歓楽の街のラム君たち

1941年発表の本書は、昨日「屠所の羊」を紹介したA・A・フェアの「バーサ・クール&ドナルド・ラムもの」。シリーズ第四作にあたる。小柄で腕っぷしはダメだが、元弁護士で法律(のウラ)に詳しく、機転が利くのがラム君。彼を雇った探偵事務所長のバーサは、…

バーサ&ラム君初登場

1939年発表の本書は、これまで「梟はまばたきしない」などを紹介した、E・S・ガードナーがA・A・フェア名義で書いた秘密探偵社所長バーサ・クールと、雇われ探偵からパートナーになるドナルド・ラムの初登場作品。本書以降30冊程書き継がれたシリーズの第一作に…

「死骸が歩いているだけ」との自嘲

1973年発表の本書は、「鷲は舞い降りた」やショーン・ディロンものを多数紹介した冒険小説の雄ジャック・ヒギンズ初期の作品。作者が自ら「一番好きな作品」として推薦している。主人公は元IRA中尉で、今はIRAからもその敵からも警察からも追われる男マーチ…

110番する前の基礎知識

今日は110番の日、2021年発表の本書は、昨年も「警察の階級」を紹介した元キャリア警察官古野まほろの「警察官・組織のトリセツ」、一般市民から見た、警察組織の使い方である。 原則としての「民事不介入」はあるが、民事・刑事の境目はあいまいで、動きた…

日本の「Civilian Control」

2023年発表の本書は、眼光鋭い元海将香田洋二氏の「防衛省に対する喝!」である。一度パネルディスカッションでご一緒したことはあるが、著書を紹介するのは初めて。集団的自衛権行使が可能になり、防衛予算も欧州各国並みのGDP比2%への道筋は付いたものの…

マット・スカダーのデビュー作

1976年発表の本書は、これまで「800万の死にざま」「死者との誓い」などを紹介したローレンス・ブロックの「マット・スカダーもの」。アル中探偵マットの記念すべきデビュー作である。多作家ではないが米国の病んだ部分に光を当てる作者の鋭い筆が、読者を引…

チームをアクシデントが襲う

このDVDは、これまでシーズン2~4を紹介した「Mission Impossible」のシーズン5。さすがに女性レギュラーの不在はまずいと思ったのか、今回ダナ・ランバートが加わった。レスリー・ウォーレンが演じる、ソバカスと大きな目が特徴の美人スパイだ。さらにダ…

100年前の日本を見る思い

2022年発表の本書は、民主化ミャンマーに派遣され初歩から融資制度を作った銀行マン泉賢一氏の「ミャンマー金融戦記」。筆者はSMBCから2013年に現地に派遣されたが、その時はまだティン・セイン軍政下。外国銀行が営業できる状況になかったが、改革開放の機…

30年間放置されてきたカルト集団

2023年発表の本書は、安倍元首相暗殺事件以後再び追及されることになった旧統一教会についてのレポート。対談しているのは、叔母が元信者で多額の献金をし、脱会させるのに苦労した経験を持つ漫画家小林よしのり氏と、30年前から同教会の闇を追い続けてきた…

キャサリンの京都の正月

1978年発表(恐らく書き下ろし)の本書は、山村美紗の「キャサリンもの」。以前「花の棺」や「燃えた花嫁」を紹介して、細かなトリックの積み重ねのミステリーだと評している。本書もそのパターン、米国副大統領の娘で金髪碧眼の美女キャサリンは、通訳代わ…

ユビキタス化した戦争への対応

2021年発表の本書は、ウクライナ紛争で一躍「時の人」となったロシア研究者小泉悠氏の「ロシアの戦略論」。大兵力を投入しながらウクライナでの電撃戦は果たせず、初期投入兵力の9割を失ったともいわれるロシア軍。装備の古さ、士気の低さ、指揮の拙劣さ、…

マルチン・ベックものの最高傑作

1971年発表の本書は、以前デビュー作「ロゼアンナ」を紹介した、マイ・シューヴァル、ペール・ヴァルー夫妻の「マルチン・ベックもの」。ストックホルム警察の殺人課ベック警視と、その部下たちの捜査を描く警察小説シリーズである。全10作のうちの第四作で…

国名シリーズ中の異色作

1933年発表の本書は、エラリー・クイーンの「国名シリーズ」第七作。パズラー作家としての作者のピークは1932年で、4作品全てが本格ミステリーベスト10の候補に上るほどだ。1933年の4作品(アメリカ銃の謎、本書、Zの悲劇、レーン最後の事件)も、いずれ…

鬼貫警部と4人の同級生

本書は「本格の鬼」鮎川哲也の「ペトロフ事件」に次ぐ第二作、作者の最高傑作と評される作品である。主な被害者と容疑者4人は、鬼貫警部の大学時代の同級生(法学部)との設定で、人物名が独特なのは「稚気」のゆえだろう。イニシャルが、A.A、B.B、C.C、Z.…

ちょっと贅沢をする時に・・・

2012年発表の本書は、東京・青山の老舗ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」の副校長奥山久美子氏の、ワイン選び教本。日本で消費されるワインの価格帯を、 ・1,000~2,000円 カジュアル ・2,000~5,000円 中級 ・5,000~20,000円 高級 ・20,000円以…

無様に目撃された犯人だが

1990年発表の本書は、ご存じ津村秀介の「伸介&美保もの」。「宍道湖殺人事件」に始まる湖シリーズの1冊で、舞台は日本最大の湖琵琶湖。京都から東へ向かうJR路線は、琵琶湖を挟んで北に湖西線、南に東海道線と二又に分かれる。湖西線で分岐駅山科の次の駅…

「地獄篇」を目標にした殺人者

2003年発表の本書は、昨日「褐色の街角」を紹介したマルコス・M・ビジャントーロの第二作。前作で麻薬組織のボスであるムリージョ(通称テクン・ウマン)の圧力を受けながらも<翡翠のピラミッド>事件を解決したシングルマザー刑事ロミリアは、首に受けた傷に…

ナッシュヴィルのラティーナ女刑事

作者のマルコス・M・ビジャトーロはサンフランシスコ生まれ、テネシー州や紛争が激しかったころのグアテマラやニカラグアで過ごし、現在はアラバマ州で中南米からの移民の相談を受けていると解説にある。2001年の本書がデビュー作、以後2年に一度のゆったりと…

もう1冊、企業変革へのガイド

今月日本経済の行方について、2冊の対照的な書(*1)を紹介した。どうしても生産性向上は悪だとする森永教授の主張は受け入れがたく、もう1冊日本の成長戦略を語る本書(2022年発表)を読んでみた。著者松江英夫氏はデロイト・トーマツの執行役員、主張は…

21世紀キリスト教の危機

本書は2003年発表、宗教象徴学の専門家ラングドン教授を主人公にしたシリーズの第二作。作者のダン・ブラウンは、米国の英語教師から転じた作家。両親・妻ともに数学や宗教・芸術に造詣の深い人たちである。前作「天使と悪魔」でヴァチカンの危機を救ったラ…

甦った聖人、ヴァチカンへ

1984年発表の本書は、グローヴァー・ライトの第三作。元はミュージシャンだった作者は、60年代に米軍の依頼で各地の慰問に行き、軍隊との接点を持った。後にドバイのクラブで歌うようになり、支配人になって現地の特殊部隊員らと交流を持った。英国特殊部隊…

台湾海峡をめぐる仮説

2022年発表の本書は、ジャーナリスト清水克彦氏の手になる台湾有事の背景と展望。筆者は軍事が専門ではないが、文化放送のMCを務めて人脈が広がり、多くのキーマンにインタビューして本書をまとめている。 そもそも今の中国は、米国が育てた。ソ連に対応した…

溺れるほど好きな人もいる短篇集

本書は、ファンタジー作家(と言ってもいいよね)レイ・ブッラドベリの短編集。作者の長編は以前「火星年代記」と「何かが道をやってくる」を紹介しているが、前者はSF、後者はファンタジーだ。デビュー時のSF色が、時代を経てファンタジーになっているよう…

別館を取り巻く新雪、足跡は・・・

密室の大家ジョン・ディクスン・カーは、パリの予審判事アンリ・バンコランものから、英国人の太っちょ探偵2人に主人公を移してブレイクした。カー名義のフェル博士と並び、カーター・ディクスン名義の本書(1934年発表)では、英国情報部の高官ヘンリー・…