新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ボストンのタフガイ

 西海岸の有名都市と言えば、ロサンゼルス・サンフランシスコ・シアトルあたりだろう。ハイテクの香りもあるビジネスの街だ。一方東海岸で3つというと、ワシントンDC・ニューヨーク・ボストン。政治の中心DC、金融はじめビジネスはニューヨーク、そしてボストンは大学の街だ。MITもハーバードも、タフツもここにある。

 
 10年ほど前、何度かそのような大学に仕事で出かけたことがある。国際政治からみの話で、専門の違う英単語が良く分からなかった記憶がある。季節は秋から冬にかけてだったが、落ち着いたいい街だという感想は持っている。ちなみに東海岸のこの3つの街は、互いに強い結びつきがある。
 
 DCで決める政策はニューヨークのビジネスを活性化させるため、その政策の理論武装はボストンがする。今回のように政権交代が起きると、DCで次官補など高位にあった人たちはニューヨークでビジネスに戻ったり、ボストンの大学で教えたりするようになる。最近日本でも少しはそういう傾向があるが、産官学を回遊する知識層が米国には大勢いる。

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 1973年と言えば、ベトナム戦争も末期。ノーベル文学賞(!)を受賞したボブ・ディランの曲が流れ、ヒッピーと言われる怠惰な若者が大学周辺にも目立つようになったころである。ボストンの私立探偵スペンサーは、ある大学の学長から行方不明になった彩色写本を探すという依頼を受ける。
 
 反体制を気取っているが、簡単にスペンサーに倒されてしまう青年。裕福な実業家の娘なのに、その青年と同棲して学生運動にのめり込む女子大生。黒人のシングルマザーが編纂する学生新聞。頑迷固陋に、「象牙の塔」に他人を寄せ付けない老教授。大学の街ボストンならではの人物が写本を探すスペンサーの前に次々に現れ、複数の殺人事件が起きる。もと警官でボクサーだったというタフガイ・スペンサーは、手荒いことも辞さないプロだが、トレーニングに励んで走り込み健康には気を使っている。
 
 口数は多い方で、よくわからない比喩を持ち出したり、明るい皮肉を言ったりする。ギャングや警官からは「なめるな」とばかりにらまれるが、ひるんだりはしない。それでも一人になると、悩んでウィスキーをあおったりする。そのウィスキーが、僕の昔好きだったワイルド・ターキーなどのバーボンである。
 
 等身大に近い私立探偵、しかも大学の街の探偵としてロングセラーになったスペンサーもの。それはここから始まった。