イギリスは、階級社会だ。21世紀に入っても、通うスーパーマーケットによって階層が分かるらしい。妙な話だが、言葉も違うという。昔から"King's English" というのがあって、これが貴族の言葉だろう。では庶民は何を話すのか?あまり経験がないので何とも言えないが、10年ほど前有名なサッカー選手がインタビューに答えていて、それがまるきり聞き取れなかったことを覚えている。どうもそれが、庶民の英語らしい。
社会のひとつの構成要素である「軍」についても、当然階層が存在する。社会の階層が持ち込まれないはずもなく、貴族は将校である。庶民は兵卒であるが、中で優秀なもの、職業として兵士を選んだものらが「下士官」になる。士官とあるがあくまで兵卒であって、よほどのことがないと士官になれないのがイギリス軍であり、イギリス社会である。
子供のころから栄養状況も良く、スポーツもするので、貴族の子弟は体格も良くなる。軍服の似合う、立派な将校になれる素質は持っているわけだ。ただこれが不利に働くことがある。セポイの乱(1850年代)などでは、反乱軍はイギリス軍と対峙したとき「背に高い」人物を主に狙い撃った。指揮官を失った部隊は戦闘力を失い、やがて潰走してしまう。
イギリス貴族は、代々陸軍であるとか海軍の軍人としての家系を持っている家も多い。この本で、ダグラス・リーマンが描くのは、海軍それも海兵隊の家系を持つブラックウッド家の男、マイク・ブラックウッド海兵隊大尉である。
彼はビルマ(今のミャンマー)で日本軍と戦い、帰国再編後北アフリカに派遣される。そこで敗走するドイツ・イタリア軍に対し、さまざまな奇襲攻撃をかける任務に就く。ビルマで死んだはずの上司が舞い戻って来て無理な作戦を強要するが、よく鍛えられた下士官たちに助けられて任務をこなしてゆく。レーダー基地を破壊したり、敵の技術者を捕虜にしたり、成功は続くが、部下の犠牲も増え上司との確執も深まる。
最後に、シチリア島周辺のドイツ軍の特攻モーターボート基地破壊の任務に就くことになる。ヨーロッパ戦線が、米軍の参戦によって膠着状態からわずかに連合軍有利に傾いた時代を背景に、若い海兵隊大尉の戦いと愛を描いた力作である。