新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

日米戦最良の戦略(前編)

 横山信義はもともと本田技研のエンジニア、大鑑巨砲主義の作家と呼ばれ1992年「鋼鉄のリヴァイアサン」でデビューしている。第二次世界大戦の海戦を中心にした架空戦記を多く発表し、僕はこの種の作家としては比較的真っ当なアプローチをしている人だとと思う。

 
 いわゆる太平洋戦争では日本が勝利する可能性は無かった。真珠湾攻撃が宣戦布告後に行われようが、ミッドウェーで「運命の5分間」がなかろうが、ガダルカナル戦に戦艦大和を投入しようが、結果は変わらない。

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 横山シリーズでは、実に多様なシチュエーションが試されている。アメリカ対日本ではなく、日本対アメリカ対イギリスのような三極体制、日米が同盟してドイツにあたるというものまである。しかし彼の本来のテーマは、日米戦かくあるべきだったはずだ。初期の力作「八八艦隊物語」では、帝国海軍の目標だった八八艦隊(艦齢8年以内の戦艦8隻、巡洋戦艦8隻を整備する)が成っていたら、という仮定の上で日米戦を描いている。
 
 通常彼の著作はシリーズで10冊近くになるのだが、このテーマに正面から取り組んだ本作は3冊にまとまっている。真珠湾攻撃など、緒戦の勝利を得た帝国海軍が第二次作戦を開始するにあたり、どのような戦略・作戦行動をとるのかというところから物語は始まる。
 
 太平洋戦争では、いくつかあるシミュレーションゲームをやってみたところ、勝利の可能性はないのだがかろうじて引き分けに持ち込むことは可能だったかもしれないと思っている。それは、真珠湾攻撃後休む暇なくミッドウェイやハワイに圧力をかけ、米軍海軍の戦力を叩き続けるというものだった。
 
 Hobby Japan の「Pacific Fleet」というゲームでは、日本軍の燃料規制が厳しい。普通にやっていると1944年になる前に、燃料不足に陥る。そこで開戦当初から明日なき闘いを挑み続け、米軍の戦力が整わないうちにハワイを無力化し講話に持ち込む以外は日本軍に満足できる結果は無かっただろう。
 
 作者が僕と同じ結論に至ったかどうかは、わからない。しかしこのシリーズはそういうストーリーで進む。第一巻の本書は、史実では珊瑚海での戦闘(空母翔鶴・瑞鶴)やアリューシャンへの支作戦(軽空母隼鷹・龍驤)に割いた戦力をミッドウェーに集結させることにしている。これはアバロンヒルの「ミッドウェイ」というゲームのオプションにあった「臆病なヤマモト」シナリオに近いものである。そして第一巻では、米軍の空母を全滅させミッドウェイ環礁を占領する。これは、当時の戦力から言って無理のある設定ではない。
 
<続く>