新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

原潜「チャレンジャー」バルト海へ

 ジョー・バフの2作目。再びセラミック外装の原子力潜水艦「チャレンジャー」と元SEALSのフラー艦長代理の登場である。作者はMITで数学の修士過程を終え、マンハッタン計画などで有名なアルゴンヌ研究所に勤めた経験もある。そこで得た核関連のノウハウを使って、第一作では(日本では想像できないのだが・・・)核兵器がドンパチ炸裂するシーンを描いた。

 
 2011年に設定された国際情勢は、ドイツに第四帝国が出現しアパルトヘイトを復活させた南アフリカと「枢軸軍」を結成、英米連合軍に挑みかかり連合軍は劣勢に立たされるというもの。第一作では、南アフリカ大量破壊兵器研究所を無力化し、南アの原潜「フォールトレッカー」の追撃も振り切った「チャレンジャー」だったが、傷も癒えぬままに北海へ出動する。

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 シリーズものとして仕方ないのだが、今度のミッションはより苛酷になる。ドイツの内海であり、潜水艦の行動が丸見えになる浅いバルト海の奥深くに潜入しなくてはならないのだ。目標はドイツの新兵器、マッハ8で飛ぶミサイルの量産基地である。この時代、世界の究極兵器は空母機動部隊である。世界の覇権を窺う中国が2隻目の航空母艦を建造しようとしていることからも、それはわかる。
 
 しかしかつての戦略兵器であった戦艦が、航空機(と空母)に歯が立たなかったように、主役交代はいずれやってくる。空母を破壊することができる兵器が、その時代を開けると思われる。本書の高速ミサイルが、まさにその候補だ。
 
 第一次・第二次大戦を通じて、イギリス島をUボートが封鎖して「日干し」にすることが、頑強な英国を降伏させる唯一の手段である。第四帝国もその例にならい、英国封鎖をする。米国は輸送船団を英国に送る(デジャブである)が、Uボート護衛艦隊の死闘が繰り広げられる。護衛艦隊の中核は航空母艦だ。
 
 空母キラーのミサイルを除去するミッションが、「チャレンジャー」に与えられたもの。南ア人の海洋学者イルザとフラー艦長代理は、SEALSの精鋭を率いてミサイル基地に上陸・潜入する。舞台や敵役こそ違え、ストーリー展開は前作と同様である。水戸黄門もののようだ。潜水艦ものではあるが、陸戦も一杯。M72ロケットランチャーでドイツの装甲車を吹き飛ばし、トルコ人の捕虜を解放し、攻撃ヘリにはスティンガーを撃つ・・・まさに無敵の艦長代理である。
 
 SEALSの何人かを失いながらミサイル基地を破壊して、帰還した上陸部隊。冒険小説としてはこれで十分なくらいだが、実はこれからがクライマックス。フラーと因縁のある凶悪なドイツ人艦長率いる「ドイッチェラント」が待ち構えていた。セラミック外装で同程度の能力を持つ両艦だが、チャレンジャーは手負いで武器も残り少ない。バルト海から北海にかけての海域での決闘が繰り広げられる。
 
 面白いのだが、少し盛り込みすぎのようにも思う。イルザとフラーのロマンスっぽい話もあるのだが、なにしろ600ページにわたって戦闘しっぱなし。特に輸送船団を襲う「ドイッチェラント」の攻撃は冷酷極まりなく、船団の悲惨さは眉をひそめたくなるくらいです。