新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

最初に感動した日本ミステリー

 1964年に東京オリンピックがあり、多くのインフラが整備された。その目玉だったのが「新幹線」。夢の超特急と言われ、従来8時間かかっていた東京・大阪間を3時間あまりで結ぶことができた。ただ早いだけではなく、極めて正確に運行されることも誇りだった。

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 そして次の国際イベントは「大阪万博」。それを控えた1969年秋を舞台に、本格ミステリーの新進作家が発表したのが本作「新幹線殺人事件」。森村誠一は1969年高層ホテルでの殺人事件を扱った「高層の死角」でデビュー、江戸川乱歩賞を受賞した。乱歩賞作家は、二~三作目が勝負とも言われる。
 
 カッパノベルズの書き下ろしで発表された第二作「虚構の空路」も好評を博したが続く第三作の本書は、それらを上回るベストセラーとなって作者の地位を不動のものにした。この小説、高校生になったばかりのころ読んだ。新幹線という正確無比な乗り物を使ってのアリバイ工作がメインに据えられ、海外のクロフツ等の傑作にも引けを取らない本格ミステリーだと感動した。
 
 スキャンダルと陰謀にまみれた芸能プロの世界を描き、エロチックなシーンもあったがメイントリックの感動が大きすぎて他の事は記憶にない。朴念高校生だったのかもしれない。2つの殺人に2つのトリック、恨みを言えば第二のトリックが少し弱いかなと思うのだが、それも新幹線のトリックとそれが崩れるプロセスが鮮やかすぎたからだろう。天才的な探偵は登場せず、地味な刑事がそれぞれの立場で捜査にあたり、一歩一歩解決に近づいてゆく。作者が意識したのは、松本清張「点と線」だったように思う。
 
 高度成長期に入ってはいるが、成田空港は開業せずもちろん携帯電話もない。芸能プロの女社長は、アメリカから羽田に帰ってくる。新幹線から掛ける電話は申し込み制だ。アリバイ工作の一翼を「ジェットストリーム」が担っている。本当に懐かしい、47年前の作品である。