新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

宇宙人殺人事件

 「黒後家蜘蛛の会」という短編ミステリーシリーズを以前紹介したが、作者のアイザック・アシモフを定義すると、「探偵小説好きの科学者がSF作家をしている」ということになろうか。彼は1920年スモレンスク周辺の街で、ユダヤ教徒の家に生まれた。3歳の時に両親に連れられてアメリカに渡ったのだが、そうでなければ20年後のドイツ侵攻で命を落としていた可能性が高い。


          f:id:nicky-akira:20190414093735p:plain

 
 彼はコロンビア大学で化学を専攻する一方SFの世界に興味を持ち、19歳の時に最初の原稿がアメージング・ストーリー誌に載った。彼の業績で有名なのは「ロボット工学三原則」を小説の中でではあるが、提唱したことである。現実にこれからのロボット/AI開発において、重要な意味を持つ金言だったと評価されている。
 
 
 本書は本格探偵小説仕立てのSFか、SF世界を背景にした探偵小説か、読者によって意見の分かれるものである。「ロボット工学三原則」も、物語の進行に大きな影響を及ぼしている。
 
 宇宙への移民が始まって長い年月が過ぎ、地球人は「シティ」と呼ばれる閉ざされた都市に拠って生きている。本書の舞台となるのは「ニューヨーク・シティ」だが、地球上にはいくつもの「シティ」が建設され、その他の地域は放棄され荒れ地になっている。究極のコンパクトシティである。
 
 宇宙に移民した人たちの子孫が、優れた科学技術を持って地球に戻って来て「シティ」に隣接して個別の都市をつくった。宇宙人と呼ばれる彼らは地球の病原菌等に弱く、地球人が自分たちの都市に入ってくる時は徹底して消毒する。従って、2つの都市の接点は厳重に警戒されている。
 
 地球人の街は徹底した階級社会で、例えばC-5級では得られない日光浴割り当て時間がC-6級だと少し貰えるようになる。事故を起こし階級を格下げされて酒浸りとなって死んだ父親をもつC-5級刑事ベイリは、宇宙人が熱線銃で殺された事件の捜査を、昇級をエサに引き受けるが相棒に選ばれたのは宇宙人が作った人間そっくりのロボット、R・ダニールだった。
 
 ミステリーとして読むとベイルの迷探偵ぶりが目立つのだが、SFとして読めば社会風刺が効いた上質の作品といえる。アシモフ先生は、やっぱりSFの方が面白いです。