新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

現場指揮官の心得

 柘植久慶という作家は、多くの戦争/戦闘小説のほかにもビジネス書やサバイバル書を書いている。まだ30歳代だったころ、出会ったのがこの本。「戦場のサバイバル」という著作は、そのままウォーゲームでいう戦闘級の教本だが、本書は戦術級の教本でもある。主に示されるのは、4~12名程度の戦術部隊の指揮官もしくはもう少し大きな部隊の(ミニ作戦級の)活動を例に、指揮官とはどうあるべきかを描いたものである。

 

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 作者はグリーンベレーの格闘技教官を経て、ベトナムの実戦で大尉として戦ったと言っている。そのころの経験を書いた、「赤の殿下を誘拐せよ」という物語を発表もしている。これはベトナム戦争当時隣国のラオスが、いろいろな形で北ベトナム勢力に関与し、これを嫌った米軍が特に共産思想にかぶれた殿下を誘拐もしくは暗殺しようとした史実を基にしている。
 
 作者は作戦立案から実行の中心人物として関与し、現地で誘拐は困難と考えて暗殺に目標を変更する決断をしている。後に、グリーンベレー唯一の日本人だという人物が現れ、作者を偽グリーンベレーと決めつけているものの、真実は読者にはわからないままである。それはともかく、本書をはじめとする諸作品で戦場の知恵や常識を(平和ボケの)日本人に日本語で紹介した功績は大きい。
 
 指揮官は気象・敵情・味方の戦力や弱点・援軍の布陣はもちろんの事、敵軍の指揮官や自軍の指揮官の性格を始めあらゆる情報を加味してミッション遂行にための想を練る。ただ「最初の銃声がしてからまで続く作戦はない」と言われるように、臨機応変に対応を考えなくてはならない。具体的なシチュエーションを示しながら、ビジネスの現場指揮官にも多くのサジェスチョンを与えてくれる本だった。
 
 僕は、これを新任管理職研修の折に持参した。総務部門から「自分の1冊を持って来い」と言われたからだ。30人弱の参加者が1冊づつ持ち寄り、研修期間中にお互いに読めるようにするのが目的だったらしい。さすがに、軍事教本を持ってきたのは僕だけ。大体はビジネス書や技術書を持ってきていた。
 
 今になって読み返しても、ビジネス上のルーチンでない冒険をする時には示唆に富んだ書である。僕は新技術開発・新事業開拓などばかりさせられていたから、この本のありがたみが良くわかります。