新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

マンハッタン、1944

 有名なサスペンス作家であるウィリアム・アイリッシュ(本名コーネル・ウールリッチ)の作品中、ベスト3と言われるのが「幻の女」「黒衣の花嫁」「暁の死線」であることは、以前にも紹介した。

 

 本書は高校生の時に読んで、あまり「名作」とは思えなかった。「若さゆえの過ち」やもしれないと考えて、もう一度(40余年ぶりに)読んでみた。表紙にも時計の絵が描かれているが、章立ての表示が時計の文字盤になっていて、若い男女が午前6時の長距離バスに乗るために残された時間を示している。
 
 時間を限定してサスペンスを盛り上げる手法が最高に生きた作品であるとは思う。物語の後半は、素人探偵の2人が別々のセンを追って真夜中のマンハッタンを走り回り、怪しげな人物に迫っていく。当然危険な目にも遭い、二人とも命すら奪われそうになる。

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 絶望の淵から急転直下、真犯人を捕まえるのだが、すでにバスの時間が迫っていた。素晴らしいのは、後年のジェフリー・ディーヴァーに影響をあたえたであろう「どんでん返し」のテクニックである。しかし真夜中の5時間あまりで事件を解決しなくてはならい状況を生み出す前半には、うなずけないところが多い。
 
 ・ダンサー稼業の女がその夜逢った男は、故郷の隣家の息子だった。
  (住んでいた時期が違い面識はない)
 ・男は都会で失業し、苦し紛れに空き巣に入って$2,500の現金を盗んでいた。
 ・女はその金を返し、二人で故郷に帰る翌朝のバスに乗ろうと提案する。
  彼女は都会の魔手から逃れるには自分一人では無理だし、
  翌朝のバスが最終便だと主張する。
 ・二人が金を返しに行くと、家の主人は銃で撃たれて死んでいた。
 
 殺人の濡れ衣を着せられそうになった二人は、翌朝6時までに真犯人を捕まえようとするのだが、正直その場で警察を呼ぶべきだろう。(そんなことしたら、売り物のサスペンスが披露できないけど・・・)妄想かもしれないが女は「都会の魔手」に捉えられていると考えていて、どうしても翌朝のバスでないとダメだと主張する。この設定に無理を感じてしまった。前半の設定に対する違和感と後半の秀逸なサスペンス、両者を考え合わせると「名作」とは呼べないと思った。
 
 別の意味で感心したのは、1944年の真夜中にマンハッタンでは営業する店もありタクシーも難なく拾えるということ。このころ東京やベルリン、ロンドンでさえも灯火管制下にあった。マンハッタンは第二次大戦中、すでに「24時間タタカエマスカ」の街だったのですね。