新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

仮装巡洋艦

 第一次世界大戦と第二次大戦でよく似た状況になったこととしては、イギリス周辺から大西洋にかけての海域における通商破壊戦が一番ではないかと思う。イギリスは我が国同様島国(海洋国家)であり、大陸からの直接侵攻は難しいとしても、補給を止められれば干上がってしまう。
 
 一方のドイツは陸棲国家であり、どうしても軍事費は陸軍に多く配分されることになる。第二次大戦はもちろん、第一次大戦においても、水上艦隊を比較すればイギリスに利があるのは当然である。そこで水上戦力の直接対決を避けながら、イギリスに向かう輸送船団をどうやって沈めるかという問題をドイツは解かなくてはならない。

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 答えのひとつはUボート。強力な護衛艦隊がいる船団は潜ってやりすごし、護衛が手薄になったら襲い掛かるというわけ。もうひとつは、単艦もしくは小規模な艦隊による遊撃戦。グラーフ・シュペーなどのポケット戦艦もこの目的で建造された。
 
 そして最後のひとつが、仮装巡洋艦のような武装商船を使うことだった。ドイツは両大戦を通じて、各10隻以上を戦線に投入している。ドイツの通商破壊艦である仮装巡洋艦は、戦線の奥深くに侵攻するので入念な偽装が施された。兵装などはまちまちだが、第二次大戦の就役艦の例として「コルモラン」の仕様を見てみよう。
 
 排水量 約9,000トン
 最大速力 18ノット
 兵装:15cm砲6門、75mm高角砲1門、
     20mm機関砲5門、魚雷発射管6門 等
 艦載機 2機
 
 もちろん装甲のようなものは全くなく、たとえ駆逐艦クラスでも大きな脅威になるし、爆撃機攻撃機に見つかれば非常に危険な状況に陥る。独航商船のように見せかけて敵をあざむき、護衛艦のいない商船(できれば独航がいい)を拿捕したり沈めたりする海賊型の戦闘が本来の用法である。そのような獲物を見つけるための偵察機まで積んでいるのだ。例えばコルモランは、大戦中に10隻余りの連合軍側商船を沈めている。
 
 これに対し連合軍は多くの艦艇を船団護衛や敵艦捜索に割くことになり、特に大戦初期には大きな負担になった。しかし護衛船団に小型の航空母艦が随伴したり、陸上基地から航続距離の長い哨戒機が飛ぶようになるとその威力は発揮しにくくなった。
 
 イラストのシーンでは、ドイツの仮装巡洋艦アメリカ軍のB-25爆撃機の攻撃を受けている。B-25は双発で2,000km以上の航続距離を持ち、3トン近い爆弾やロケット弾を積むことができた。機種に10門もの12.5mm機関銃を装備した機体は「エア・アパッチ」とも呼ばれて恐れられた。これは直進性の強いブローニング.50口径の機銃で、陸上では対戦車ライフルにも使われたくらいの破壊力がある。その10門集中砲火は、小型商船なら真っ二つにすることもできた。
 
 さらにB-25には75mm砲(戦車の主砲)を積んだものもあった。このような航空機が戦場を飛び回るようになると、古来の海賊船のような戦いをする通商破壊艦の出番は少なくなったのである。