新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

これぞ日本のハードボイルド

 小鷹信光という人は、評論家/翻訳家というのが普通の認識だと思うのだが、伝説のハードボイルド小説も書いている、それが本書「探偵物語」。かつてTVの連続ドラマとして放映されたものの原作である。僕もTVで見た記憶はあり、故人となった松田優作成田三樹夫の名演には敬意を表する。


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 しかしTVのトーンはややコメディっぽいもので、本来の味を殺していると思った。作者はハードボイルドへの傾倒が知られている人で、あの主題歌からして、僕から見れば作者に失礼だろうと思いすらした。ロス・マクドナルド「一瞬の敵」、リチャード・スターク「悪党パーカー/人狩り」の翻訳など、本格的なハードボイルドを日本に紹介した人だけに、文体などその雰囲気はまるきり「本物」である。
 
 私立探偵工藤俊作(松田優作のイメージ強すぎである)は、アメリカ帰りの元警官。お金は欲しいが貧乏暮らしもいとわない、ある種の孤高のタフガイだ。今回持ち込まれたのは富豪の娘の行方不明事件、4日の間に連れ戻せば100万円のボーナスを出すと言われる。単純な不良少女の家出事件と思われたのだが、身代金要求がくるに及んで事件は新たな展開を見せる。
 
 政治家の権力争いまでからんだ複雑な状況のうちに、多くの人々の命が失われ血が流れる。工藤探偵やその仲間も、プロと思われる襲撃者に手刀で気絶させられたりする。政治家/政治家秘書/元警官/オカマのスナック経営者/廃棄物事業者と2頭のドーベルマン/弁護士等々いろいろな人物が絡み合い、そして死んでゆく。
 
 これは本当に隠れた名作だった。チャンドラーやマクドナルド、ロバート・パーカーらに劣らない傑作である。ただ、あくまで日本が舞台なのに、やたら拳銃が出てきて脳天を吹き飛ばすのはいただけない。アメリカンテイストを追求して、日本のハードボイルドはどうあるべきかを後世に投げかけたテーマ作品のような気もします。