新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ヨークタウンは三度死ぬ

 太平洋戦争勃発当時、アメリカ海軍は7隻の大型空母を持っていた。巡洋戦艦改装の「レキシントン」と「サラトガ」、旧式になりはじめていた「レンジャー」、新鋭艦の「ヨークタウン」、「エンタープライズ」、「ホーネット」。これにやや小型の「ワスプ」である。

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 真珠湾攻撃では太平洋艦隊の戦艦全てが被害を受けたのだが、全ての空母は被害をまぬかれた。緒戦で戦力を半減してしまったアメリカ海軍は、空母と巡洋艦を基幹とした高速艦隊を複数配備し、日本軍の拠点にヒット&ラン攻撃をかけ攻勢を妨害する戦術にでた。
 
 1942年5月、日本海軍はニューギニアポートモレスビー攻略の支援に第五航空戦隊の「翔鶴」、「瑞鶴」などを派遣、攻略阻止に来た米軍の「レキシントン」、「ヨークタウン」などの艦隊と史上初の正規空母同士の海戦が生起した。日本軍は小型空母「祥鳳」を失い、「翔鶴」が中破した。米軍は「レキシントン」を失い、「ヨークタウン」が中破、戦術的には日本軍優勢と言われている。
 
 ここで注目すべきは米空母の耐久性である。エレベーターが甲板の中心線上にあり密閉型の格納庫を持つ日本空母は、甲板が被弾し格納庫に火が廻れば燃料や弾薬を積んだ航空機を船外に廃棄できない。米空母はオープンデッキと舷側エレベーターなので、格納庫内の航空機は海風にさらされるかもしれないがいざという時は船外廃棄が可能だ。
 
 「ヨークタウン」は珊瑚海で日本空母なら沈んだかもしれない被害を受け、その傷も癒えぬ(最大速力27ノット程度)ままにミッドウェーに出撃、ここでも2度の空襲で大破しながら鎮火し復旧に務めていた。本書は、フィクションを交えながら「ヨークタウン」にトドメを刺した「伊168潜」の戦記である。
 
 著者の池上司は何篇か、潜水艦ものを書いている。トンデモ架空戦記ではなく、お涙頂戴ものでもなく、フェアな小説を書く人として評価しています。