新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

アイソラでの人種差別

エド・マクベインの「87分署シリーズ」も、33作目になった。最初の作品「警官嫌い」から23年が経ち、何人かの刑事が殉職した。例によって不死身のキャレラ刑事は主役として活躍を続けているが、23年間昇進することなく二級刑事のままである。

 
 ろうあ者の妻テディとの間にできた双子は確かに成長しているが、20歳代だったクリング巡査が30歳代の三級刑事になったくらいで、レギュラー陣に大きな変化はない。このあたり「サザエさん」や「ゴルゴ13」並みの時間感覚と言えよう。

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 本編の冒頭でカリプソ歌手が路上で射殺され、マネージャーも撃たれるという事件が起きる。そこで作者はかなり詳細に、警察への通報がどう受け付けられるかを描いている。この時代には、どこからの電話通報かは電話番号から自動的にわかる。しかし、すでに通報されたものかどうかは、データベースを検索しないと確認できない。これがコンピュータでできるというのが、1956年の頃とはちがうことだ。初期のコンピュータシステムが、警察の通信指令に導入されていたのが面白い。
 
 エド・マクベインはこのシリーズを「舞台は架空だが、実際の警察活動に基づいている」としていて、新しい通信指令システムを取材したことを、喜んで書きたかったことがうかがえる。
 
 このカリプソという題名だが、カリブ海特にトリニダード・トバゴの音楽であるという。口伝えの民謡のようなものだが、曲は大体決まっていて歌詞を時勢に合わせてうたう、即興芸能のようなものらしい。ジャマイカアメリカ人ハーリー・ベラフォンテの「バナナボート」は日本でも知られたというが、100万枚以上の大流行を記録している。
 
 作中のキャレラ刑事もカリプソについては、ハーリー・ベラフォンテしか知らないと言っている。、まあ、この流れが後年のラップにつながるのだろう。いずれも有色人種であるカリプソ歌手と売春婦が、自らの経験を盛り込んだレコードを出版するというのが事件の背景にある。
 
 とくに黒人に対する人種差別は激しかったころ、その想いを伝える楽曲は、カリブ海出身の人たちに希望と勇気/場合によっては絶望と怒りを与えた。世相を示した、アメリカの1980年前後がここにある。