新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

タンガニーカ湖のほとり

 アフリカ中部、南北に長いタンガニーカ湖の北東端にその国はある。面積は日本の2県(岩手県福島県)を合わせた程度、人口は現在1,000万人ほどである。かつては北に国境を接するルワンダと共に、ベルギーの植民地であった。1962年にベルギーから独立、王制国家になったが長続きしない。1966年には民主革命で王制が倒れ共和制となったが、統治は乱れに乱れた。

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 共和制で大統領もいるのだが事実上無政府状態であるブルンジに、5万ドルの報酬と引き換えにプリンス・マルコはやってくる。米国のスパイ衛星がブルンジ領内に墜落、その乗組員と偵察情報を回収し衛星を破壊するのがミッションである。
 
 東西冷戦期ではあるが、ブルンジ政府(という形態を成していないのだが)は米ソの双方を敵視していて、中国にのみ多少の親しみを示す程度。事実上国際社会から隔絶されているブラック・ゾーンに軍事機密が落ちてしまったのである。
 
 CIAは超人スパイであるマルコを単身派遣する以外の手段を持たなかった・・・という設定だが、今ならオスプレイ数機に海兵隊を乗せて即時奪還に動くだろう。それはともかく、マルコは入国するためにダイヤモンドの密売人というカバーを着ることになり、ブルンジ政府の目はあざむいたもののダイヤの利権をもつヤクザ者につけ狙われるハメになる。
 
 今回は用心棒である2頭のゴリラすら同行できず、マルコもやむなく自ら拳銃を振り回さざるを得ない。現地で気力を失っているベルギー人を鼓舞し、何度も首都ブルンジュブラを脱出しようとするが、ダイヤヤクザや賄賂好きの警察署長に阻まれる。
 
 ルワンダ内戦の時もそうだったが、ブルンジでは15%ほどの少数民族ツチ族が多数のフツ族を支配しているのが紛争の火種になっている。本書でもツチ族の警察署長は悪辣な手段と権力をふるい、市民(フツ族が多い)を虫けらのように殺す。命というものが、極めて「安い」国と言っていいだろう。
 
 今回は美女軍団の登場も多くないし、サディスティックなシーンも少ない。ただ無政府状態で我欲だけを追い求める人々の姿があさましく描かれていて、雰囲気は陰鬱だ。ようやく探し当てた衛星墜落現場だが、乗組員はすでに死亡していた。しかも一人は墜落を生き延びたのに、現地民に食べられてしまったのである。「腹が減っていたから」というコメントが空虚に響く、救いのない物語である。