新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

カナダからのミステリー

 2年前初めてカナダという国を訪れ、トロントという街で数日過ごした。ホテルの側に野球場があったり、ホットドッグ屋台に人が列を作っていたり、まあアメリカと大差はないなと思った。物価もニューヨークなどよりは安いような気がして、好意を持った。それからバンクーバーの旅行にも出かけ、カナダという国が近くなってきた。そんな気分でBook-offで見つけたのが本書。カナダ推理小説協会賞、初代の受賞作とある。

 

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 トロントにある大学の英文学部の教授陣がモントリオールで開催された学会に出かけ、一人の教授がホテルで殴り殺されるという事件が起きた。2つの街にまたがる捜査が必要になり、モントリオール警察のオブライエン部長刑事とトロント警察のソールター警部が協力して捜査にあたることになった。
 
 面白かったのは英語/フランス語の使い分け。二人の捜査官の会話は英語で行われるのだが、オブライエンはあまり英語はうまくない。微妙な言い回しで戸惑ったりする。一方ソールターは、フランス語はさっぱりわからない。モントリオールのあるケベック州だけがフランス語圏で、人口比率としては英語圏が相当多い。二人の会話の中にも「ケベック州の独立」が、冗談ではなく何度か出てくる。
 
 もう一つ面白かったのは、被害者や容疑者の多くが所属する「英文学部」の話。学部長も当然文学者で、専門はロレンスだという。一瞬「アラビアのロレンス」かと思ったが、そうではなく「チャタレイ夫人の恋人」などの著作で知られるロレンスのこと。その他の教授も、特定の詩人や小説家の名を挙げて「xxの研究」と言っている。ふーむ、こういうことをするのが大学教授の業績なのかと、門外漢の僕はミステリーの筋とは関係のないことに感心してしまった。
 
 物語は被害者の教授がモントリオールで急に機嫌が良くなり、「今夜は神々が僕にほほえむ夜だ」と謎めいたことを言って、全員のディナーをごちそうするようになったのは何故かという謎をはらんで進んでゆく。トーンとしてはアメリカ風の警察小説だが、チームではなく2人の捜査官が独自の捜査をする点はイギリス風でもある。
 
 本書の発表は1983年。このころになるとワープロの普及によって英米の警察小説は400ページを超える分量になるのが普通だが、この作品は260ページと非常にコンパクト、その中にカナダの風情や人々の考え方があらわれていて、ミステリーとしてだけではなく興味深いものでした。