戦艦は、20世紀前半の「最終兵器」だった。空母機動部隊や長距離爆撃機、核兵器が現れるまで、保有する戦艦の質×量は、国力の大きな指標だった。戦艦の基本性能は、搭載している巨大な大砲のそれと言っていい。戦艦とは、巨砲を運ぶプラットフォームである。
プラットフォームには、巨砲を目的のところまで運ぶ機動力や障害を排除するための機能も求められる。速力や航続力、防御力、対空火力、探知能力も重視される。だから強力なエンジンを積み、燃料タンク、装甲、対空砲、レーダーなどを備えている。しかし、副砲というのはなんだろう。
イラストは、大和型戦艦である。右舷に向け主砲を振り立て、仰角から見て相当遠方の目標を狙っている、勇ましい姿だ。ここで右舷にある小ぶりの砲塔に、ご注目いただきたい。これは、一般の方にはなじみのないものかもしれない。サイズから見ると副砲だが、大和の副砲は艦橋の前後にあって左右にはないはずだ。宇宙戦艦「ヤマト」も、そうだった。
実はこのイラストは、新造時の大和型戦艦を描いたものである。ひょっとすると、新造時のまま沈んだ「武蔵」かもしれない。航空機の脅威を感じた日本海軍は、レイテ沖海戦で生き残った「大和」に対空火器を増設するために、艦橋左右の副砲を取り除いたのだ。
もともと大和型戦艦の副砲は、艦橋の前後左右に4基あった。主砲は左舷にも右舷にも9門を向けることができたが、副砲も両舷に9門向けることができたのである。副砲は、主砲を向けるべき相手(主力艦たる戦艦・巡洋戦艦)ではない水上戦力を叩くために存在する。その敵とは、巡洋艦や駆逐艦、水雷艇のようなものだろう。日露戦争の殊勲艦「三笠」も、両舷に副砲を並べていた。例の「丁字戦法」は、敵が艦首主砲しか使えないのに味方は主砲全部と半分の副砲が使える利点があった。
その後副砲がどんどん大口径化し、主砲との差がちいさくなった。そこでイギリスが「ドレッドノート」という単一口径の巨砲を積んだ新戦艦を竣工させ、他の戦艦を一気に時代遅れにしてしまった。いわゆる「弩級戦艦」である。究極の新戦艦たる大和級に副砲を積んだのは、設計思想に問題があったのではなかろうか。
戦艦は、単艦で戦うものではない。駆逐艦や水雷艇を防ぐなら、護衛艦を増やせばいいのだから、副砲の役割は大きくないだろう。その上、大和型戦艦の副砲は弱点でもあった。これは最上型軽巡洋艦の主砲(15cm三連装)を乗せたもので、当然ながら装甲は軽巡洋艦相当である。