新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

本格ミステリーからSFまで

 ミステリー界に短編の名手と言われる作家は多いが、本書の著者フレドリック・ブラウンはそのジャンルの広さが際立っている。膨大な作品で知られるアイザック・アシモフ本格ミステリー、サスペンスもの、SFと書き分けるが、ブラウンもこれに匹敵する。

         f:id:nicky-akira:20190418074109p:plain

 
 本書はブラウンを代表する第一短編集であるが、冒頭の本格ミステリー「笑う肉屋」では、ディクスン・カーばりの雪の上に足跡をつけない殺人者が出てくる。カーの長編「テニスコートの殺人」(約300ページ)に似たシチュエーションだが、こちらは30ページで終わってしまう。
 
 収録されている17編は、長いもので30ページ、短いものは8ページしかない。星新一並みのショート・ショートである。どの短編にも必ず「どんでん返し」が待っていて、最後の1行で加害者と被害者が入れ替わったりする。刑務所の死刑執行の話だと思って読んでいると、精神病院だったことが分かって驚く。パターンは全部違うし、もちろんレギュラー登場人物などない。細かな記述も複数の意味を持っていたり、誤解を招くような表現を使っているので油断がならない。プロットそのものがトリックのような作品集だ。
 
 最後に読むように指定されている「うしろを見るな」を読み終わった時、ほとんどの読者はぞっとするのではなかろうか。作者の快心の笑いが聞こえてきそうだ。ブラウンの作品集は高校時代にほとんど読んでいて、物語のテクニックを勉強したように思う。ちょっとは国語能力を上げるのに役立ちましたかね。え?英語で読むべきではなかったかって。いやおっしゃる通り、そうしていれば今英語で苦しむこともなかったかもしれません。