新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

中台もし戦わば

 21世紀初頭、民主化勢力の蜂起によって内戦が拡大した中国に対して、民主化勢力と呼応した台湾軍が本土に逆上陸するというIFを描いたのがこれ。以前紹介した「ステルス駆逐艦カニガム」の第二作である。前作で単艦でアルゼンチン軍のほとんど全てを相手取ることになったカニンガムとギャレット艦長だったが、今回は最前線とはいえ第七艦隊の指揮下に入らざるを得ず米軍内の軋轢という別のリスクも抱え込むことになる。


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 本書が発表された2006年には、中国の経済は今ほど巨大ではなく台湾はハイテク国家として十分な国力(あくまで本土との相対論だが)を持っていた。そこに作者は中国本土の民主化勢力の蜂起から内戦という分断シナリオを導入し、台湾参戦が大きなインパクトを持つ背景を整えた。これで台湾軍も相応の闘いができる。台湾は蒋介石の国民党が本土から移ってきて、現在の国体を作った。それ以前は日本の一部だったし、李登輝はもちろん蒋介石自身も日本の陸軍士官学校の卒業生である。
 
 ではなぜ国民党は毛沢東(共産)軍に敗れたのかというと、国民党・共産党の内戦と日本軍の「侵略」が同時に発生した状況を、毛沢東がうまく利用したからである。蒋介石はたくみに米国等に働きかけ日本軍を追い出すことに成功したものの、続く内戦では戦力を温存していた共産軍に敗れてしまった。共産軍は日本軍とはほとんど戦わず、ある意味逃げ回って時間を稼いだ。国民党軍の疲弊を待っていたとも言うが、まともに戦闘ができるようになるには時間がかかったのだろう。

 そして60年を経て国民党軍が本土に戻ってきたというのが、本書の背景である。追い詰められた中国共産軍は、ついに最終兵器である戦略核ミサイル原潜を就役させる。これを探知した「カニンガム」が、台湾海軍・日本の海上自衛隊らと協力してこのウルフパック(原潜3隻)を無力化するというのがメインストーリー。

 ここに登場する台湾軍は世界中からかき集めたハイテク兵器を持っており、性能で中国共産軍を凌駕する。しかも非公式にではあるが核兵器保有しているという設定である。実際非公認の核保有国というのは、イスラエルはじめいくつかある。日本も海外からは「世界最大のプルトニウム保有国であり、技術もあるので潜在的核兵器保有国」とさえ見られている。

 中国共産軍が核兵器を使えば台湾軍も核で応酬、大惨事になるのを防げというのが今回の指令。ここにいたってギャレット艦長は第七艦隊司令の束縛を離れて突撃、ついには長江を遡上して陸上砲台とも砲火を交える。いくらステルス艦でもこれはやりすぎ、それでも海の男はこうでなくては、とうならせる。あ、アマンダ・ギャレット中佐は女性でした。海の女に訂正します。