ドナルド・E・ウェストレイクという作家は作風の広い人で、いくつかのペンネームを使い分けている。その一つがリチャード・スターク。かれはこの名前で「悪党パーカー」シリーズを20作近く発表している。その第一作が本書(1962年)。
冒頭ニューヨークと思われる街をパーカーが歩いているシーンがある。ポケットには10セント玉ひとつ。ダイムというんだっけ?橋を渡るとき風で橋全体が揺れるのを感じて、パーカーは今まで歩いて渡ったことなどないことに気づく。これがクルマ社会アメリカの実態だ。歩いているというだけで、社会から落ちこぼれた浮浪者として見られるのだ。
パーカーは数カ月前仲間と強盗を働き、9万ドルを手に入れた。しかし仲間や妻に裏切られ、殺されかけたのだ。もちろんカネは持ち逃げされ、傷が癒えた彼は復讐とカネを取り返すために、この街に戻ってきたのである。パーカーは、裏切った仲間やその黒幕のマフィア(本書ではアウトフィットという組織名)の中堅幹部から大幹部までたぐって4万5千ドルを取り戻そうとする。後には死体が残るだけだ。
本書で特徴的なのは、徹底した「お金」の話であること。パーカーが無一文から身なりを整えるために数百ドルを手に入れるための詐欺、パーカーから身を隠そうとする男が選ぶホテルの値段(4部屋のスイートで1泊32ドル!)、女さえもカネで測られる(一晩100ドルの上玉・・・)。