新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

デンマークの現代アクション小説

 ギャビン・ライアル「もっとも危険なゲーム」で扱われたのは、銃を持った人間を最後の狩りの相手とするまでエスカレートしたハンターの異常心理だった。この作品は1963年の発表だが、その50年後やはり北欧を舞台にした同じテーマのアクション小説が生まれている。著者のシュテファン・ヤコブセンデンマーク人、本職は整形外科医という。

        f:id:nicky-akira:20190418184815p:plain

 
 軍人あがりの警備コンサルタントであるミケール・サンダのところに、富豪の娘から極秘の依頼が持ち込まれる。死んだ父親が隠し持っていたDVDを見たところ、数人の迷彩服姿の男たちが、男性を殺害する映像が収められていたのである。
 
 彼女は父親が「もっとも危険なゲーム」を楽しんでいたのではないかと疑い、サンダに真相究明をしてほしいという。クリストファー・ランドン「日時計」では、送られてくる人質の写真から影の長さで撮影現場の緯度経度を割り出す緻密な捜査が描かれる。本書ではDVD映像が手掛かりでより情報量が多く、さらに精緻な捜査が可能になる。他にもサンダが映像から読み取ることは多い。
 
 犯行のバックミュージックとして、クイーンの"We will rock you" が流れていることから、アフガニスタンなどへ派兵されていたデンマーク軍のエリート部隊が関わっているとサンダは推理する。一方エリート部隊を退役した大工の青年が自殺した事件を担当する女性警視リケーネ・イエンソンは、自殺には違いないが背景には大きな謎があるとみてこれを追いかけ始める。
 
 別々の事件を追っていたサンダとイエンセンだが、大工の青年がDVDに写っていた犯人グループのひとりではないかとの疑いが出て、共同戦線を張ることにする。この青年も含めた5名の兵士が写っている写真が手に入り、サンダたちはこれらの元兵士を追うのだがうち2人はすでに戦死、大工の青年のほかにもう一人も殺されてしまった。
 
 犯人グループはサンダやイエンセンにも攻撃を加え、イエンセンの娘もひどい暴行を受ける。あごの骨折などをどのように治療するのかが細かく書かれていて、さすがは整形外科医だと思う。ほかにも端々に医師としての知識が、本書をリアリティのあるものにしている。
 
 ラストシーンは「もっとも危険なゲーム」と同様、スカンジナビア半島の北部のひとけのないところでサンダ・イエンセン対犯人グループの対決になる。クライマックスの決着のつけ方が不満なのと、長すぎて(600ページ超)中だるみが起きるのがやや難点。でも、昔なら20歳代の男女が主人公になるべきところ、サンダもイエンセンも40歳代。おじさん・おばさんの時代なのは、日本も北欧も同じなのでしょう。