新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

監視社会アメリカ、2012(前編)

 作者ブラッド・ソーはライター、プロデューサーなどを経て「傭兵部隊<ライオン>を追え」でデビューしたミリタリー作家である。驚いたことに共和党シンクタンクヘリテージ財団」のメンバーでもある。本書の中にもブルッキングス研究所のレポートが紹介されているが、日本では想像できないほど米国ではシンクタンクの影響力が大きい。

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 僕も「ヘリテージ財団」には知りあいがいて多少は活動内容や実情を知っているのだが、議会・官僚・産業界等への有形無形のメッセージは「これぞアメリカの背骨」と思わせるものがある。作者はそういう知識をふんだんに持っているせいだろう、本書に扱われている「政府もしくはその代理機関が市民を監視し、情報を持つ少数が支配階級となる社会」が、リアリティたっぷりに描かれている。
 
 元SEALのエリート隊員で民間情報組織に所属しているハーヴァスは、パリで活動中に4人組に襲われ同僚を死なせてしまう。4人はなんとか倒したものの、組織のボスはじめ仲間たちと連絡がとれなくなった彼は、スペインへと逃亡する。組織のボスであるカールトンは年老いた元CIA局員、彼も自宅で焼き殺されそうになり潜伏する。組織で生き残ったのは、天才ハッカーニコラス含めて3人だけ。
 
 上巻の300ページ余りは、三人三様の逃亡劇で終始する。彼らを追い詰めているのは民間企業ATS(アダブティブ・テクノロジ・ソリューションズ)であるが、インターネット、防犯カメラ、決済ネットワーク、電話等を傍受し全ての市民を監視している影の支配者である。ATSは政財界の大物15名を取締役にしているだけでなく、政府高官などを買収もしくは脅迫によって操っている。公開されてはまずいことはだれしも多少はあるわけで、現時点では歯向かえるものはいない。
 
 しかし外国での秘密活動になれたハーヴァス、古くからの諜報活動に精通したカールトン、ハッキングに長けたニコラスだけは、その監視網を潜り抜けて再三襲ってくる暗殺者の手から逃げ延びる。彼らはクレジットカードもATMも、携帯電話も使わない。パスポートも何か不都合が起きた場合に使うために用意した偽造品だ。
 
<続く>