新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

監視社会アメリカ、2012(後編)

 ATS(アダプティブ・テクノロジ・ソリューションズ)は国家安全保障会議にも入り込んでいて、極秘抹殺予定者リスト(題名ともなっているブラック・リスト)に勝手に名前を付け加えることも出来る。本来は、オサマ・ビン=ラディンのようなアメリカに敵対する人を載せるリストだが、ATSに都合が悪いカールトンの組織もそこに名を連ねられてしまったわけだ。

 

          f:id:nicky-akira:20190419075126p:plain

 
 元SEALのエリートであるハーヴァスは、原始的なものを含めた様々な武器を駆使して4人組の暗殺部隊を3度にわたり返り討ちにする。ハーヴァスとニコラス以外の全ての部下を失ったカールトンも、元上司であるバンクスの助けを借りて、敵の正体を知ろうとアナログ時代のスパイ活動を展開する。このお二人も80歳前後、人生100年時代を思わせる活躍である。
 
 ATSはデジタル世界をほぼ完全に支配している。「インターネット2.0」という言葉が出てくるが、これは匿名性を排除し、政府に登録された実名でしか使えない新しいインターネットを意味している。ATSがこれを実現できれば、政府(と背後のATS)は、合法的に市民のデジタル活動を把握できるわけだ。
 
 また「デジタル真珠湾攻撃」という言葉もある。電子政府はじめほとんどのものがオンライン化されている現状では、強力なサイバー攻撃真珠湾攻撃のようなインパクトを与えると言う事。ATSはこの脅威を市民の宣伝することで、インターネット2.0で現状のインターネットを置き換える世論を作ろうとしているようだ。
 
 そして実際にインターネットを止めるX-dayを定めて準備をしている。アメリカは大混乱に陥るだろうが、その間ATSの取締役などは家族ぐるみで広大で豪華な避難施設で暮らすことができる。インターネットを止めれば、航空機や列車が衝突、送電がストップし、金融は壊滅状態になると本書にある。僕はさすがにそこまでの被害はないと思うが、こればかりはやってみないとわからない。もちろん、やってはいけない。
 
 カールトンらはATSに対して反撃に出、ついにハーヴァスはATSの牙城に突入する。このあたり、軍事サスペンスとして迫力があるし、最後の「政治決着」も小気味いい。多少土地勘のあるメリーランド、バージニア、ワシントンDCで半分くらいの物語が展開することもあって読みやすかった。本書発表の翌年、アメリカ政府が世界的に「デジタル盗聴」をしていたという疑惑が噴出した。いわゆる「スノーデン事件」である。それに先んじた、ということで貴重なフィクション(?)小説となった。
 
 出色な小説ですが、カールトンの組織(何人いたかは最後まで明かされない)が、優秀なはずなのにハーヴァスらを除いて簡単に抹殺されてしまったのは納得できません。まあそれは大筋とは関係ないのですが、細かいことが気になってしまって・・・。