新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

デフ・マン三度目の挑戦

 1956年に第一作「警官嫌い」が発表されてから、エド・マクベインはコンスタントに87分署シリーズを発表し、1973年に出版された本編は27作目である。12作目「電話魔」で登場しキャレラ刑事に重傷を負わせ、22作目「警官(サツ)」でもおなじみの刑事たちを翻弄した「死んだ耳の男」(デフ・マン)が帰ってきた。


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 アイソラは、冬は凍えるほど寒く夏は溶けるほど暑い。モデレートに暮らせる期間は少ないが、その4月でも刑事部屋は忙しい。犯行現場に子猫を置いて帰るという不思議な空き巣狙いが多発する中、身元不明の磔死体が発見される。例によって、わめきちらす売春婦や不良少年が出入りするのだが、そこに掛かってきた1本の電話。「わたしは帰ってきたよ」と告げられたマイヤー刑事や報告を受けたバーンズ警部は「こいつには会いたくない」とつぶやく。
 
 空き巣狙いと磔殺人事件の捜査が並行して進む中、デフ・マンの犯行計画も進んでゆく。87分署の特徴は全く別の事件が並走し、やがてそれらが結びつくこともあれば無関係に終わることもある。"Who done it?" や"How done it?" と並んで、短編をより合わせたようなプロットの妙もこのシリーズの魅力だ。
 
 刑事部屋にはデフ・マンから、初代FBI長官、昔の大統領、女優、日本軍の戦闘機などの写真が2枚づつ送られてくる。これは犯行予告らしいのだが議論百出するだけで、この時点でデフ・マンに乗せられてしまっているわけだ。やがて犯行は某銀行だとわかるのだが、デフ・マンはそのウラに「時間差攻撃」のようなワナを仕掛けていた。空き巣事件はクリング刑事が名探偵ぶりを発揮して解決する。彼は事件の現場でファッションモデルのオーガスタと知り合い愛し合うようになる。14作目「クレアが死んでいる」で恋人を失った彼にも、モテ期がきたようだ。
 
 磔殺人事件の方を解決したキャレラ刑事は、次にデフ・マンのワナに挑む。作者の脂の乗り切っているころの作品で、スピード感といいプロットといいさすがの手際だと思う。