新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

伝説の狙撃手が見たイラク戦争

 クリス・カイル上等兵曹は特殊部隊SEALのメンバーとして4度イラク戦争に従軍し、160人もの敵を殺したという。米軍はかなり厳密な公式記録精度を持っていて、その場で第三者によって死亡が確認されたものを「射殺」と認めているので、実際に死傷させたのはその倍はあるだろうと思われる。

 
 公式記録として米軍史上最高の射殺記録を持ちながら本人は非常に謙虚で、特に優れていたわけではなく狙撃の機会が多かっただけだと述べている。重要な道路や交差点などを見渡せる位置に付き、隠蔽をして銃を構えて待つのだが、目標が現れてくれなくては仕方がない。カイルは本人も言うように、相手を呼び寄せる運をもっていたようで、パートナーが1発も撃たず何時間も過ごした後に交代すると直ぐに目標が現れたりする。

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 相手の武装勢力の戦術が稚拙だったことも、彼のスコアに貢献している。RPGロケットランチャーは危険な武器なので、これを持った敵を撃つのは優先事項。一方武装勢力にとってもRPGは貴重なので、だれかがそれを拾いに来る。来たらそれを撃つ、また来る、撃つの繰り返しである。
 
 彼は相手としたイラク武装勢力について、3つに分けて説明している。
 
 ・狂信的もしくはそれに近い、米軍を敵視するもの
 ・地域で自衛目的も含めて結成されたもの
 ・強盗、窃盗目的の犯罪集団
 
 もちろん米軍の主敵は最初の連中である。また彼は米軍が訓練した新生イラク政府軍についてもコメントしている。曰く、「優秀なイラク人は皆武装勢力に入り、敵として戦っているのだろう」。良心を持ったいい奴らだが、兵士としてはお話にならないという。このあたりアメリカ国内外に発信される報道とは異なっていることがわかる。敵対するのは狂信的な武装勢力だけで、鍛えられたイラク政府軍が全線で戦い、米軍が引き揚げる日も近いという報道を日本でも見たが、実相はそんなものだったのだ。
 
 味方からは「伝説」と呼ばれ、敵からは「悪魔」と呼ばれた彼の著書はベストセラーになり、映画化もされた。しかし本書発表の1年後、彼は射撃場でPTSDを患った元海兵隊員に射殺されてしまった。謀殺ではなく事故に近いとの見方があるが、疑いは消えない。本書の内容は米軍もチェックしているとのことだが、誰かにとって都合の悪い記述があり、その部分を続編やインタビューで暴露されると困ったことになる人がいたのではなかろうか。
 
 もしそうだとすると、それはイラク人ではない。米軍特にカイルと一緒に戦いその後昇進や軍の外で財を成したような人物だろう。その視点で読むと、2~3は疑わしい仮名が出てくる。有力容疑者は「ランナウェイ」だと思いますが、ミステリーの読み過ぎですかね。