新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

空の架空戦記

 横山信義を海の架空戦記作家とするなら、こちらは空の架空戦記作家と呼ぶべきかもしれない。第二次世界大戦をベースに、少しアイデアを盛り込んでIFの世界を描くという共通点がある。いずれも、20年ほど前に気楽に読んだものである。じゃあ陸の架空戦記作家は?というと、あまり思い浮かばない。柘植久慶の諸作は大変面白いのだが、架空戦記というにはリアルすぎる。もっとも主人公が世界の歴史上の戦場に「降臨」する「逆撃リーズ」は、ある意味架空戦記ではあるが。

 

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 「ラバウル烈風空戦録」は、本編15巻、外伝4巻を出したところで中断したままになっている、未完の大作。大和魂は人一倍だが、不器用な一面を持つ青年航空兵風間健児を主人公に、歴史より少し航空技術が優れた大日本帝国の闘いを描いている。
 
 表紙の絵は、本土空襲にやってきた超空の要塞B-29に襲い掛かる、ジェットエンジン搭載型「震電」である。30mm機関砲4門を機首に集中、時速840kmの高速を誇るという設定で、これならB-29といえど蹴散らすことができただろう。
 
 題名にある「烈風」は、零式艦上戦闘機の後継として試作開発が進められたが、実戦参加に至らなかった幻の戦闘機。本書では、1943年に制式化されソロモン戦線に登場する。作者もまともに米国とあたれば勝機がないことは承知していたようで、徹底的に航空主兵の考え方をとり運にも恵まれて日本軍の航空戦力が向上した状況を作り出そうとしている。
 
 たとえば史実では旧式戦艦「伊勢」「日向」は、後部の主砲4門を下して艦上爆撃機20機ほどを搭載できるように改装、航空戦艦と称したが、本書では「扶桑」「山城」含めた全艦が航空母艦に改装されてしまっている。大鑑巨砲主義者である横山信義なら、激怒しそうな設定ではある。
 
 またシンガポールを攻略した時、そこでドック入りしていた英海軍の装甲空母「インドミダブル」を接収、これを「剛龍」と命名して戦列に加えている。同艦は主人公らの航空隊を乗せて出撃、米軍の急降下爆撃機から500kg爆弾の直撃を受けるも、装甲版がこれに耐えた。ミッドウェーの再現は成らなかったのである。
 
 久しぶりに本屋で見つけて外伝を買った。まあ史実や冷静な戦力分析からすると子供だましのような設定ですが、気楽に読める本ですね。