新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

狙撃銃モシンナガンM1891

 アンディ・マクナブも、SAS出身の覆面作家である。湾岸戦争で「ブラボー・ツー・ゼロ」という部隊に所属し、イラク軍のスカッドミサイル発射拠点を探るパトロールを指揮した。任務の途中で敵に発見され8名の隊員のうち3名が戦死、マクナブを含む4名が捕虜となった。唯一逃げ延びたのが、これも覆面作家として知られるクリス・ライアンである。マクナブは6週間捕らわれの身であり、その間に相当痛めつけられたらしい。

 
 退役後部隊名ののままの「ブラボー・ツー・ゼロ」で作家デビュー、これはノンフィクションの迫力を持った小説だった。派手な戦闘シーンよりは延々続く拷問の描写が長く、読者の好みは分かれるところだ。その後、一般社会で生きるのが不器用な元SAS隊員ニック・ストーンを主人公にしたシリーズもので人気を博した。本書は、その第四作である。

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 殺された親友夫妻の忘れ形見である少女ケリーを抱えて生活費に困ったニックは、やむなく英国政府の暗殺ミッションに加わることになる。米軍が撤退して政治的空白となったパナマに中国資本が進出してきて、太平洋と大西洋をつなぐ「チョーク・ポイント」に危機が迫っていた。ニックはパナマを狙うチャイニーズ・マフィアのボスの息子マイケルの暗殺を命じられて、パナマに潜入する。
 
 暗殺手段は「狙撃」。現地のアメリカ人夫婦に支援されて、ニックはターゲットの周りを調査する。この夫妻、夫は先代からパナマのゾーンという地域に暮らしているパナマ生まれ。ゾーンとはパナマ運河周辺の米軍支配地域だったところをいう。
 
 妻は米軍高官の娘で、父親がヴェトナム戦争で鹵獲したモシンナガン狙撃銃を整備して持っている。ニックは、マイケルの狙撃にこのモシンナガンを使おうと考える。モシンナガンはロシア帝国の制式小銃で、1891年に採用されている。日露戦争でも使われたはずだ。口径は7.62mm、5連発のボルトアクションライフルで、重量4kgと軽いが十分な殺傷力がある。ニックが手に取った銃は1938年に製造されたもので、独ソ戦を戦った後ソ連から北ヴェトナム軍に贈られたようだ。
 
 整備はされているが古いこの銃を300mほどの距離で狙撃に使えるように、ニックは調整してゆく。このプロセスが微に入り細にわたるのがプロらしいところ。実際に狙撃の準備をした経験がないと、書けないような迫力だ。戦闘シーンの迫力ではマーク・グリーニーの作品も凄いが、マクナブのそれはもう一段緻密なように思う。ただあまりに緻密なので、読者がどちらを好むかは人によるだろう。
 
 ニックは強いヒーローではあるが、失敗もするし迷いも悩みもする。狙いを外してしまうこともある。しかし、その忍耐力は超一流だ。これはジャングルの虫や泥濘、激しい雨などに逢っても黙々と任務を果たそうとする姿や、捕虜になって拷問を受けてもこれに耐える姿から窺える。いろいろなミリタリー小説を読んだのですが、リアリティーという意味では一番凄いのがアンディ・マクナブの作品です。