海が大好きで海洋冒険譚を膨大に公表しているクライブ・カッスラーの、2013年の作品が本書である。これまで国立海中海洋機関(NUMA)の冒険家ダーク。ピットを主人公にしたものがたくさん出版されたが、日本ではその多くが絶版になっているらしい。
ダーク・ピットものは一時期面白く読んだのだが、沈船の謎・世界征服を企むヤカラ・大規模な環境兵器などがお決まりで出てきて、そのうちに食傷気味になった。恐らく2/3くらい読んでからは、新作購入をしなくなった。ダーク・ピットと相棒ジョルディーニョの超人的な活躍も、少し度を過ぎてきたかもしれないと思うようになっていた。
そこで新シリーズとして、義足の冒険家ファン・カブリーヨが登場する。カブリーヨは実業家であり<コーポレーション>という組織の会長(Chairman)であるが、古ぼけた貨物船に偽装したハイテク艦「オレゴン」の船長として七つの海の冒険に乗り出す。カッスラーの常套手段だが、100年以上前の大西洋での海難事故が冒頭描かれ、その時行方不明になった船の残骸が旧ソ連のアラル海で見つかるという謎が最後まで解き明かされない。
果たしてフィラデルフィア・エクペリメントのような瞬間移動は可能なのか、巨大な磁場を作り出す兵器は存在するのか、作者の仕掛けた大掛かりなトリックが読者の前に横たわる。それを縦糸に、旧ソ連の軍人が繰り広げる悪事を、カブリーヨと「オレゴン」が追いかける姿が描かれる。クライマックスは、尖閣諸島。中国軍の不穏な動きに対応するために横須賀から出撃した空母打撃部隊に中国軍のステルス艇が忍び寄ろうとするところで、緊張感はMAXになる。
世界最強の兵器である空母をどうやって叩くかは、米国と対峙する場合は考えなくてはならない命題である。本書ではそれを、ステルス艇と強力な磁力線兵器で中国軍がやってのけようとする。