新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

刑事たちのホームドラマ

 エド・マクベインの87分署シリーズでは、何人かの刑事たちが主人公である。メインキャラクターは(殺すことができなくなったので)不死身のキャレラ二級刑事。このほか、長身・金髪の二枚目クリング三級刑事、薄い頭髪を気にするマイヤー二級刑事、海軍上がりの赤毛大男ホース二級刑事、小柄なジュードーの達人ウィルス三級刑事と刑事部屋の親分バーンズ警部あたりがレギュラーと言っていい。

 
 87分署シリーズは、何本かの中短編をよりあわせたような構成になっていることが多い。現実同様刑事部屋には複数の事件が持ち込まれるし、刑事たちにもプライベートな生活がある。時々、彼らのプライベートストーリーが語られることがあって、これが読者に親近感を持たせることにもつながる。
 
 キャレラ刑事の妻テディはろうあ者だが飛び切りの美女、二人の間には男女の双子がいて本書の頃には10歳ほどに育っている。初期の作品では、テディ自身が事件に巻き込まれたり夫を救うために思い切った行動に出ることもあった。最近は子育てに忙しいのか、出番が少ない。

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 マイヤー刑事は子煩悩な父親、妻とは多少ぎくしゃくしているが立派な家庭人だ。ホース刑事は独身主義で、多少プレイボーイっぽいところがある。バーンズ警部の息子がワルに誘われたのを救ったのも、キャレラ刑事だった。そんなエピソードを混ぜながら、大河シリーズは続いている。
 
 プライベートなシーンが多いのが、若手の二枚目クリング刑事。第二作「電話魔」で出会った恋人クレアを銃乱射事件で亡くし、その後何人かと良い仲になるものの長続きしなかった。それがある事件でファッションモデルのオーガスタと知りあい、結婚した。
 
 結婚式当日にオーガスタが誘拐されるという事件も乗り越えて二人は新婚生活に入るのだが、もともと住む世界が違うゆえの摩擦が生じる。オーガスタの収入は夫の5倍。仕事柄社交界に出入りせざるを得ないが、クリングはそういうパーティが嫌いだ。本書では、メインの殺人事件をキャレラ刑事が追いかけるかたわら、クリングが妻の浮気を疑って迷う姿が並行して描かれる。
 
 架空都市アイソラは東海岸にあるようで、被害者の妻が犯行当時西海岸にいたことから飛行機を使ったアリバイの捜査の過程も面白い。一方クリングはついに本職の尾行術を使ってオーガスタの身辺を探り始める。女運の悪い二枚目バート・クリングの悩みをモチーフにした一冊である。