「レッドオクトーバーを追え」「レッドストーム・ライジング」の2作で、トム・クランシーの重要な協力者を務めた元海軍の分析官でゲーマーのラリー・ボンドが、自ら執筆したのが本書である。北大西洋での潜水艦追撃戦から西ヨーロッパでの大規模戦闘にスケールアップしてきた2人の著作だが、3作目はどうするか激論があったのだろうと僕が推測したことは、以前紹介した。
結局たもとを分かつことになった2人だが、トム・クランシーは「愛国者のゲーム」というテロをテーマに選んで、大規模戦争ものからは一歩下がった。逆にラリー・ボンドは、朝鮮半島に限定しながらも陸海空全軍が衝突する本格的な戦争小説の分野を追及することにしたのだ。
最初に本書を読んだ頃は、ワシントンDCはもちろんソウルにも行ったことがなく、作中に出てくる通りや建物、組織等についての知識はゼロだった。昨今いくらかその世界との交流ができて、よりリアリティを感じることができるようになった。
韓国では、朝鮮半島統一派や学生のデモが頻発し、政権が苦慮している。デモに対して強硬な対応をした治安部隊が偶発事故でデモ隊に発砲し、多くの犠牲者がでたことを契機に政権はますます追い込まれることになった。政権に見切りをつけた強硬派の軍人がクーデターを企画、これは未遂に終わったものの韓国軍の士気は低下する。さらにクーデターへの関与を疑われた多くの指揮官級軍人が拘束され、さらに戦力を弱めることになる。このエピソードはスターリンの粛清で赤軍が弱体化したことを思わせる。
そのような韓国に対し(現実同様)貿易摩擦に苦しむ米国では、不均衡貿易を是正しなければ在韓米軍を引き揚げるという法案が成立してしまう。今のトランプ政権の、米韓FTA見直しなどと同じような話だ。このように弱体化した米韓軍の状況を見て、ソ連から最新の武器を極秘に供与された金正日は、南朝鮮解放のため「レッド・フェニックス(朱雀)作戦」を発動する。
<続く>