新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ドイツの犯罪文学

 ドイツのミステリーというのは、過去に1冊しか読んだことがない。ただ最近は、創元社などが少しづつ翻訳して出版している。本屋大賞というものがあって、ある意味書店のキャンペーンのようなものだが、翻訳小説部門があるのを初めて知った。本書は、2012年本屋大賞翻訳部門賞で首位をとったものである。

 
 フェルディナント・フォン・シーラッハという作者も、初めてのお目見え。フォンと付いているから、貴族の末裔なのかと思う。テーマも長さもまちまちな11の短編が収まっていて、読後感としてはバラエティ豊かな「奇妙な味」の短編集だなということ。サキやロアルド・ダールに近い作風の犯罪小説集であろう。

         f:id:nicky-akira:20190421103235p:plain

 
 何作か「私」という人物が物語の後半に登場し、逮捕された容疑者から話を聞いたり、捜査状況を調べたりしている。「サマータイム」では、弁護士としてペリーメイスンばりに法廷で謎解きをし、容疑者を救っている。
 
 背景にあるのは「参審員」という制度。これはドイツの司法において、米国の陪審員・日本の裁判員のような位置づけらしい。有罪無罪を決めるだけの陪審員と違い、量刑まで定めるというからここは裁判員と同じだ。しかし陪審員裁判員が事件毎に招集・任命されるのと違い、任期制で複数の事件を担当することになる。
 
 物語の舞台はミュンヘンなど南ドイツで、パレスチナ難民やネオナチ風の若者など、世相を反映した人物が登場する。広がる格差や移民・難民に対する差別など、すでに10年ほど前から社会問題になっていたことがよくわかる。
 
 ベルリンに代表される「北」と違って、バイエルン州(ドイツは連邦国家で13州からなる)やバーデン・ウィッツベルグ州など「南」では、住民の多様性が大きい。同じドイツ人でも民族的にも微妙に違うようだ。
 
 本書の全編をつらぬく思想は、「物事は込み入っている。犯罪もそのひとつだ」という亡くなった裁判官の言葉らしい。それゆえ「サマータイム」のように、スッキリした解決になるものは少ない。正直ラストシーンの意味がわからないものもあった。まあ、これがどうして本屋大賞なのか、わかりませんでした。