新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

不良少女とおせっかい探偵

 名作といわれる「初秋」では、ボストンの私立探偵スペンサーはひよわで自立できない少年の心身を鍛え、一人前の男への入口へと誘った。本来の私立探偵としての依頼の範囲を越えた「おせっかい」な行動の顛末がつづられて、多くの読者の共感をよんだ。

 
 ロバート・B・パーカーが世に送り込んだスペンサーという私立探偵、朝鮮戦争に従軍しボクサー経験もあるタフガイなのだが、頻繁に警句や無駄口を叩き健康志向で料理も大好きという先輩格のハードボイルド探偵たちとはちょっと違うキャラ。独自の世界観やモラルを持っていて、理想主義と現実主義の微妙なマリアージュを見せる。

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 そんなスペンサーが、今度は売春組織に捕らわれた不良少女の救出を依頼される。州の教育委員会など本来生徒・児童を守らなくてはいけない人たちに、少女買春の常習者がいるくらいの腐敗・乱行が背景にある。
 
 スペンサーや相棒のホーク、生徒のカウンセラーでもあるスペンサーの恋人スーザンらの前に立ちふさがるのは表面的には売春組織であるが、実際にはスペンサーが戦うのは不良少女たちの荒んだ心である。冷たい家庭に育ち、家に居づらくなって高校を中退し行方をくらましたエイプリルは、まだ未成年。ある日、ボストンの歓楽街でいかがわしい行為をしているところを父親に目撃される。
 
 両親からの連絡で、カウンセラーのスーザンが紹介したのが少女を見つけ救出してくる役割のスペンサー。しかし父親は「あんなふしだらな女は娘と思わない」と言い、母親も煮え切らない。報酬1ドルで救出を引き受けたスペンサーは、同じように失踪している少女たちがいることをつきとめ、そのうちの一人が中年男性と暮らしている家を見つける。売春組織のゴリラ共と戦いながら、ホークと共にエイプリルを救出するのだが、エイプリルは家に帰ることを拒否する。
 
 売春窟に戻るのはもちろん嫌だが家にも戻れない少女が生きていけるようにするため、スペンサーは非倫理的だが現実的な提案をする。「初秋」と合わせて読むと、作者の問題を抱えた少年少女たちへの、ある意味厳しい目を感じることができます。