新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

たどりついた境地(前編)

 「どんでん返し職人」として知られるジェフリー・ディーヴァーは、作中にとりあげるテーマを徹底的に調査することでも知られている。このブログで取り上げた諸作以外にも、多くの習作・傑作があり、読むたびに勉強させられることは間違いがない。例えば、

         f:id:nicky-akira:20190421153555p:plain

 
 静寂の叫び:ろうあ者の世界
 悪魔の涙:筆跡鑑定
 青い虚空:サイバー空間
 獣たちの庭園:ナチスドイツの終焉
 
 のようなものが挙げられよう。そして彼は「ボーンコレクター」でほぼ首から下がマヒした天才犯罪学者リンカーン・ライムシリーズに到達する。ここでは、現代の鑑識活動の最先端技術が紹介されている。
 
 「ボーンコレクター」は名優デンゼル・ワシントン主演で映画化されたものの、小説ほどの評価は得られなかった。僕は見ていないので推測するしかないが、小説のスピード感が映像で表せなかったのではないかと思っている。
 
 ディーヴァーは当初リンカーン・ライムものをシリーズとして書くことは考えていなかったのだろう。1作で書きたかったこと全てを書いてしまったような部分が感じられる。 彼はデビュー間もないころ、マンハッタンのポップなおねえちゃんであるルーンという主人公を3作に渡って登場させた。これについては、習作だったのだろうと以前紹介した。
 
 それ以降は単発ものを発表しつづけていたのだが、リンカーン・ライムについては続編「コフィン・ダンサー」を書き、「エンプティ・チェアー」「石の猿」と続けることになった。ヒットによって出版社が続編やシリーズ化を求めるのは当然のことで、ディーヴァーは単発ものとリンカーン・ライムものを交互に書くようになっていった。
 
 ただ、ほぼ全身マヒの捜査官が鑑識技術を駆使してという設定には、そうそうバリエーションがあるわけではない。「エンプティ・チェアー」では舞台を南部に移してライムのパートナーである赤毛の婦人警官アメリア・サックスの冒険譚にし、「石の猿」では中国からの移民問題に目を向けるなど変化球を投げていた。
 
 しかしライムシリーズの5作目にあたる本書では、本拠地ニューヨークで天才的な魔術師との対決という本来の速球を投げてきた。神出鬼没の犯罪者を相手にしてきたライムだが、今回の敵はフーディーニに傾倒したという最強(凶)のマジシャン、相手にとって不足はない。元来ミステリーと奇術の組み合わせは相性がよく、ディクスン・カーは奇術的手法を好んで使ったし、クレイトン・ロースンはレギュラー探偵を奇術師に設定していた。
 
<続く>