新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ドイツが二つあったころ

 そんな時代が終わろうとしてドイツ統一が取りざたされていたが、フランスの有名なドイツ嫌いの人がインタビューに応えて「皆さんは私がドイツを好もしく思っていないと思われているようだが、実はそうではない、ドイツは大好きだ。だからこそ、これからも2つあって欲しいと思っている」と言った。フランス流のエスプリなのだろうか?


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 今回のマルコ殿下のミッションは、2つのドイツの象徴とも言うべき「ベルリンの壁」を越えること。巻頭に、西ベルリンのティアガルデンから、東ベルリンのブランデンブルク門を含む周辺地図が載っていて、分断の実感が湧いてくる。本編はほとんど全てこのエリアで物語が展開する。
 
 ソ連ノーベル賞受賞物理学者ウォルフガング・マン教授は、ICBM関連開発に従事していたが故国西ドイツへの亡命を企て東ベルリンまではやってきた。亡命支援を依頼されたCIAとしては、何としても手に入れたい人材(情報源)なのだが、このところの「壁」は、警戒厳重で脱出させる方法が思いつかない。そこで、巨額の報酬でマルコ殿下にこの「Mission Impossible」を委ねた。
 
 よく知らなかったのだが、戦前からの地下鉄も運行していて、閉鎖した東ベルリン内の数駅を通過するらしい。当然、閉鎖駅もトンネルも警戒は厳重だ。壁の周辺には東ドイツ軍/警察が監視していて、不審者には問答無用で銃弾が飛んでくる。上空も地上も地下も封鎖されたところから、この老いた教授を脱出させるかということだから、マルコは「僕は魔術師マーリンではない」と独白する。
 
 この無謀なミッションに、デビュー作「イスタンブール潜水艦消失」でマルコの命を狙い、その後マルコのリーツェン城の執事となったトルコ人クリサンテム以下のトルコ勢力が力を貸す。さらに、3作目の登場になる武器商人サマンサ・アドラー伯爵夫人も絡んでくる。「伯爵夫人の舞踏会」でも、誘拐されたマルコの恋人を救出するのに手を貸しているが、とても味方とは言いづらい。マルコは奇策を持ってマン教授に壁を越えさせるのだが、自分たちは壁の中央で立ち往生してしまう。そこに、アドラー夫人のMG-42の援護射撃が飛んでくる。
 
 米ソ冷戦の2極構造が中国等の台頭によって揺らいでいた1974年、15年後の「壁崩壊」を予期してかしないでか、東ドイツ/ベルリンの矛盾を描いた佳作だと思う。ベルリンの東側の復興が進んでいない表現や描写が散見される。僕は、マルコシリーズはヨーロッパを舞台にしたものが好きですね。